【月経過多の原因や治療法】中医婦人科学

月経過多の症状とその中医学的な見解について説明します。

月経過多とは?

中医学で月経過多とは、通常の月経量と比べて血の量が増加し、過度に出血する状態を指します。月経量が増えることで、体に大きな負担がかかりやすくなり、他の症状や疾患を引き起こすこともあります。この異常は「気虚」「血熱」「瘀血(おけつ)」の3つの原因で発生すると考えられ、それぞれに異なる特徴や治療法があります。

1. 気虚タイプの月経過多

【病因と症状の詳細】

気虚とは、体のエネルギーである「気」が不足している状態です。気は血液を体内に留めておく力を担うため、気が不足すると血が漏れ出しやすくなり、出血が多くなります。

  • 色と質:血液の色は淡く薄く、質はさらさらしていて粘りが少ない。

  • 全身の症状:疲労感、手足のだるさ、顔色が悪い、息切れ、便がゆるいなど。

こうした気虚タイプは、消化や気の巡りが弱まっていることが多く、特に過労や不摂生な飲食習慣が原因で引き起こされることがあります。また、元々体力が少ない体質の人も気虚に陥りやすいとされます。

【治療方法】

気を補うことで血の漏れ出しを防ぐことが治療の目標です。

  • 補中益気湯:補中益気湯は、脾胃(消化器系)を助けて気を増やし、全体の気力を高めることで血を安定させる処方です。月経量の多い気虚タイプの方に適しています。

  • 帰脾湯:帰脾湯は、気と血を補う処方で、特に倦怠感や食欲不振などがある場合に用いられます。

2. 血熱タイプの月経過多

【病因と症状の詳細】

血熱とは、体内に熱がこもり、血が煮詰められたような状態を指します。熱が血にこもると、血流が活発になり出血が増えます。特に辛い食べ物の過剰摂取や、ストレスが溜まることで血熱が発生しやすくなります。

  • 色と質:血の色は鮮やかな赤色や濃い赤で、粘りがあり、粘稠(ねんちゅう)性が高い(どろっとしている)。

  • 全身の症状:のどの渇き、口が乾く、体のほてり、乾燥便など。

血熱があると、通常よりも出血量が多くなりやすく、また皮膚の炎症や発熱といった症状が見られることもあります。血熱による月経過多では、辛い食事や飲酒がさらに悪化の原因になるため、食習慣の改善も重要です。

【治療方法】

血熱を冷まし、血液の流れを調整することが治療の目標です。

  • 清営顆粒:血熱を抑え、体内の余分な熱を取り除くことで、血の安定化を促します。これは皮膚の炎症や熱を伴う症状に効果的で、血熱タイプの月経過多にも適しています。

3. 瘀血(おけつ)タイプの月経過多

【病因と症状の詳細】

瘀血とは、血液が滞って流れにくくなっている状態を指します。血の滞りにより血塊が発生し、出血が多くなることがあります。この瘀血は、血液が滞っているため、体内に溜まり、血流の流れが悪化することで月経量が増えることが特徴です。

  • 色と質:色は紫がかった黒色で、血塊が含まれます。

  • 全身の症状:下腹部痛、舌に瘀点(暗い点)、舌下の血管が浮き上がるなど。

瘀血の原因には、冷え、ストレス、長時間同じ姿勢でいること、生活習慣の乱れなどが挙げられます。瘀血タイプの月経過多は血流がうまく流れず、血塊が生じるため、下腹部の痛みや月経血に親指大の血の塊が見られることがあります。

【治療方法】

血の流れを正常に戻し、瘀血を取り除くことが治療の目標です。

  • 血府逐瘀丸:血の滞りを取り除き、血の流れを良くする代表的な処方です。瘀血が原因の月経過多や下腹部の痛みに適しています。

  • 田七人参:田七人参は日本では健康食品として扱われますが、止血作用があり、出血量の多い月経過多や外傷後の出血のケアに用いられます。中国では医薬品として用いられることも多く、傷口の回復や内出血を防ぐためにも役立ちます。

色や質から見る月経過多の診断方法

色や質は、月経過多の原因を見極めるために重要な指標となります。患者さんの体質や症状に応じて色や質を確認することで、どのタイプに属するかの判断がつきやすくなります。

  • 気虚タイプ:色が淡く薄い赤で、質はさらさらと薄い。

  • 血熱タイプ:色が鮮血や濃い赤で、粘り気があり粘稠性が強い。

  • 瘀血タイプ:色が紫がかった黒で、血塊が含まれる。

色の見分けが難しい場合には、食べ物の例(イチゴミルクなど)で表現することで、患者さんが理解しやすくなります。

その他の生薬や治療法

中医学では、月経過多に対して様々な生薬や治療法が用いられます。

  • 五霊脂(ごれいし):これはムササビの乾燥した糞で、出血を抑え瘀血を解消する効果があります。中国では代表的な瘀血除去の生薬として利用されます。

  • 失笑散(しっしょうさん):これは瘀血を取り除き、血の流れを改善する処方です。五霊脂が含まれており、瘀血が原因の月経過多に効果があります。
    ※五霊脂と失笑散は日本では使えません(法律の問題?)

  • 田七人参:この生薬は出血を抑える力があり、出血が多い月経過多や外傷後の止血に役立ちます。中国では医薬品として扱われ、日本では健康食品として流通していますが、外傷や出血の多い場合に広く用いられています。

日常生活における対策

治療に加え、日常生活の見直しも月経過多の改善に役立ちます。中医学的には、食事や生活習慣を見直すことが大切です。

  1. 食事の見直し

    • 血熱タイプは辛いものやアルコールを控え、体を冷ます効果のある食材(きゅうり、トマトなど)を取り入れる。

    • 気虚タイプは消化に良い温かい食べ物(温かいスープやお粥など)を摂り、脾胃を養う。

  2. ストレス管理

    • 瘀血や気虚はストレスで悪化することが多いため、ヨガや深呼吸などでリラックスし、精神的なバランスを保つことが推奨されます。

  3. 体を温める

    • 月経時には特に体を冷やさないよう注意し、温かい飲み物を摂取したり、体を温める食材(生姜、羊肉など)を食べることが良いとされます。

まとめ

中医学における月経過多の原因は気虚、血熱、瘀血の三つに分けられ、それぞれの体質に応じた治療や養生が必要です。食事、生活習慣の見直し、適切な漢方処方により、症状の改善と体質の調整が目指せます。

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