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「神がかり!」第48話後編

第48話「サンキュ!」後編

 「ウガァァァッーーーー!!」

 ――

 「……」

 怪物は五体満足で見たところ負傷した部分も無さそうだ……

 「そ、そんな……」

 「まったくたらだねぇ、”禍津神まがつかみ”ってやつは」

 波紫野はしの 嬰美えいみは絶望に項垂うなだれ、御端みはし 來斗らいとを引きずった波紫野はしの けんは諦めた感想を漏らしていたが……

 「……」

 俺には想定内。

 ――ブゥゥンッ

 巨人の前面に八角形で半透明の見慣れない何か、光が屈折したような特異な空間が揺らめいて存在し、

 ――バシュッ!

 直後、それは大気に弾けて消える。

 「あれが……”天岩戸あまのいわと”か」

 そうだ、俺には想定内だ。

 そもそも爆弾程度で倒せる相手ならば、こんな苦労はしていないだろう。

 「ウゴォォ……」

 ――だが

 「これ?ちょっと……大人しくなったけど?」

 「けど……攻撃が効かない以上どうすることも」

 「朔太郎さくたろう!?ちょっと!朔太郎さくたろうって!!」

 動きが鈍くなった。

 しかし、先ほどの御端みはし天孫てんそん破壊の時のように完全停止したわけでは無い。

 「案の定、あの”天岩戸あまのいわと”とかいう大技を使って”まがつ”とやらを大量消費したから現在いまは補給中か」

 俺は対処に困惑する六神道ろくしんどう達の問いには直接応えずに呟いていた。

 「え?それって充電中ってこと?」

 「じゃあ、このまま……」

 だが、俺の言葉を耳さとく拾った東外とが 真理奈まりな波紫野はしの けんは、そびえ立ったままの巨人を覗いつつ構える。

 「大出力な大技は燃料切れも早いってな、だが補給は容易に出来るらしいんだろ?」

 この怪物の力の供給源だった御端みはしの”天孫てんそん”とやらを破壊してから――

 巨人は一旦は成す術無く倒れたが、それにより外界に放出された”まがつ”とやらを吸収して復活したのなら……

 今後はそれが自力で成せるのだと考えるべきだろう。

 俺は蜂蜜髪ハニーブロンド優男やさおとこが得意げに語っていた”禍津神まがつかみ”とやらの特性を再確認しつつ、手の中の少女に最後の確認をしなければならないと思っていた。

 「多分、さっきより早く復帰するだろうね、なんと言っても……」

 俺の意図を察しただろう勘の良い波紫野はしの けんが答え、そして俺の腕の中の美少女に意味ありげな視線を向ける。

 「っ!?」

 「それ……って?」

 それで別の二人の美少女もその意図に気づいたようだ。

 「……」

 そう、御端みはし 來斗らいとは言っていた。

 この巨人、禍津神まがつかみとやらとてるの"パスを繋いだ”と。

 つまり、最終的には御端みはし天孫てんそんとやらが無くてもてるから……

 守居かみい てるのあの桁違いの異能から燃料それを無限に吸収し続けられるのだということを。

 「ど、どうするのよ!いっそ今のうちに……」

 ――いや、それは無茶だろう

 焦った真理奈まりなの言に全員は無言ながら否定の表情だった。

 この化物は停止しているわけでは無い。

 攻撃されれば反撃してくるだろうし、かといって放置しておけば数分で復活し、この場の全員を殴殺した後はそのまま市街地に出て無差別に暴れまわる可能性だってある。

 ――いや、むしろクソッたれの御端みはし 來斗らいと無差別大量虐殺それをこそ望んでいるのだろう

 つまり、六神道ろくしんどうの失態であるこの巨人の存在を……

 六神道ろくしんどういつらは放置してを離れるわけにもいかないのだ。

 「これって八方塞がりなんじゃ……」

 波紫野はしの 嬰美えいみがポツリと呟く。

 「……」

 「……」

 それに応える者は居ない。

 「ウガァ……アァァァウ……」

 地の底から響くような不気味な唸り声を漏らしながら、静かに肩を上下させる巨人。

 「……」

 「……」

 「……」

 そして、それを囲んだ”一応”は健在な六神道ろくしんどうの戦士三人。

 圧倒的に戦力差はあるものの、二つの敵対勢力は睨めっこ状態である。

 「さ、さくちゃん……あの、これってもしかして作戦だったりする?」

 ボロボロの刀を構えた波紫野はしの けんの情けないながらも勘の良い問いに俺は――

 「……」

 頷いた。

 ――っ!?

 思いも寄らぬ俺の反応に波紫野はしの 嬰美えいみ東外とが 真理奈まりなは息を呑む。

 「そうだな、だが”終わらせる”前に確認しておくべき事がある」

 俺はそれらを流して淡々とそう答えた。

 「えと……それは?」

 「……」

 さらに問いかけるけんを無視して、俺は現状を確認してから俺のそばにいる美少女を見た。

 「……あの」

 少女は状況を把握できていない。

 付け足すなら、禍津神まがつかみなんて古神いにしえがみと睨めっこ中の奇特な六神道ろくしんどうの面々もそうだろう。

 「……」

 ――そりゃそうだろうよ

 俺は俺の都合でこうしただけ……

 ――そうだ、俺にとって爆弾あれはただの時間稼ぎ

 今から俺には、ほんのちょっとだけ時間が必要なだけだ。

 俺は誰にも気付かれないよう、すぅっと息を少量吸い込んでから少女に向かい合う。

 「てる……俺はな、お前のお陰でスッキリした」

 「えっ?」

 ――突然

 こんな状況にも拘わらず、脈絡も無い事を言う俺に彼女は面食らっていた。

 ――いや、脈絡はあるんだけどな、俺的には……

 俺は話をしたい。

 てるのでは無く、俺のでも無く……

 二人の話を……

 長い時を経てようやく俺はそれに触れたいと……

 手に入れたいと……決意したのだから。

 「俺はな、本当はお前が憎い。恨んでいた。俺の人生を滅茶苦茶にしやがってと思っていた」

 「あ……うっ……」

 俺のそばで……直ぐ至近で……

 申し訳なさそうに大きめな垂れ気味の瞳を伏せる美少女。

 ――全て仕組んでおいて、そいいう表情かおするのな、はは……

 なんだか可笑しくなりながらも俺は続けた。

 「だが永く俺はそれを認める事が出来なかった。多分、自分の人生を他人に左右されたってのが悔しくてだろう……そんな矮小な自分をどうしても認めたくなくて、くだらないプライドで自暴自棄になることに逃げていたんだ」

 もうなにも誤魔化す必要は無いと、俺はうの昔に知っておきながら気付かぬように生きてきた自分の人生を暴露し始める。

 「うう……ごめんなさい」

 そしてそれを素直に受け容れ、項垂うなだれるてる

 だが――

 彼女にも、さっきまでの嫌な感じの……

 自暴自棄な雰囲気は無くなっていた。

 俺に謝罪しつつも、口元には普段の彼女らしい柔らかさが戻っていた。

 「……ふっ」

 ――こんなことでこんなにも安心する……

 ――おれは……

 「ああ、そうだな。だが、お前のお陰だ……だから」

 「……」

 「サンキュ!」

 そう言いながら俺は目の前の少女を抱きしめていた。

 「えっ!うっ……えぇっ!?」

 それがよっぽど意外だったのだろうか、

 俺の胸の中の少女はその大きな瞳を全開に……

 丸く丸く開いていた。

第48話「サンキュ!」後編 END

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