【脾は運化の中枢】中医養生学

今回は中医学における「脾」と「運化」に関する解説です。

1. 脾の役割と飲食物の流れ

飲食物の消化・吸収の流れ

  1. 初期消化(口~胃):

    • 飲食物は口で唾液(アミラーゼ)と混ざり、第一次消化が始まる。

    • 食道を通って胃に送られ、さらに消化されて「ドロドロの状態」になります。

  2. 小腸での分別:

    • 小腸に送られた飲食物は、必要な成分(精微)と不要なカス(糟粕)に分けられます。

    • 精微: 栄養成分であり、これが脾に送られます。

    • 糟粕: 消化しきれないカスで、大腸や膀胱に送られ、便や尿として排泄されます。

脾の役割

  • 吸収と変化:
    脾は精微を吸収し、気血(生命エネルギーと血液の元)を作り出します。このエネルギーは心と肺を通して全身に供給されます。

  • 消化そのものではない:
    脾は直接食べ物を分解するのではなく、吸収した精微を変換し、全身に巡らせる「エネルギーの中枢」です。

2. 運化(脾の主な機能)の詳細

運化とは

  • 「運」: 脾が吸収した栄養や水分を、必要な場所に「運ぶ」こと。

  • 「化」: 吸収した栄養や水分を「気血」や「体液」に変化させること。

運化の二大要素

  1. 水穀の運化:
    飲食物を分解し、精微を生み出して全身に供給する。

    • これがスムーズであれば、消化吸収が良好で、エネルギーが充実します。

    • 運化が滞ると、消化不良、倦怠感、軟便、下痢などが現れます。

  2. 水液の運化:
    水分代謝を管理し、余分な水分を湿として排泄する。

    • 水液運化が滞ると、むくみ、尿量減少、体の重だるさなどが起きます。

    • 逆に体内に湿が溜まると、湿邪(体の重さやだるさ、消化不良を伴う症状)が現れます。

3. 運化を支える要素

脾気と脾陽

  • 脾気: 脾が運化を行うためのエネルギー源です。これが不足すると、消化吸収力が低下します。

    • 症状: 倦怠感、疲労感、食欲不振など。

  • 脾陽: 脾気を温め、活性化する力。脾陽が弱ると消化吸収だけでなく、全身の冷えや代謝の低下につながります。

    • 症状: 下痢、冷え、むくみなど。

脾陽と腎陽の関係

  • 脾陽の基盤は腎陽にあります。

    • 腎陽は全身の陽気(温めるエネルギー)の源であり、脾陽を支える「エネルギータンク」のような存在です。

    • 高齢や腎の機能低下は、脾陽の低下を招きます。

例え

  • 胃腸は鍋、脾はガス:
    胃腸(鍋)は飲食物を消化する役割を持ちますが、それを支えるエネルギー(ガス)を供給するのが脾です。

    • ガス(脾陽)が足りなければ、鍋(胃腸)は正常に機能せず、消化が滞ります。

4. 脾の不調とその症状

脾が失調した場合

  1. 水穀の不調(飲食物の消化吸収が悪化):

    • お腹が張る

    • 軟便や下痢

    • 食欲不振

    • 倦怠感、疲れやすい

  2. 水液の不調(水分代謝の乱れ):

    • むくみ

    • 尿量減少

    • 体が重だるい

  3. 湿邪の影響:

    • 過剰な水液が湿邪に変わると、さらなる不調を引き起こします。

脾の不調の原因を考える

  • 脾そのものを補う薬(例: 参苓白朮散、六君子湯など)が効果を発揮しない場合、腎陽の不足が根本原因である可能性があります。

5. 脾を補う治療と腎との連携

脾の補強

  • 脾気や脾陽を補う薬:

    • 参苓白朮散: 消化不良や体力低下に。

    • 六君子湯: 胃腸の弱りや気の不足に。

腎陽を補う治療

  • 腎陽の低下が原因の場合、腎を補う治療が重要です。

    • 八味地黄丸: 腎陽を補い、脾陽の低下を防ぎます。

    • 参馬補腎丸: 脾への負担を抑えつつ腎を補う薬。

    • 海馬補腎丸: より強力な補腎陽薬。ただし、強すぎる場合もあるため、症状に応じて調整が必要。

6. 脾と腎を総合的に考える重要性

  • 消化不良や下痢、疲労感が改善しない場合、脾単独ではなく腎の機能を総合的に評価する必要があります。

  • 特に、高齢者や下半身の冷え・頻尿を伴う症状では、腎陽を補うことで脾陽の回復が期待されます。

まとめ

  • は飲食物の精微を吸収し、気血を作る中枢です。消化そのものではなく、吸収・変化が主な役割です。

  • 脾陽は腎陽に支えられており、高齢や腎の衰えが脾の不調に直結します。

  • 運化が失調すると、消化不良や湿邪の症状が現れます。改善しない場合は、脾だけでなく腎の状態も考慮し、適切な補腎治療を組み合わせることが重要です。

この総合的な視点で脾の働きを理解すると、治療や日常の健康管理に役立ちます。

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