【脾の昇清と統血】中医養生学

今回は中医学における「脾」の昇清と統血について解説します。

1. 昇清(精微・水液を上に運ぶ機能)

昇清とは何か?

  • 昇清の機能:

    • 脾が吸収した精微(水穀の精華)と水液を、**心(血液の循環を司る)肺(気を全身に送る)**に供給すること。

    • この動きによって、全身にエネルギー(気血)が供給され、生命活動が維持されます。

  • 内臓を正しい位置に保つ:

    • 脾の昇清作用は、体内の内臓を上に引っ張る役割も果たし、正しい位置に保つ働きをします。

昇清が弱まるとどうなるか?

  1. 内臓の下垂症状:

    • 胃下垂: 胃が本来の位置より下がり、消化不良や食後の重だるさを感じやすい。

    • 子宮脱: 骨盤底筋の弱りも伴い、子宮が本来の位置から下がる。

    • 脱肛: 直腸や肛門部が下垂し、脱出する。

  2. エネルギー不足による症状:

    • めまい: 頭部に十分なエネルギーが届かず、ふらつく感覚を伴う。

    • 集中力低下: 頭部の精微供給不足により、思考力や集中力が衰える。

    • 意識の曖昧さ: 頭がぼんやりする、またはクリアに物事を考えられない感覚。

    • 倦怠感: 全身にエネルギーが届かないため、身体が重だるく感じる。


昇清を補う治療法と生薬

  1. 治療の基本方針:

    • 昇清を補い、内臓を引き上げ、全身にエネルギーを巡らせることを目的とする。

  2. 代表的な処方:

    • 補中益気湯:

      • 昇清を補う代表的な漢方薬。

      • 主成分には「黄耆(こうぎ)」や「升麻(しょうま)」が含まれ、上に持ち上げる力を助けます。

      • 胃下垂や脱肛、慢性的な疲労感に効果的。

    • 参馬補腎丸:

      • 脾と腎を同時に補う薬で、昇清作用と腎陽を補う効果がある。

      • 昇清が弱まり腎の力も不足している場合に使用される。

  3. 生活改善:

    • 食事: 胃腸を冷やさない食事(温かいスープや消化しやすい食材)を摂取する。

    • 運動: 骨盤底筋や体幹を鍛えるエクササイズが、内臓下垂の改善に役立つ。


2. 統血(血液を血管内にとどめる機能)

統血とは何か?

  • 血液を統制する役割:

    • 脾の統血作用により、血液は血管内にとどまり、体内の各組織に適切に循環します。

    • この作用が弱まると、血液が血管外に漏れ出ることで、出血や血管周囲の問題が発生します。


統血が弱まるとどうなるか?

  1. 出血に関する症状:

    • 月経過多: 通常より月経量が多くなる。

    • 不正出血: 月経以外のタイミングで異常な出血が続く。

      • 真っ赤な血が多量に出る場合: 血熱(血が熱を持ちすぎて流れ出る状態)。

      • 少量のピンクがかった血が出る場合: 脾の弱り(脾が血液を保持できない状態)。

    • 慢性の血便: 腸管からの慢性的な出血が起こる。

    • あざができやすい: 血管壁から血液が漏れ出ることで、皮膚下に出血が見られる。

  2. 身体への影響:

    • 慢性的な疲労感: 出血によるエネルギーの喪失が原因。

    • 貧血症状: 血液量が減少し、全身への酸素供給が不十分になる。


統血を補う治療法と生薬

  1. 治療の基本方針:

    • 統血作用を回復し、血液を血管内に保持する力を高める。

  2. 代表的な処方:

    • 帰脾湯(きひとう):

      • 「脾を帰す(脾の機能を元に戻す)」という意味を持つ処方。

      • 脾の統血作用を改善し、不正出血やあざができやすい症状に用いられる。

      • ニンジンを含むことで、脾を補いながら全身の元気を引き上げる。

    • 心脾顆粒(しんぴかりゅう):

      • 黄耆を含む補気剤で、脾の統血作用を回復しつつ、外部からの刺激にも対応できる。

      • 軽度の不正出血や疲労感が主症状のケースに用いる。

  3. 特定の生薬の役割:

    • 黄耆(こうぎ):

      • 統血作用を補い、外的要因から体を守る役割も持つ。

    • ニンジン:

      • 大きなエネルギー補給を目的とし、重度の疲労感や倦怠感を伴う症状に適する。


3. 昇清と統血の関係

  • 昇清統血は相互に影響を及ぼします。

    • 昇清が弱まると、エネルギー供給不足で統血作用も低下します。

    • 統血が弱まると、出血によるエネルギー喪失が昇清をさらに弱めます。


4. 改善のためのアプローチ

  1. 薬物治療と診断の連携:

    • 昇清が弱い場合: 補中益気湯や参馬補腎丸を中心に使用。

    • 統血が弱い場合: 帰脾湯や心脾顆粒を処方し、脾の機能回復を図る。

  2. 日常生活での対策:

    • 温かい飲食物を摂り、胃腸の冷えを防ぐ。

    • 規則的な生活習慣で体力を補強する。

    • 軽い運動を取り入れ、血液循環を促進する。


まとめ

  • 昇清: 脾が精微と水液を心肺に運ぶことでエネルギーを全身に供給し、内臓の正しい位置を保つ機能。

  • 統血: 血液を血管内に保持し、過剰な出血を防ぐ機能。

  • 関連性: これらの機能が正常に働くことで、脾は全身のエネルギー循環と健康を支える基盤となります。

適切な薬剤選択と生活改善で脾の働きを整えることが、根本的な健康改善につながります。

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