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「神がかり!」第55T話後編

第55T話「二度目の告白」後編

 「……て、てる?」

 同時に、ふわりと……

 淡い桃の花のような香りが漂う。

 「前にもね……言ったけど……い男の人とかモテる人って”そういうところ”を上手くやるんだよ?」

 「う!……まぁ……な」

 ――そうだ

 きっとそうだろう。

 ――でも、俺には出来ない

 やっと自分の本心を理解出来たばかりの、現在いまの俺にはそこまで余裕が無い。

 ――まったもって情けない話だ

 「…………」

 だから、俺は真剣に彼女を――

 ただ目を逸らさずに見続けていた。

 俺にはそうすることが最も誠実なことなんだと思ったから。

 「嘘……うそだよ。そんな都合の良いだけの言葉……そんな調子の良い人間、優しいだけの男性ひとなんて、しんじられない……よ」

 そんな俺の態度にかのじょは慌てて訂正をする。

 「わ、わたし……ひねくれてしまってるから……ごめんね」

 俺の真摯な瞳に彼女は……

 てるは”ぷいっ”とばつが悪そうに視線を逸らす。

 「まぁ、それは、おたがいに……な」

 彼女もきっと、どうして良いか解らないのだろう。

 俺はそんな彼女の――

 「ぁ……」

 視線を逸らしてもなお、決して下げられる事の無かった彼女の手を……

 差し出された白い手をギュッと握って立ち上がる。

 「よっと!」

 その時には俺は少しだけ心が落ち着いて来ていたのだろう。

 立ち上がり――

 白い手の平から離れた手を、そのまま少女の白く形の良いあごに宛がって……

 「っ!?」

 そして、出来るだけ優しく顔を上げるように促した。

 「……」

 てるは居心地が悪そうに視線を逸らしたままだったが、特にそれに抵抗はしなかった。

 ――可愛いな……ほんとうに

 俺は心底そう思う。

 「お前、確かさっき教室で言ってただろ?鼻水とよだれを垂らしながら、騙すより騙される方になりたいって、だから今回はその馬鹿の話に乗ってみないか?」

 「っ!?よ、涎は垂らしてないっ!!」

 少女はそれまでのしおらしい表情はどこへやら、

 乙女としては聞き捨てならないだろう俺の台詞に、表情を豹変させてババッと視線を合わせた!

 「いや、どうせなら鼻水も否定しろよ」

 「うっ!……うう……それは……自信無い」

 途端に泳ぐ視線。

 彼女の白い頬は数瞬前さっきまでと違った意味で少し上気していた。

 ――これはいつもの……てる

 これもまた可愛いな。

 「とにかく、だったら騙されてみろよ」

 少しだけ調子が戻ったてるを見て俺の口元は緩んでいた。

 「ば、馬鹿じゃない!?わかってて騙される人間なんて……!?」

 「……」

 そこで恐らく彼女の頭にはある馬鹿の顔が浮かんだのだろう。

 今回の一連の出来事……

 よせばいいのに関わって大けがをして、あまつさえ死に損なった正真正銘の馬鹿。

 「…………」

 彼女は黙って俺を見詰めていた。

 「ほんと……バカだね。ホンモノの……ばか」

 今の俺にはその言葉の意味が解る。

 「必要なら、これからも俺が守ってやる」

 「っ!!」

 今度もまた違った意味でボッと白い頬を染める……

 ”くるくる”と忙しく表情を変える多感な少女。

 「な、なにそれっ?お、俺が守ってやる?ヒーロー気取りなの?安っぽいよ!」

 彼女は恥ずかしさからだろう、健気にも抵抗を試みる……が!

 「辛かっただろお前、苦しかっただろ。いや、それよりも……どうして良いか、どうやって自分の残りを繋いでいったら良いか解らなかったんだろ?」

 「……」

 それは俺の辿った道、俺達が今も迷う道。

 「俺はお前を助け続けたい。そうすることが多分、俺の救いにもなるんだと解ったから」

 「さ、朔太郎さくたろうくん、キミなに言って……」

 戸惑いがちに俺を見る少女はもう、既に大した鎧は纏っていなかった。

 「なにって?お願いしてるんだよ。俺と付き合ってくれって、愛の告白だ」

 「っっ!?」

 そう、彼女の鎧は……

 厚みが薄いが故に何重にも重ねていた彼女の心の鎧は……

 もう殆ど剥がれ落ちて、残りは俺が仕上げとばかりに引っ剥がす一枚きりだろう。

 「あ、あの……さくた……」

 「このとおりっ!!」

 「きゃっ!?」

 俺は有無を言わせず、ババッと顔の前で両手を合わせて頭を深々と下げていた。

 「頼むてる!俺を助けると思って俺に助けられてくれっ!」

 「…………」

 守居かみい てるはもう……混乱の極みだろう。

 垂れ目気味の瞳をぱちくりと開いて言葉を失っていた。

 ――

 そして、気を利かせてだろうか?

 少し離れたところで聞き耳を立てていた六神道ろくしんどうの奴等もなんだか、要領を得ない顔で固まっていた。

 「…………」

 それもそうだろう。

 未だかつてこんな素っ頓狂なことを言うヒーローがいただろうか?

 ――いや、いない!

 ――いないでいて欲しい

 俺は切実にそう願う!

 「な、なに?なに言ってるのか解らないよ……キミ……頭良いはずなのに……ぜんぜんなに言ってるのかわからない」

 「ああ……俺もだ」

 俺は未だ頭を深々と下げたまま応えた。

 「…………」

 「…………」

 ――なんでこうなった?

 ――俺はただ正直に……

 俺自身の心に正直に従って……

 ――くっ!

 馴れないことはするもんじゃ無い。

 俺は心底後悔しながら地面を見つめていた。

 「…………ぷっ」

 そんな中、吹き出す少女。

 「?……おい?」

 「ぷふっ、あははっ!」

 「だ、だから!笑うところかよ!」

 滑稽だったのは認める。

 珍妙だったのも……

 ――けど、俺はこう見えて真剣なんだよ!

 必死だった……いや、ちょっと必死すぎたのかもしれない。

 「笑うところだよ?朔太郎さくたろうくん。ほんと……変わってるキミ……しいよ」

 そう言って”くすくす”と、こみ上げる笑いをこらえきれずに小刻みに身体からだを震わす少女。

 「…………」

 ――いやコレって……どうなんだ?

 結局俺はどうなった?

 本日、二度もふられたのか?

 それとも……

 「あっ!」

 そしてそんな俺の胸中をに、てるは何かに気づいたようだ。

 ――!?

 そして、直ぐに彼女の視線を全員が追っていた。

 ザッ、ザッ……

 そこには――

 ザッ、ザッ、ザッ……

 こちらに近づいてくる二人の大人の人影。

 「……」

 俺は――

 勿論、忘れていたわけでは無かったが……

 ザッ、ザッ……

 「……」

 ――西島にしじま かおる

 俺は自身の腕に、指先にまで……

 ビクリと硬直して力がもるのを感じていた。

第55T話「二度目の告白」後編 END

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