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【CC Tokyo記録4】 サイケデリックスと意識の薬理学 by Olivia Carter教授

動画

経緯

背景知識

Carter教授は, オーストラリアのクイーンズランド大学でPh.Dを取得し, 現在メルボルン大学で教授職についています.

実際の実験はスイスを代表する病院であるUniversity hospital of PsychiatryのFranz X. Vollenweider (現在チューリッヒ大学の教授)と共同で幻覚剤であるシロシビンの影響について研究してきました. 今回のトークはこの時の研究からも大いに影響を受けています.

Olivia教授の代表的な研究の中に, チベット仏教僧に瞑想中に両眼視野闘争の課題を実施し, 刺激のスイッチの頻度が高まるというものがあります. 

研究ラボのサイトはこちら.

またメルボルン大学とモナシュ大学でも意識研究の組織ができているので, ぜひ注目していただきたいです.

内容

サイケデリックスは意識にどのような変容を与えるか?

がOlivia教授のメインの問いであり, 感覚, 認知, 自己の統合という観点から考察している.

特に今回のトークでは, 以下の2つの仮定的な問いを用意している.

1) 幻覚剤は, 意識が"高い"状態に導くか?

2) 幻覚状態と関連した感覚や認知の変化の理解は意識の科学に示唆を与えるか?

これらの問に答える前に, まず幻覚剤の薬理についてまとめている.

まず確認として, シロシビンやLSDの物質構造セロトニンの構造と似ている.

特にシナプス後神経細胞のセロトニン2A受容体に反応することが知られており, 特に5層の錐体神経細胞に反応する.

Carter教授は, 意識の5次元の主観的報告評価 [Studerus et al., 2010]とさまざまな課題を組み合わせて実験をおこなっている. それぞれの結果のまとめは [Vollenweider&Kometer, 2010]のBox1にまとめてある. ちなみに, Altered States Databaseでこの評価で取得したデータは入手可能である [Schmidt&Berkemeyer, 2018].

実験の主な結果は以下の通りになっている [Carter, et al., 2004, 2005a, 2005b; Komester et al., 2011].

1) 感覚 e.g. 感覚の脱抑制, 想像の感度上昇 → 意識内容の上昇

2) 認知 e.g. スピーチの形成, 言語の複雑性, 選択的注意, 認知的制御などについては低下 → 意識的活動の低下

3) 経験の統合 e.g. 主観的輪郭の補完(カニッツァ三角形)のようなモーダル補完は低下したが, 他の指標については変化なし.

それぞれの観点で, 単一的に上昇するわけではなく, 感覚では上昇するが, 認知では低下し, 経験の統合についてはよくわからないというのが結果となっている. つまり, 1)の問いについては "No"であった.

2)に関連して, 単純な一次元, 単純な一次元的な観点で意識を高い低いとみるのは不適切であるというまとめであり, 多次元的な意識のあり方の模索を求めている [Bayne and Carter, 2018; Scott & Carhart-Harris, 2019].

ぜひ詳細については, 動画をご覧ください.

参考文献

[1] Bayne, T., Carter, O., (2018). Dimensions of consciousness and the psychedelic state, Neuroscience of Consciousness, 2018 (1), niy008.

[2] Carter, O. L., et al., (2004). Psilocybin impairs high-level but not low-level motion perception. Neuroreport, 15(12), 1947–1951. https://doi.org/10.1097/00001756-200408260-00023

[3] Carter, O., et al., (2005). Meditation alters perceptual rivalry in Tibetan Buddhist monks. Current Biology, 15 (11), https://doi.org/10.1016/j.cub.2005.05.043

[4] Carter, O. L., et al. (2005). Modulating the rate and rhythmicity of perceptual rivalry alternations with the mixed 5-HT2A and 5-HT1A agonist psilocybin. Neuropsychopharmacology, 30(6), 1154–1162. https://doi.org/10.1038/sj.npp.1300621

[5] Carter, O. L., et al., (2005). Using psilocybin to investigate the relationship between attention, working memory, and the serotonin 1A and 2A receptors. Journal of cognitive neuroscience, 17(10), 1497–1508.

[6] Kometer, M., et al., (2011). The 5-HT2A/1A agonist psilocybin disrupts modal object completion associated with visual hallucinations. Biological psychiatry, 69(5), 399–406. https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2010.10.002

[7] Schmidt, T.T. and Berkemeyer, H. (2018). The Altered States Database: Psychometric Data of Altered States of Consciousness. Front. Psychol. 9: 1028.

[8] Scott, G., & Carhart-Harris, R. L. (2019). Psychedelics as a treatment for disorders of consciousness. Neuroscience of consciousness, 2019(1), niz003.

[9] Studerus, E., Gamma, A., & Vollenweider, F. X. (2010). Psychometric evaluation of the altered states of consciousness rating scale (OAV). PloS one, 5(8), e12412. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0012412

[10] Vollenweider, F. X., & Kometer, M. (2010). The neurobiology of psychedelic drugs: implications for the treatment of mood disorders. Nature reviews. Neuroscience, 11(9), 642–651. https://doi.org/10.1038/nrn2884

他関連図書

脳精神科医でもあるOlivar Saxに幻覚のTEDトーク

Olivar Saxによる書籍.

“変性する意識”の内的過程を探る画期的ノンフィクション



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濱田太陽
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