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「たてたてヨコヨコ。」第06話

イラスト作成:まんぼう719さん

第06話「うさぎのお・ね・が・い?」

 そんなこんなで、幾万いくま 目貫めぬきのガラクタ店で出会った男女の顛末はご存じの通りだった。

 ーーなにがなんだか解らないままに狼男との闘いに巻き込まれ……

 ーーなにがなんだか解らないまま、ボコスカ殴られ、囓られ、引っ掻かれ……

 ーーなにがなんだか解らないまま、

 出会ったばかりのプラチナブロンドツインテール美少女に命令され罵られた!!

 「……」

 いつも通り幾万いくま 目貫めぬきのオンボロ店に作品を納品に行っただけの俺は、いつの間にか傍観者からプレイヤーに強制転換させられたのだった。

 ――

 なんだか改めて思い出したら、踏んだり蹴ったりだったな。

 これじゃ得した事って言ったらブロンドツインテ美少女に命令され罵られた事ぐらい…………いや、違う違うっ!

 ーーコホン

 と、とにかくあの夜は大変だったってワケだ。

 「……」

 「どうしたの?私の顔をじっと見て。何か気になることでも?」

 本日、学校まで来て、そのまま俺の部屋を訪れた彼女の目的は……

 「……」

 あの時に使った”片手剣”……

 結局は俺の作った対幻獣種げんじゅうしゅ用の武具だと言う事だろうな。

 ――はぁ……

 「いや、別に気になることは無い。あの夜以来だなと思っただけだ」

 分不相応な期待に肩すかしをくらった俺は、少々落ち込みつつ応えた。

 「そうなんだ……うん、そうだね」

 まぁ、それはそれで俺の作品を評価してくれたって事で……

 そう、俺は結構切り替えられる出来る男なのだ。

 「ああ、結局あの夜はお前と本来無関係の俺が狼男に殴られたり、お前と知り合いでもなんでも無い俺が狼男に咬まれたり、赤の他人の女を手伝ってやったはずの俺がそのプラチナブロンド美少女に壁にぶつけられたり、あまつさえ無関係この上ない被害者の俺が追い打ちのように翠玉石エメラルドの瞳の美少女に舌をかまされたり…………そう思っただけだ」

 「って!ウソばっかり!滅茶苦茶気にしてるじゃ無い!!」

 もとい!俺の未練たらしさはウザ絡みする小者そのものだった。

 ――とはいえ……

 「当たり前だ!下手したら死んでたんだぞっ!ていうか嘘はついていない!”気になること”は無いが”気にしてる”……いやいや!”気に入らない”事は山とあるわっ!!」

 彼女いない歴イコール年齢の男子高校生が抱いた淡い期待へのこの末路には同情して欲しい!くぅぅ……

 「あ、あやまったのに……」

 恨めしそうに見返してくる少女だが――

 美しい翠玉石エメラルドの瞳がウルウルと揺れ、淡い桜色の可愛らしい唇がフルフルと震える様は……

 「うっ!」

 ーー不味い!言い過ぎたか……

 と、小者が一瞬で改心するほどの破壊力だった。

 ま、まぁ、学校での事もあったし、ついストレスが……

 てか、ここまで可愛いってのはある意味正義だなぁ。

 心の中の俺は既に白旗を振って明らかに戦意喪失していた。

 「い、いま、ちょっと仕事が立て込んでいるんで……工房で作業しながらで良いか?」

 すっかり毒気を抜かれ、へたれた俺は打って変わ変わって出来るだけ優しく問いかける。

 「う……うん、わかったわ」

 そして俺の提案に当の彼女は、素直に頷いたのだった。

 ーー
 ー

 結局、さっきまでの表情はなんだったのか?

 嬉々として俺の工房に入るプラチナブロンドの美少女。

 「わぁ、へえ……」

 俺的にはこんな場所で申し訳ないというつもりだったが、彼女は寧ろその工房が見たいと喜んだくらいだった。

 「ふふっ」

 「……」

 ーーまぁ……良いか

 笑顔の美少女は良い目の保養にはなるしな……

 ――

 それで、今から始める俺の今度の仕事は……魔法珠まほうじゅの制作だ。

 実は対幻想種技能別職種エシェックカテゴリには戦士ソルデア系、職人フォルジュ系と並んでもう一つの幻想職種カテゴリが存在する。

 今までそれに触れなかったというのも、俺が戦士ソルデア系でも職人フォルジュ系でも無いと判明したときにそのもう一つの可能性である幻想職種カテゴリが全く頭に浮かばなかったことが理由だ。

 もう一つの対幻想種技能別職種エシェックカテゴリ、それは魔導士ソルシエール系。

 読んで字の如し”魔法使い”のことである。

 魔法というダントツの特異性から”なり手”はかなり希少で、その条件には突出した頭脳が必要だという。

 突出した頭脳……

 これが特に俺が該当しないと、自身が無意識下で選択肢から除外していた理由だ。

 ーーべ、べつに俺は馬鹿というほどじゃ無いぞ!

 突出した頭脳なんて普通はそうはいないんだよ!

 それに魔導士ソルシエールは対人戦闘ならまだしも、対幻獣種げんじゅうしゅにはあまり決定打が無い。

 強靱な肉体と特殊な結界を持つ奴らには魔法は相性が悪いのだ。

 だから魔導士ソルシエールとはどちらかというと戦士ソルデアの補助的存在というのが実際だろう。

 戦いの花形である戦士ソルデアの戦闘前段階での補助的存在、職人フォルジュ

 戦士ソルデアの戦闘中での補助的存在、魔導士ソルシエール

 一般的な役割的にはこういったところだろうか。

 とはいえ、魔導士ソルシエールでも優秀なら全然、単騎で戦える。

 戦士ソルデア系でいうところの聖騎士級パラティンクラスレベルなら戦士ソルデアと比べてもほぼ見劣りしないだろう。

 つまり戦闘能力が皆無なのは職人フォルジュ系だけって事だ……はぁ。

 ーーゴトッゴトッゴトッ

 俺はそんなことを考えながらも、しっかりした鉄製作業机の引き出しからいくつかの魔法珠まほうじゅの原型を作業台の上に並べてゆく。

 「……」

 しかし――

 ”九法正珠きゅうほうせいじゅ”……

 まさかそんなご大層な代物の制作依頼が俺に来るとはな……

 しかも、あの幾万 目貫インチキずきんを通さない、中間マージン取っ払いの仕事だ。

 おいしい!おいしい仕事だが!

 その分、難易度も高い。

 「よしっ!」

 とりあえず基本構造は既に頭の中で構築済みだ!

 問題はここからの……

 ――

 「へえ、今度は魔法珠まほうじゅを作るんだ?」

 いつの間にか横から羽咲うさぎ翠玉石エメラルドの瞳が俺の作業を興味深げに眺めていた。

 「ま、まあな……」

 人生に無かった経験に照れまくる純朴少年。

 「ふぅん、どんな?」

 短く答えた俺に突っ込んで聞いてくるプラチナブロンドの美少女。

 「き、企業秘密だ!それより……そっちの話の方はいいのか?」

 本当は別にそれほどのモノでも無いのだが、

 やっぱり顧客情報は簡単に他人に話すものでは無いだろう。

 「そうだね……でも、面白そうだから暫く見学してるよ」

 「……」

 なんだ?家まで押しかけてくるからよっぽど切羽詰まった状況かとも考えたけど……

 唯のお嬢様の暇つぶしなのか?

 俺は引っかかりながらも、それはそれ、作業を続ける。

 ーーー
 ーー

 「……」

 「ふーん、仕事の時はそんな表情かおするんだ」

 「?」

 「ううん、ちょっとだけ見惚みとれてただけ」

 ーーなっ!……へ!?

 「クス、なんて顔してるのよ」

 そういう経験値の少ない男の間抜け面を見てプラチナブロンドの美少女は屈託無く笑っていた。

 ――くそ……この、プラチナツインテの小悪魔め……

 ーー
 ー

 そして――

 思わず作業の手が止まりかけた俺を置いてきぼりに、既に彼女は部屋の中を歩き回っていたのだった。

 「へぇ、こぢんまりしてるけど、結構本格的なのね」

 そう言いながら興味深そうにあちこちの作業機械や道具を眺めている。

 「貧乏学生だからな……しょぼい工房だろ」

 俺は少し恥ずかしくなりワザと自虐的に言う。

 「そんなこと無いと思うけど?そうね、どっちかというと可愛い工房だわ」

 ーー可愛い?

 工房に対しては斬新な表現だな……

 「わたしは、好きかなぁ……」

 ーーっ!好き?好きだと!

 俺はそれが”俺の工房”に対してだと理解しつつも、思わず身を乗り出しそうになる。

 ーーその程度のことで?

 いやいや!この場合、重要なのはそこでは無いっ!!

 羽咲うさぎ・ヨーコ・クイーゼルという可憐な美少女の可愛らしい桜色の唇から、

 お・れ・に向けて!その国宝級単語ワードが発せられたことが全て世界の真実なのだぁ!!

 「う、羽咲うさぎ!あの……」

 「あ!」

 俺が何を血迷ったのか、彼女に近寄ろうとしたとき彼女は大きな声を上げる。

 ーーごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
 ーーもうしません!もうしません!もうしませんっっ!!

 そして俺はその声に縮こまって心の中で身の程知らずを心底恥じながら平謝りする。

 「?」

 見た目上の俺は多分そのまま変な顔で固まっていたのだろう、彼女はキョトンと俺を見ていた。

 「あのね、これ……この剣……」

 そして怖ず怖ずと、美少女の白くなめらかな指先が部屋の隅に立てかけたモノを指さす。

 「……」

 どうやら彼女は、俺の奇行には気づいていなかったようだ。

 というか、彼女の声は工房の隅に置いてある"一振り"の剣を発見した事によるものらしい。

 「あ、ああ……それは昨日出来上がった物だけど……」

 色々とやましい俺は助かったとばかりに即答する。

 そうだ、あれから俺は――

 幻想職種カテゴリシールド”のトレーニングの後で、結局”それ”を仕上げてしまっていたのだった。

 「へぇ……」

 俺の返答に彼女は翠玉石エメラルドの瞳を輝かせてこちらを見ている。

 いわゆる"おねだり”の視線だ。

 ――うぅ、なんてキラキラしてやがるんだ……

 「べ、べつに……いぞ」

 俺は操られたかのようにコクリと頷いて許可を出す。

 「やった!」

 途端にプラチナブロンドの美少女の顔はぱっと輝き、直ぐにその剣を手にとって縦に横にと品定めを始める。

 「この間のも良かったけど……これは、もっと良い感じだわ」

 ーーシャラン!

 そう独り言を言いながら、剣を抜き放ちおもむろに構える。

 「おい!」

 「……」

 慌てて止めようとする俺にかまわず、一瞬で彼女の瞳は真剣そのものに変わっていた。

 ーーヒュン!ヒュン!

 ただでさえ狭い部屋の中、ごちゃごちゃと作業道具が散乱する中で、

 それを全く意識させずに銀色の剣は一閃、二閃する。

 ーーおぉ……

 銀色の珠が幾度も幾度も、縦横無尽に散っては消える。

 すごい……狭いスペースにもかかわらず全く窮屈な感じがしない。

 いや、寧ろその剣は伸びやかに流麗に舞っているようだ。

 「やっぱり……これだ」

 プラチナブロンドの美少女はなんだか思慮深い表情から呟いていた。

 「……」

 そして俺はと言えば――

 最初は驚いていたが、後半はすっかり魅せられている。

 俺はただその光景を前に完全に作業の手を止め立ち尽くしていたのだ。

 「ねえ、盾也じゅんやくん。わたしを助けてみる気はない?」

 銀色の光を鞘に収めた希代の使い手は、俺を顧みてそう問いかける。

 「…………は?」

 えっと……今なんて?

 このプラチナブロンドのツインテール美少女は、いまなんて言ったんだ?

 助けてみるつもりは無いか?

 それってお願いか?それとも依頼?

 いや、どっちにしろ聞いたことが無い提案だ。

 「…………」

 間抜けな顔で少女を見る俺。

 「えっと、話が……みえないんだが?」

 「そう?単純だと思うんだけど?」

 彼女は平然と答える。

 「単純?どこが……」

 「だ・か・らぁ、貴方は作った剣をわたしのために提供して、戦いでは”あの能力”でわたしのサポートをする。単純でしょ?」

 ーー
 ー

 「…………俺のメリットがどこら辺にあるのか理解できない」

 「わがままね」

 ーーどっちがだ!!

 俺の人生は突如巻き込まれた春の嵐のような、

 それでいて、どこかワクワクするような……

 「……」

 いやいや!!

 やっぱり大変なだけの厄介ごとに――

 とびきりなプラチナブロンドのツインテール美少女によって、またも振り回されようとしていた。

第06話「うさぎのお・ね・が・い?」END

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