【脾の昇清と統血】中医養生学
今回は中医学における「脾」の昇清と統血について解説します。
1. 昇清(精微・水液を上に運ぶ機能)
昇清とは何か?
昇清の機能:
脾が吸収した精微(水穀の精華)と水液を、**心(血液の循環を司る)と肺(気を全身に送る)**に供給すること。
この動きによって、全身にエネルギー(気血)が供給され、生命活動が維持されます。
内臓を正しい位置に保つ:
脾の昇清作用は、体内の内臓を上に引っ張る役割も果たし、正しい位置に保つ働きをします。
昇清が弱まるとどうなるか?
内臓の下垂症状:
胃下垂: 胃が本来の位置より下がり、消化不良や食後の重だるさを感じやすい。
子宮脱: 骨盤底筋の弱りも伴い、子宮が本来の位置から下がる。
脱肛: 直腸や肛門部が下垂し、脱出する。
エネルギー不足による症状:
めまい: 頭部に十分なエネルギーが届かず、ふらつく感覚を伴う。
集中力低下: 頭部の精微供給不足により、思考力や集中力が衰える。
意識の曖昧さ: 頭がぼんやりする、またはクリアに物事を考えられない感覚。
倦怠感: 全身にエネルギーが届かないため、身体が重だるく感じる。
昇清を補う治療法と生薬
治療の基本方針:
昇清を補い、内臓を引き上げ、全身にエネルギーを巡らせることを目的とする。
代表的な処方:
補中益気湯:
昇清を補う代表的な漢方薬。
主成分には「黄耆(こうぎ)」や「升麻(しょうま)」が含まれ、上に持ち上げる力を助けます。
胃下垂や脱肛、慢性的な疲労感に効果的。
参馬補腎丸:
脾と腎を同時に補う薬で、昇清作用と腎陽を補う効果がある。
昇清が弱まり腎の力も不足している場合に使用される。
生活改善:
食事: 胃腸を冷やさない食事(温かいスープや消化しやすい食材)を摂取する。
運動: 骨盤底筋や体幹を鍛えるエクササイズが、内臓下垂の改善に役立つ。
2. 統血(血液を血管内にとどめる機能)
統血とは何か?
血液を統制する役割:
脾の統血作用により、血液は血管内にとどまり、体内の各組織に適切に循環します。
この作用が弱まると、血液が血管外に漏れ出ることで、出血や血管周囲の問題が発生します。
統血が弱まるとどうなるか?
出血に関する症状:
月経過多: 通常より月経量が多くなる。
不正出血: 月経以外のタイミングで異常な出血が続く。
真っ赤な血が多量に出る場合: 血熱(血が熱を持ちすぎて流れ出る状態)。
少量のピンクがかった血が出る場合: 脾の弱り(脾が血液を保持できない状態)。
慢性の血便: 腸管からの慢性的な出血が起こる。
あざができやすい: 血管壁から血液が漏れ出ることで、皮膚下に出血が見られる。
身体への影響:
慢性的な疲労感: 出血によるエネルギーの喪失が原因。
貧血症状: 血液量が減少し、全身への酸素供給が不十分になる。
統血を補う治療法と生薬
治療の基本方針:
統血作用を回復し、血液を血管内に保持する力を高める。
代表的な処方:
帰脾湯(きひとう):
「脾を帰す(脾の機能を元に戻す)」という意味を持つ処方。
脾の統血作用を改善し、不正出血やあざができやすい症状に用いられる。
ニンジンを含むことで、脾を補いながら全身の元気を引き上げる。
心脾顆粒(しんぴかりゅう):
黄耆を含む補気剤で、脾の統血作用を回復しつつ、外部からの刺激にも対応できる。
軽度の不正出血や疲労感が主症状のケースに用いる。
特定の生薬の役割:
黄耆(こうぎ):
統血作用を補い、外的要因から体を守る役割も持つ。
ニンジン:
大きなエネルギー補給を目的とし、重度の疲労感や倦怠感を伴う症状に適する。
3. 昇清と統血の関係
昇清と統血は相互に影響を及ぼします。
昇清が弱まると、エネルギー供給不足で統血作用も低下します。
統血が弱まると、出血によるエネルギー喪失が昇清をさらに弱めます。
4. 改善のためのアプローチ
薬物治療と診断の連携:
昇清が弱い場合: 補中益気湯や参馬補腎丸を中心に使用。
統血が弱い場合: 帰脾湯や心脾顆粒を処方し、脾の機能回復を図る。
日常生活での対策:
温かい飲食物を摂り、胃腸の冷えを防ぐ。
規則的な生活習慣で体力を補強する。
軽い運動を取り入れ、血液循環を促進する。
まとめ
昇清: 脾が精微と水液を心肺に運ぶことでエネルギーを全身に供給し、内臓の正しい位置を保つ機能。
統血: 血液を血管内に保持し、過剰な出血を防ぐ機能。
関連性: これらの機能が正常に働くことで、脾は全身のエネルギー循環と健康を支える基盤となります。
適切な薬剤選択と生活改善で脾の働きを整えることが、根本的な健康改善につながります。