【肝の蔵象学説】中医基礎理論
蔵象学説における「肝」の解説
1. 肝の生理的機能
1-1. 疏泄(そせつ)を主る
疏泄の働き:
「気」の流れを調整し、体内のエネルギーや代謝を円滑にする。
特に自律神経系のバランスを司り、心身の調和を保つ。
疏泄の重要性:
情緒の安定:
肝の疏泄が滞るとイライラや抑鬱感、ため息が多くなる。
消化機能:
肝の疏泄は胃腸の働きをサポートし、食べ物の消化・吸収を促進。
月経の調整:
肝の疏泄が乱れると月経痛や月経不順が発生。
1-2. 蔵血(ぞうけつ)を主る
蔵血の働き:
肝は血液を蓄え、必要に応じて全身に供給する。
肝血は特に目、筋肉、爪、皮膚などを滋養する。
蔵血の重要性:
月経との関係:
女性にとって肝血は月経の正常な機能に欠かせない。
肝血が不足すると月経不順や経血量の減少が起こる。
目の健康:
肝血は目を潤し、視力を保つ。
肝血不足は目の疲れ、乾燥感、かすみ目を引き起こす。
筋肉と爪:
筋肉を柔軟に保ち、爪を健康的に維持する。
肝血不足では筋肉のけいれんや爪のもろさが現れる。
2. 肝と関連する身体部位・特性
2-1. 肝の開竅:目
肝は目に開竅し、目の潤いや機能を司る。
症状:
肝血不足:目の乾燥、視力低下。
肝陽上亢:目の充血、眩しさ。
2-2. 肝の液:涙
涙は肝の液体で、目を潤す働きがある。
症状:
肝の不調:涙が出にくい(ドライアイ)または過剰に出る。
2-3. 肝の華:爪
爪の健康状態は肝血の充実度を反映。
症状:
肝血不足:爪が薄い、割れやすい、縦線が目立つ。
2-4. 肝の表裏関係:胆
肝と胆は密接な関係にあり、胆は決断力を司る。
肝の疏泄が滞ると:
優柔不断や決断力の低下が生じる。
3. 肝の構成要素とその働き
3-1. 肝気
機能:
推動作用を担当し、疏泄をスムーズにする。
不足時:
疏泄機能が低下し、情緒不安定や消化不良が起こる。
3-2. 肝血
機能:
血液を蓄え、全身を濡養(滋養)する。
不足時:
貧血、目のかすみ、筋肉の引きつり、月経不順が現れる。
3-3. 肝陽
機能:
温煦作用で疏泄を促進。
交感神経を優位にし、心身を活性化。
過剰時:
イライラ、頭痛、耳鳴り、高血圧が発生。
3-4. 肝陰
機能:
滋養作用で疏泄を抑制し、蔵血機能を強化。
副交感神経を優位にし、リラックスを促進。
不足時:
不眠、乾燥感、目の疲れ、イライラが現れる。
4. 肝の特性
肝気・肝陽は「余りやすい」
過剰になると興奮しやすく、情緒不安定や頭痛が現れる。
肝血・肝陰は「不足しやすい」
特に女性は月経により肝血が不足しやすく、目の疲れや肌の乾燥が起こりやすい。
5. 肝の不調に関連する症状と対策
5-1. 肝気滞(ストレスが原因)
症状:
胸苦しさ、ため息、食欲不振、月経前の腹痛。
対策:
リラックスする習慣(深呼吸や軽い運動)。
食材:ジャスミン、ミント、陳皮(みかんの皮)。
5-2. 肝血不足
症状:
貧血、視力低下、爪がもろい、筋肉の引きつり。
対策:
食材:黒胡麻、ナツメ、ほうれん草、レバー。
5-3. 肝陽上亢(肝陽の過剰)
症状:
頭痛、目の充血、イライラ、耳鳴り。
対策:
食材:菊花茶、セロリ、豆腐。
5-4. 肝陰不足
症状:
不眠、目の乾燥、口の渇き、焦燥感。
対策:
食材:梨、白きくらげ、豆乳、クコの実。
6. 季節の変わり目と肝のケア
春と秋に注意:
季節の変わり目は肝の疏泄機能が乱れやすい。
適切なケアで自律神経を整える。
推奨される生活習慣:
規則正しい生活と十分な休息。
ストレス管理と適度な運動。
まとめ
肝は「疏泄」と「蔵血」を担い、自律神経や月経、全身の気血の調和を支えています。特に肝の健康は季節の変わり目や情緒、目や爪の健康にも大きく影響するため、日常的なケアとバランスの取れた生活が重要です。