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「神がかり!」第43話前編
第43話「モテモテだねぇ」前編
ドカァァァーー!
ドゴォォォォォーーーー!!
感情の”たが”が外れたように怒り狂う巨人はもう……もとの岩家 禮雄の面影は無い。
「ヴォッォォォッ!!!!」
成人男性ほどもある鉄筋コンクリートの破片を軽々と蹴り飛ばし、殴りつけた地面はまるで小さい隕石が衝突したのかと見紛うばかりに抉れて陥没している。
ブオォォーーーーン!
「怪獣映画だね、これは最早……」
完全に人外となった先輩を眼前に、波紫野 剣が言いながら巨大な腕を間一髪すり抜けて躱す。
ギィィィィーーーン
そして同時に巨人の臑を刃で一閃した!
「っ!」
とても人体を斬った音とは思えない耳障りで甲高い金属音!
そして巨人の臑は何事も無かった様にそのままそこに存在する。
「ガァァァーーー!」
蚊に刺された程でも無い巨人は、その目前の”ヤブ蚊以下”の相手に巨大な両腕を頭上で高々と組んでから一気に振り下ろした!
ドガァァァーーーーーー!!
「ちぃっ!」
再び抉り取られる大地!
そして直死の大槌を無様に転がって回避する波紫野 剣!
「益々もってヤバイねぇ……なんだよ、あの非常識な頑丈さ?」
――波紫野 剣の構えた日本刀は見るからに凄みを帯びる見事な逸品である
――また、彼の腕もそれに遜色ないモノだろう
「……」
だが、それでも目前の怪物には毛ほども傷をつけることが出来ない現実。
「グォォォォォッッーー!!」
再びビリビリと空気を振動させるほどの咆哮が辺りに響き渡る!
――
神話並の巨人を!正真正銘の怪物に成り果てた岩家 禮雄を!
この場で食い止めるのは、怪物のかつての同胞であった”六神道”の面々。
「……」
立ち上がった剣は、グルリと周囲を見渡して状況を再確認する。
数メートル離れた後方に、意識はあるものの”折山 朔太郎”との激闘で満足に動けない状態の永伏 剛士。
「……」
自分の横には姉の波紫野 嬰美が同じく刀を構えて怪物を牽制し、
少し下がった位置には東外 真理奈が注意深く敵を覗っている。
「……」
そして……
怪物の向こう側に佇む蜂蜜金髪で碧眼の歪んだ美少年……御橋 來斗。
奴はどうやら戦闘には参加する気が無いようだ。
「……つまり実質は三対一、だけど」
どう見ても分が悪い。
「剣、気づいていると思うけど……」
呟いた剣に、彼と酷似した名刀を構えた嬰美が語りかける。
「ああ、そうだね。”八面金剛”だ」
剣がその声に応える。
「岩家先輩の”天孫”……”八面金剛”は岩石のような通常では信じられないほどの強度を誇る頑強な防御結界だと聞いていますけど」
やや後方から真理奈が二人の会話に入った。
「その八面金剛が負の力とやらでとんでもなくパワーアップしてるっぽいね……」
剣の答えに二人の少女は同時に苦虫を噛み潰したような表情になる。
――彼女たちの心情は同じだろう
ここに来て六神道、岩家の”天孫”を奪われたことが悔やまれる……と。
「二人とも、そんな顔してちゃせっかくの美人が台無しだよ」
そんな状況でさえ、波紫野 剣は彼お決まりの軽口を口に刀を構え直し一歩前に出た。
「まぁ、なんとかなるかな……」
「剣!?あなたまさか!」
弟の表情から何か感じ取った嬰美の叫び声に、剣は苦笑いを浮かべてから呟く。
「……懐に入れさえすれば、活路はある」
「せ、先輩?」
そして姉の心配をよそに、真理奈に目配せした剣は追い足の膝を大きく落とし、重心を低く構え直す。
「波紫野の”天孫”はただの斬撃強化だ。神通力的な意味では他家の天孫に比べて見劣りすると言われがちだけどね……」
「ガァァーーーーッ!!」
再び襲い来る巨体!
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
巨人の咆哮が夜闇に響き渡り!巨大な黒い影が轟音と共に三人に突進して迫るっ!!
「もう!わかったわよ!真理奈、剣の援護をお願い!」
――ブゥゥン
弟の考えに無理矢理同意せざるを得ない嬰美はそう叫ぶと同時に横に跳び、同時に黄金色の光を帯びた刀身を横一閃した!
「波紫野流、遠刀技”斬閃”っ!」
ズバャァァッーーーー
嬰美の刀から放たれた黄金の軌跡が手元から分離し、巨人の胴体に飛来して激しくぶつかった!
「グォォォッ!!」
一瞬!
僅かに!一瞬だけ!踏み留まる巨体。
巨人は嬰美の放った輝く天孫による鎌鼬をモノともせず、眼前に迫る剣士の頭上に巨大な両拳を振り上げていた!
「地鏡っ!」
しかし、巨人との距離を一気に詰めていた剣の背後からスッと別の少女が現れ、そのまま彼の肩に触れた。
――
そして東外 真理奈は横にスライドして、その場から独り脱兎の如く離脱する。
ドドォォォーーーーンッ!!
コンマ数秒後、轟音が轟き地面が激しく揺れて!!砂煙が濛々と舞う……
――が!?
「グォォォッ!」
巨人の眼前には……
大きく抉れた地面には……
波紫野 剣の潰れた屍は無いっ!
「ヴォッォォォッ」
「ざぁんねん!こっちだよ、木偶の坊!」
そしていつの間にか巨人の背後に回り込んでいた剣士は……
波紫野 剣の身体は、何時ぞやの東外 真理奈の様に全身が薄らと黄金に輝いていた。
ジャキ!
鞘に戻した日本刀を自身の前で構え目を閉じる剣士――
ブゥゥーーン
先ほどまで刀身に宿っていた黄金光が鞘から溢れ零れて外界に流れ出す。
「波紫野には派手な奇蹟は要らない。求めるのは――」
そして剣の柄を握る手に力が籠もる!
「唯、ひたすらに斬れる刃のみっ!!」
「ガァァァッ!!」
盛り上がった上半身を捻って振り返り、再び大槌の様な両腕を振り上げる巨人!
「波紫野流、奥義”絶刃鋼”っ!!」
シュオォォーーーン!!
満を持して波紫野 剣が抜き放った刀身から上方に一気に疾る黄金の閃光!
ドガガガァァァァーーーーー!!
巨人を真下から一刀両断する光の刃は!そのまま膨張して爆発した!!
「グォォォォォッッーー!!」
一瞬、夜を昼に変える光の波に呑まれ、断末魔のような叫びをまき散らす巨人!!
――
「これで……駄目ならもう六神道にはどうにもならないかも……ね」
正面を白く染めながらそう洩らした波紫野 剣の表情は、確実な手応えを感じているモノだった。
「や、やったの!?」
「す、すごい、これが波紫野の……」
嬰美が、真理奈が、
「ヴヴッ……ヴヴッ……」
垂直に崩壊する巨人の身体……
ドドドドッ!!
"誰も”が勝利を確信した瞬間だった――
「ヴヴッ……!」
「ガッ……ががぁぁぁぁーーーー!!」
――異変は起きた
「な、なに!?」
「うそっ!」
巨人の双眼に再び燃えるような炎が灯り!
崩壊を進めていたかに見えた巨体が、屈強な下半身で大地に引き留められていたのだ!
キィィーーーーーーーーン
そして……
その巨人の前面には……
キィィーーーーーーーーン
八角形で半透明の見慣れない何かが……
光が屈折したような異質な光の平面が……
――揺らめいていたのだった
第43話「モテモテだねぇ」前編 END