【生理中の精神不安定は情志の失調】中医婦人科学

情志異常(じょうしいじょう)は、月経前後または月経中に現れる精神的不安定や感情の変動を指し、一般的に月経が終わると次第に症状が改善します。具体的な症状としては、怒りやすさ、悲しみ、落ち着かない状態、一晩中眠れないなどが挙げられます。中医学では、これらは情志による内傷や肝気鬱結などが原因とされています。

月経前後・月経中における情志異常の特徴と病因

1. 肝気鬱結(かんきうっけつ)による情志異常

  • 特徴:月経に伴う情緒不安定、脇や胸の張り、食欲不振が見られます。気が滞り、体の中で気が伸びやかに流れないため、情緒が不安定になりがちです。典型的なPMS症状ともされ、精神的な負担が大きくなります。

  • 中医学的解釈:肝は気血を管理し、精神や情緒のバランスを保つ役割を持ちます。月経前後に肝気が滞ると、胃腸の消化機能にも影響を与え、食欲不振や消化不良が生じることが多いです。月経終了後に症状が和らぐ点も特徴で、PMSの治療対象になります。

  • 処方例

    • 逍遥散(しょうようさん):肝の気を巡らせて気分を安定させ、肝気の滞りを緩和します。日本人には、気をうまく発散できず、我慢が溜まりやすい傾向があるため、発散をサポートする漢方として推奨されます。

    • 加味逍遥散(かみしょうようさん):イライラや充血、熱の症状が強い場合に用います。特にニキビが生じる場合、熱を冷ますために効果的です。


気を巡らせる生活習慣と食養生

中医学では、食生活や生活習慣を整えることで情志異常を軽減することが推奨されます。特に肝気鬱結を緩和するために、日常的な生活習慣の見直しが重要です。

  • 運動や趣味:気を巡らせるには、体を動かすことや趣味に没頭することが効果的です。ライブに行くなど感情を発散する活動も推奨されます。

  • 香りと食材:柑橘系の香り(オレンジやグレープフルーツ)、ミントティー、セロリや春菊など香りの強い野菜が効果的です。これらの食材は気を巡らせ、気分をリフレッシュする効果があります。

  • 菊花茶(きっかちゃ):菊花茶は、花系の生薬として知られ、気を巡らせて気分を安定させる効果があります。特に肝気鬱結による情志異常に効果的で、目の充血や花粉症のかゆみにも役立ちます。

肝気鬱結がもたらす影響と治療法

情志異常が長期間続くと、肝気の滞りが胃腸に影響を及ぼすため、気血の生成が妨げられ、身体全体の調子が悪くなりがちです。肝気鬱結による胃腸への影響とそれに対する治療の考え方を以下に示します。

  • 胃腸への影響:肝の気が滞ると、胃腸にまで悪影響が及び、消化機能が低下します。これにより、気血の生成も滞り、不安感や精神不安定が増すことが多いです。

  • 処方例

    • 逍遥散:肝気鬱結を解消し、気の巡りを良くすることで情緒不安定を和らげます。また、気血を整え、気持ちを落ち着かせるため、PMSの定番処方とされています。※日本人女性はこれ飲んでおけば基本OKとのこと(中医師の先生より)加味逍遙散は冷やすので冷えている人には不向き。

2. 痰火擾心(たんかじょうしん)による情志異常

  • 特徴:感情の激しい変動や攻撃的な行動が特徴で、不眠、頭痛、顔や目の充血、狂躁といった症状が見られます。

  • 中医学的解釈:気の滞りが極度に悪化し、体内に熱が蓄積することで痰が生成され、精神が不安定になる状態です。顔や目の赤み、極端な不安定さが特徴的で、一般的な情志異常よりも激しい症状が現れるのが特徴です。

  • 処方例

    • 温胆湯(うんたんとう):痰火を抑え、精神安定を促進します。

    • 牛黄清心丸(ごおうせいしんがん):救急薬として知られ、精神安定効果があります。高い熱や緊急時の鎮静に使用されます。

PMSにおける漢方の使い方

PMS症状が重い場合、漢方の使用は症状が発現する前から開始します。服用期間は個々の症状に応じて調整され、通常は1か月分を毎日服用するか、月経前2週間だけ服用することもあります。以下にPMSの漢方治療におけるポイントを示します。

  • 服用期間の調整:重い症状がある場合、1日3回の服用を基本とし、改善が見られれば月経前2週間だけ服用する方法に変更することもあります。

  • 費用:月1万円程度が一般的な費用です。症状が重い場合、数種類の漢方を組み合わせることもあります。

  • 学生の利用:保険適用外の場合、価格が高いため、漢方薬局では費用がかさむことが多く、学生には食養生で対応することも提案されています。

養生による予防と日常的な対策

中医学では、日常生活の養生も重要視しています。以下にPMS症状の緩和に役立つ養生方法を示します。

  1. 睡眠:早寝早起きを心がけ、特に腎が弱い人は体を冷やさないようにします。

  2. 食事:食事をゆっくりとよく噛んで摂取し、胃腸を労わることが大切です。急いで食べると胃腸に負担がかかり、症状が悪化しやすくなります。

  3. 運動:気を巡らせるため、普段から適度な運動や散歩を取り入れることが効果的です。

  4. 食材の選択:気を巡らせる食材を取り入れ、気分が不安定になるのを防ぎます。

いいなと思ったら応援しよう!