【かゆみや乾燥に】当帰飲子(とうきいんし)は皮膚トラブルに使用!
当帰飲子(とうきいんし)は、中医学において「血虚」による皮膚症状の改善に使用される漢方薬の一つです。この薬は、主に皮膚のかゆみや乾燥症状を和らげる目的で使用され、特に血液や潤いが不足することによって引き起こされる皮膚トラブルに効果を発揮します。当帰飲子の構成や作用、そして治療における位置づけについて、詳しく解説します。
1. 当帰飲子の基本的な作用と目的
当帰飲子は、皮膚の「血虚」に起因する症状、特に乾燥やかゆみ、ひび割れといった症状に対処する漢方薬です。「血虚」とは、中医学で言うところの「血」が不足している状態を指します。血虚が進行すると、栄養や潤いが全身の皮膚に十分に届かず、乾燥肌やかゆみ、さらには炎症や発赤といった皮膚トラブルを引き起こすことがあります。このため、当帰飲子は「補血」(血を補う)と「活血」(血の巡りを良くする)という二つの作用を持ち合わせた薬剤です。
2. 当帰飲子の成分とそれぞれの効果
当帰飲子は、以下の生薬で構成されています。それぞれの成分には異なる働きがあり、相互に補完し合うことで皮膚の健康状態を改善します。
2.1 四物湯の成分 - 補血と活血
当帰飲子の基礎となるのが「四物湯(しもつとう)」の成分です。四物湯は、血を補い、その巡りを良くするために使用される代表的な処方で、以下の四つの生薬から構成されています。
当帰(とうき):血液を補いながら、血行を促進する働きがあります。特に女性の体質改善に使われることが多く、月経不順や貧血などの改善にも利用されます。
芍薬(しゃくやく):筋肉の緊張を和らげ、血液の流れをスムーズにします。また、鎮痛作用もあり、体の痛みを和らげる効果も期待されます。
川芎(せんきゅう):血行を良くし、冷え性を改善する作用があります。血虚の症状である顔色の悪さや頭痛を緩和する効果もあります。
地黄(じおう):血を補いながら、体を潤す働きがあります。皮膚や髪の潤いを保つ効果もあり、乾燥肌に対して効果的です。
2.2 何首烏(かしゅう) - 補血と滋陰
何首烏は、「補血」と「滋陰(じいん)」の作用を持つ生薬で、血と体の潤いを増加させる働きがあります。陰とは中医学で言う「陰陽」の陰を指し、主に潤いを供給する役割を持ちます。したがって、何首烏は血虚による乾燥肌や、肌の張りを改善するための成分として作用します。
※何首烏はタデ科(Polygonaeae)のツルドクダミです。カシューナッツのカシューはウルシ科の常緑高木なので違うものです。
2.3 蒺藜子(しつりし)、防風(ぼうふう)、荊芥(けいがい) - 去風作用
これらの生薬は、かゆみを抑える作用を持つ「去風(きょふう)」成分です。中医学では、かゆみは「風邪(ふうじゃ)」として分類され、風邪の影響を取り除くことで症状を和らげると考えます。以下がそれぞれの役割です。
※風邪の元となるものを外邪(がいじゃ)といいます。詳しくは中基礎理論で。
蒺藜子(しつりし):去風の作用に加えて、皮膚のトラブルを和らげる効果があります。
防風(ぼうふう):風邪を取り除くことで、かゆみの元を外に排出します。また、関節や筋肉の痛みを緩和する作用も持っています。
荊芥(けいがい):表面に現れる症状を和らげ、かゆみを抑制します。
2.4 黄耆(おうぎ)・甘草(かんぞう) - 補気健脾
黄耆と甘草は「補気健脾(ほきけんぴ)」としての作用を持ち、体のエネルギーを補い、消化器系(脾)を助けることで、全身の健康状態を底上げします。また、黄耆には皮膚を強化する働きがあり、皮膚の乾燥を防ぐことにもつながります。甘草は薬の効果を調和させるとともに、かゆみを抑える作用もあります。
3. 当帰飲子の適応症状
当帰飲子は、以下のような症状に対して効果が期待できます。
血虚による皮膚の乾燥やかゆみ:血虚が進むと皮膚に栄養と潤いが行き渡らず、乾燥しやすくなります。当帰飲子は補血と補陰の作用で、皮膚の水分バランスを整えます。
アトピー性皮膚炎:血虚が原因で皮膚が炎症を起こしやすくなる場合、当帰飲子が根本的な原因を改善し、かゆみを抑制します。
高齢者の皮膚トラブル:年齢を重ねると血虚の傾向が強まり、皮膚の潤いが失われやすくなります。年齢に関係なく、血虚が根底にある場合に当帰飲子は有効です。
4. 当帰飲子の使用方法と注意点
当帰飲子は基本的に内服薬として使用されますが、以下のような点に注意が必要です。
体質による適応:血虚が根底にある場合には非常に有効ですが、そうでない場合は効果が期待できないことがあります。使用前に血虚の有無を確認することが重要です。
季節による影響:当帰飲子はその構成成分全体で効果を発揮するため、季節に関わらず使用可能です。特定の季節にのみ使用が推奨されるわけではありません。
他の漢方薬との併用:血虚の程度や症状に応じて他の漢方薬と併用することもありますが、相互作用に留意する必要があります。
5. 中医学における「血虚」と皮膚症状の関係
中医学では、血液は体の隅々まで栄養と潤いを供給する「滋養源」として捉えられています。そのため、血が不足すると、肌や髪、爪などが乾燥し、潤いが失われていくと考えられます。血虚によって皮膚が乾燥すると、痒みや赤み、さらには熱感といった炎症症状が生じることもあります。
6. 皮膚症状を改善するための漢方的アプローチ
皮膚症状の治療において、中医学では個人の体質や症状に応じた処方が重視されます。具体的には、以下のような流れで治療を行います。
血虚の改善:補血作用のある生薬を使用して、血を補い、栄養と潤いを皮膚に供給します。
去風によるかゆみの抑制:かゆみは風邪の一種と考えられるため、去風の生薬を使用して風邪を外に排出します。
皮膚の保湿と炎症の抑制:皮膚の潤いを補い、炎症が起きないような健康的な状態に戻します。
7. 当帰飲子の効能とその他の漢方薬との比較
当帰飲子は血虚による乾燥やかゆみの症状に効果的ですが、他の血虚対策の漢方薬と比較しても特色があります。例えば、「四物湯」は補血作用が中心で、一般的な血虚に対して用いられますが、かゆみ止めの効果は含まれていません。一方、当帰飲子には去風作用があるため、かゆみを伴う皮膚症状にはより適しています。
また、血虚が進行し発熱を伴う場合には「当帰芍薬散」が有効です。これには利尿作用もあり、水分の代謝異常を改善することで、むくみを緩和し、血虚による様々な不調を整えます。
8. まとめと展望
当帰飲子は、血虚に伴う皮膚トラブルの改善に特化した漢方薬で、皮膚の乾燥やかゆみを和らげるとともに、皮膚を潤し、栄養を供給することで健康的な皮膚状態を取り戻すサポートをします。特に血虚に伴う乾燥やかゆみ、アトピー症状を持つ方にとっては重要な選択肢となります。また、血虚の改善は皮膚症状だけでなく、体全体の健康を底上げするためにも有益です。