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【読書録】 生存する意識 by A. オーウェン

自分が植物状態になったことを想像したことがあるだろうか?

もしかするとあなたの親類は、あなたがもう意識がないと思い、尊厳死を望むかもしれない。

A. オーウェンは、植物状態もしくは閉じ込め症候群と呼ばれるような状態にある被験者とイメージングと通じてコミュニケーションを取ろうとした研究者の一人である。

『生存する意識』では、彼の人生と研究が奇妙に交わっていく様子が描かれている。研究書としてだけでなく、ある種の自伝のように引き込まれるような作品になっている。

さて本書の中では、植物状態にある患者とコミュニケーションを取る方法の研究の進歩が描かれている。

1. 最初は陽電子放出断層撮影(PET)と呼ばれる方法で、音を聞かせている間の脳の反応を読み取ろうとしている。[1, 2]

2. しかし、PETでは短いスケールの反応は読み取れないため、より短いスケールの反応を見ることができる機能的磁気共鳴機能画像法 (functional magnetic resonance imaging; fMRI)を利用した血中酸素濃度依存的(BOLD)反応を見ることで、より細かい応答を見ようとしている。

3. さらに、質問を工夫して刺激に対する応答する部位を目印として利用して、テニスを想像させたり、馴染みのある部屋を動き回る想像をさせて、その時の脳反応を見ることで意識経験をしているかの目印にしようとしている [3, 4]

4. 最後は、ヒッチコックの映画を見ているときの脳反応を利用することで、植物状態にある患者が我々と同じような意識経験を感じているか読み取ろうとしている [5]

意識研究の一つの歴史を知ることができるとともにイメージング実験の歴史を外観するための書籍にもなっている。

最近では機能的近赤外分光分析法(fNIRS : functional Near-Infrared Spectroscopy)を利用した研究を盛んに行なっている。

他にも情報を載せてあるので是非読んでほしい一冊になっている。

BBCがドキュメンタリーを作成している。英語だが、実際にテニスを想像させる実験を間近にみられる映像なのでとても貴重である。



参考文献:

1. Menon, D.K., Owen, A.M., Williams, E.J., Minhas, P.S., et al. (1998) Cortical processing in persistent vegetative state. The Lancet, 352 (9123), 200. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(05)77805-3

PETを利用した植物状態にある患者の脳を撮像した初期の研究。顔認識課題をさせると、紡錘状回が反応した。1ページ足らずの結果。

2. Owen, A. M., Menon, D. K., Johnsrude, I. S., Bor, D., Scott, S. K., Manly, T., Williams, E. J., Mummery, C., & Pickard, J. D. (2002). Detecting residual cognitive function in persistent vegetative state. Neurocase, 8(5), 394–403. https://doi.org/10.1076/neur.8.4.394.16184

PET撮像中に顔認識課題や、スピーチ課題をさせたときの脳の代謝量を計測させている。

3. Owen, A.M., Coleman, M.R., Boly, M., Davis, M.H., et al. (2006) Detecting Awareness in the Vegetative State. Science. 313 (5792), 1402.   https://doi.org/10.1126/science.1130197

脳の機能的局在性を利用した実験により意識があるかどうかを判別しようとした実験。テニスをプレイさせるか、自宅の部屋を動き回っているように想像させる。テニスをプレイする想像をするときには、運動前野
が反応し、部屋を動き回るような時には海馬傍回することで区別しようとした。

4. Monti, M.M., Vanhaudenhuyse, A., Coleman, M.R., Boly, M., et al. (2010) Willful Modulation of Brain Activity in Disorders of Consciousness. The New England Journal of Medicine. 362, 579-589. https://doi.org/10.1056/NEJMoa0905370

テニスをプレイすることを想像させるimagery taskや、yes-noをそれぞれテニスプレイと部屋の探索を想像させて返答させるコミュニケーションによって判別しようとした。5/54の被験者でこのような脳活動が見られたという。

5. Naci, L., Cusack, R., Anello, M., & Owen, A. M. (2014). A common neural code for similar conscious experiences in different individuals. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 111(39), 14277–14282. https://doi.org/10.1073/pnas.1407007111

ヒッチコックの映画を被験者に見せた実験。実際に健常者の脳イメージングの脳活動を意識的な反応のマーカーとして利用している。Patient2では健常者と同じような脳の反応がある。

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濱田太陽
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