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「神がかり!」第32話後編
第32話「わかった」後編
その後――
相当待たされてから例の一件で貸した”制服の上着”を返して貰った俺は……漸く帰路へと廊下を歩いていた。
「居た、居た!ねぇ、ちょっと……」
「……」
――今晩はバイトが二件
俺はスケジュールを頭の中で整理しながら帰路へと足早に歩く。
「ちょっと、聞いてる?朔太郎!」
「……」
――そう、俺は帰路へと……
「……」
その俺の目前には。
「…………うわぁ」
道を塞ぐように仁王立ちで睨み上げてくる、肩までのミディアムヘアの少女。
「だ・か・らぁ!この私を無視ってどういう了見よ!!」
「……」
――ちがうぞ、お前だから無視したんだぞ……東外 真理奈
心の中でそう愚痴ってみるも、勿論言葉には出さない。
「まぁいいわ。それより、ちょっと話しておくことが……」
そして毎度の事ながら、その俺の心を察しない美少女。
「…………岩家のことか?」
もう面倒臭いので素直に対応する。
「ええ、相変わらず妙に察しは良いのね」
――お前は悪いけどな
どこか妙に楽しそうな少女……
――謎だ
「正確にはね、岩家先輩というより御端 來斗先輩の事になるのだけど……」
――
そして要約すると、東外 真理奈の話はこうであった。
学生連の筆頭であり、六神道の家のひとりである御端 來斗は、真理奈の独自調査では、どうやらあの天都原学園女生徒失踪事件に一枚噛んでいる……
というより首謀者の可能性が高いらしい。
そして六神道が排除しようとしていた守居 蛍と裏で通じていたらしい岩家が六神道の正式な処分を待たずして行方不明になったのも、どうやら御端 來斗の仕業だと……
真理奈は読んでいるそうだ。
「岩家が……蛍と……ね」
――なんとなく……少しはその可能性を考えていたが……
「守居 蛍が活動している”蛍雪の会”とかに関わろうとした人間や、興味本位で彼女に深く関わろうとした人間を裏で排除していたみたい。部員を勧誘していた割にそんな真逆な事を岩家先輩に依頼するなんて……今のところ理由は解らないけどね」
「……」
――理由……ね
それは多分、真理奈……部外者には解らないだろうよ。
この時点で真理奈が不可解だと言ったことに対し、実は俺には一つの回答があった。
「兎に角!御端 來斗は岩家先輩を”器”に使って、六神道の禁忌に手を染めつつあるようなのよ!これ重要!これが一番の問題よ!」
「……」
――六神道は俺には関係ないなぁ
「女生徒達をさらっていたのも、嬰美先輩を監禁していたのも、全部……なんとか六神道の家々で裁こうと訴えたのだけど証拠が殆ど無い上に被害者はみんな記憶が曖昧で……」
――確か……嬰美は記憶が結構あるみたいだったが?
なるほど、証拠を伴わない証言は却下されたってわけか?…
六神道の家同士、対立とかもあるんだろうなぁ。
俺は権力者で旧家である仕来りとか、なんとか……
色々とご苦労なことだと、呆れていた。
「関係ないな」
「っ!?」
「だから、その御端なんちゃらが何をしようが俺には関係ない話だ」
そして俺は、実に俺らしい答えを真理奈に返す。
「む……それは……そうなんだけど……」
「で、俺に話って言うのはそれだけか?」
もはや周知であろう俺のぶっきらぼう振りに、真理奈は少し不満そうに頬を膨らませたが直ぐに表情を切り替える。
「波紫野先輩は一応無事で、ちょっと軽い怪我をしただけで済んだそうよ。数日検査したみたいだけど、明日からは登校するって」
「ほぅ……」
――まぁ、これは関係あると言えばあるか?
怪物を押しつけたわけだしな。
「あ、あと、それと……あの……」
波紫野の状況を聞いてから背中を向けて早々に去ろうとした俺に、少女はモジモジと戸惑いがちに声をかけてくる。
「……」
立ち止まって、一応振り返る俺。
「その……えっと……このカーデ……あ、ありがとう。えっとね……結構気に入ってるんだ……だから」
――なんだ?
今更……妙にしおらしいし?
「ああ……そうか?それは良かった」
俺は多少疑問符を浮かべながらも、そう返事して再び帰路へと……
「あのっ!朔太郎!」
「……」
――だからなんなんだよ?……いったい
俺は本当に面倒臭いという顔で再び振り返った。
「え、えっと……永伏さんが仕事の邪魔をした朔太郎を潰すって息巻いていたのだけど……相手にしたら駄目よ。今は六神道もそれどころじゃないから無視をすれば強引な手段には出られないはずだから……」
「……」
心配そうな瞳で此方を見る美少女を眺めながら――
俺はついさっき会っていたばかりの……
この少女と同じ”六神道”である剣道少女との出来事が頭を過った。
――
―
ガサッ
紙袋をそっと俺に手渡す、制服姿に着替えた黒髪美少女。
「一応……クリーニング済みだから……」
流れる様な黒髪が美しい、見るからに大和撫子な美少女、波紫野 嬰美は少し俯き加減に目を逸らしながらそう言った。
「おお、悪いな。余計に気を遣わせて」
俺はそれを無造作に受け取り軽く礼を言う。
「い……いえ、助けて貰ったのはこっちだし……その……その後も……」
「?」
紙袋を上から覗き込み、俺は中身を軽く確認してから、部活中の時とは随分と雰囲気の異なる美少女を見る。
「その……優しく……してくれて……」
夕日に映える白い肌を、明らかにそればかりでは無いだろう朱色に染めて……
黒髪の美少女はそう呟くようにそう口にする。
「そうか?まぁ気にするな。じゃあ俺はバイトあるから」
――面倒臭いことは御免だ
本能的にそう感じた俺は素っ気なくそう言って背を向けた。
「……」
「……」
「……あのっ!」
数歩ほど歩いたところで、少女の躊躇いがちな声が掛かった。
「……」
紙袋を肩に担いだ俺はその場で振り返る。
「えっと……その……そうだ!!な、永伏さんがね……」
「なが……ふし?」
――ああ、あのガラが悪い……
六神道で蛍を排除する計画実行の首謀者か。
俺は該当の人物を思い出す。
「貴方を潰すって。相手にしたら駄目よ、ほっとけば良いんだから」
「……」
俺は黙ったまま彼女の顔を見る。
――それは俺に言っても良いことなのか?と……
「その……もし面倒な事になりそうなら私……えっと、波紫野が何とかするから。れ、連絡……そう、連絡くれれば」
「……」
ジッと見据える俺。
「そ、そうなったら……だけど……その……」
益々朱く染まった頬を俺の視線から逸らすように横を向く黒髪の美少女。
「……わかった」
その時の俺は、取りあえず短くそう応えてその場を後にしたのだった。
――
―
――っていう、似たような場面があったなぁ……たしか
俺は既視感を感じながら、現在は目の前の違う美少女を見ていた。
「……え?え?なに?私、変なこと言った?」
妙な間を黙り続けていた俺に、不安そうな瞳を向ける真理奈。
「いや……そうか、わかった」
そんな彼女を後目に、俺はそう言うと背を向けて帰路についたのだった。
――
―
ピリリッ……
ピリリリッ!!
その後、独りで歩く俺が校門前まで差し掛かった時……
俺の……いや、真理奈から借りたままのスマートフォンがけたたましく鳴った。
「……」
立ち止まった俺は――
ディスプレイに表示された名前を確認して通話ボタンを押す。
――
「てめぇ!東外じゃ無いだろ!っ?誤魔化しても無駄なんだよっ!ネタは挙がってんだ!!いま”東外のスマホ”を持ってるのはテメェだろうがっ!あっ?折山……なんとか太郎っ!!」
――俺は何も言っていない……
しかし、この一方的な怒声。
――頭……悪いな……
「……」
俺はそんな事を考えながらも、依然、無言で対応する。
「だいたいテメェは何者なんだよっ!!邪魔ばかりしやがって!解ってんのか!コラァッ!!」
――云々かんぬん
その後も罵声は暫く延々と続いたが……
「ああ?聞いてんだろうなぁっ!てめぇ!!」
「……」
――ああ、勿論聞いていない
――けど……
「てめぇの泣きっ面を見下ろすのが待ち遠しいぜ!ええ!折山なんとか太郎よぉっ!!明日の夜十時に学園の裏庭だ!バックレんなよっ!」
――けどな……
俺はスマートフォン越しの”その言葉だけ”は聞いて……
「ああ、わかった」
俺の口元は口角を上げていた。
その言葉だけは――
ずっと待っていた言葉だった。
第32話「わかった」後編 END