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「たてたてヨコヨコ。」第08話

イラスト作成:まんぼう719さん

第08話「闇夜のうさぎ?」

 ーーヴァヴァヴァッ!
 ーーギャヴァヴァウ!

 「あはは、俺はてっきり半魚人はギョギョギョ!って話すもんだと思ってたよ」

 「……」

 プラチナブロンドのツインテール美少女は黙々と作業をこなしている。

 「えっと、今の”ギョギョ”っていうのは魚の”ぎょ”と驚きの”ぎょ”をかけた……」

 「……」

 ジロリと無言で睨む翠玉石エメラルドの瞳。

 「うう……」

 俺は目を逸らしていた。

 ガコンッ!コンッ!

 プラチナブロンドのツインテール美少女、羽咲うさぎ・ヨーコ・クイーゼルは――

 さっきから俺の部屋にあった鉄アレイ(三キログラム)二個に、しっかりとした荷造り用のロープを結びつける作業を黙々と続けている。

 「まとの数は?」

 その後も暫く作業を続けた羽咲うさぎ・ヨーコ・クイーゼルは淡々として問いかけてくる。

 「……」

 俺のウィットに富んだ会話には付き合わないくせに自分の用件はさっさと済まそうとする、けしからん輩だ。

 「盾也じゅんやくん」

 ーーはいはい、”マト”ね

 ーーああ、下の半魚人達のことか?

 「えーと、五……いや六人かな?……てか、”にん?”えっと、魚だから“ひき”か?いや半分は人だから……」

 ガコン!

 「ひっ!」

 「どっちでもいいわ、化け物の助数詞なんて。貴方、意外と余裕が……」

 俺が住むマンションの屋上――

 下を見下ろしていた俺はコンクリ床にぶつかる不機嫌な音で少々ビビるも、その横につい先ほど出来あがったばかり、俺のビビリの元凶であるお手製”鎖付鉄球モーニングスター”らしきものを二つ携えて来た美少女は若干、呆れ気味にそう言いかけて……

 そこで言葉を一旦止めていた。

 「……」

 間近で輝く翠玉石エメラルドの視線がスッと俺の足下に移動して、再び俺の顔に戻ってーー
 
 「余裕……ないみたいね」

 そう言い直す。

 「……そ、そうでも……ある」

 そうだ、情けない話だが俺の足はガクガクと震えていたのだ。

 ――女の子の前でかっこわるい?

 仕方ないだろ!俺は戦士ソルデア系のような前面に出るタイプじゃない!

 この間の人狼じんろう戦だって成り行きだったし……

 「盾也じゅんやくん……貴方、もしかしてこの間の実戦ことって初めてだったの?」

 羽咲うさぎは驚いたように美しい瞳を丸くさせて俺を見る。

 「いや、初めてなんて恥ずかしいこと、女の子が聞いたら駄目だろ」

 「……」

 思わずて返す俺を真面目な視線で見る羽咲うさぎ

 もうお解りかと思うが――

 この俺の態度はただの誤魔化しだ。

 怖くて怖くて仕方ないのを誤魔化すためにている。

 それはお化け屋敷やジェットコースターなど、苦手なものを体験する前に異常にテンションが高くなるような感じと酷似していのかもしれない。

 「……不思議」

 「な、何が?」

 俺はかっこわるい自分を見透かされ、かなり居心地が悪いながらも彼女の意味不明な言葉を聞き返す。

 「いえ、なんでもないわ。大丈夫よ、わたし一応、英雄級ロワクラスなんだから。あの程度の幻獣種げんじゅうしゅくらい簡単に撃退できるわ」

 腰に工房にあった俺の剣を携えた羽咲うさぎは、そう言って俺を安心させようと微笑むがどう見ても笑い方がぎこちない。

 ーーどうもおかしい?

 さっきの話といい、”まだ”なにか隠してあるのか?

 俺は何故だか、どうしても大船に乗ったような気にはなれなかった。

 「さっき話した作戦通り、貴方がここから"コレ”で幻獣種げんじゅうしゅに先制攻撃する、理解したフェアシュテーストゥ ドゥ?」

 彼女は自作したばかりのお手製鎖付鉄球モーニングスター……もとい、荷造り用ロープ付鉄球(三キログラム)二個を俺に渡す。

 幻獣種げんじゅうしゅには戦士ソルデア魔導士ソルシエールのような能力者の攻撃以外は効果が無いのは周知の通りだが、彼女が言うには荷造り用ロープ付鉄球(三キログラム)で奇襲攻撃を行い、攪乱して欲しいということだ。

 その隙に戦士ソルデア系能力者である彼女が相手の死角に回り込み一気に殲滅する……

 つまり、俺は殆ど戦力的には頭数には入っていないみたいだ。

 まぁ、まともに戦っても戦力にならない俺のことを考えると、

 今の状況で”多対個”の戦い方としてはギリギリありな戦術だろう。

 「ああ、わかった」

 それでも、本心では戦闘に関わりたくない俺は不承不承でそう応えたのだった。

 「うん、よろしくね」

 羽咲うさぎはそれを確認した後でコクリと頷いて屋上出入り口の方へ姿を消す。

 ーー
 ー

 「…………」

 俺は再び屋上の縁から下を眺めていた。

 眼下では今まさに、俺の部屋に踏み込む算段でもしているのであろう半魚人達、

 それを監視しながら彼女の準備が整うのを待つ。

 「…………」

 暫く――

 俺は独りで屋上から半魚人達を注意深く観察する。

 ーーホントにやれるのか?二人で……

 部屋で彼女は言った。

 恐らく自分を追って幻獣種げんじゅうしゅがこの近くに来ていると。

 なにか気配のようなものを察知したのだろうか?

 ――

 そして彼女は提案してきた。

 このビルの屋上は出られるのか?

 可能ならそこから現状を分析し、撃退できる体勢を整えようと。

 かくして、幻獣種げんじゅうしゅは本当にそこに居たのだが……

 確かに相手が襲ってくる以上、反撃はせねばなるまい。

 しかし、この戦いは本当に勝ち目があるのか?

 俺は当然、戦力らしい戦力にはならない。

 それは彼女も承知だろうし……

 「……」

 ピピピピッ!

 「!」

 俺がついつい考え込んでしまっていると、合図の携帯電話が鳴り響いた。

 ーーギャギャッ!
 ーーギュギュギュ!

 そして当然!

 遙か頭上から響く異音に気づいた、下方にたむろする半魚人たちも慌ただしく反応していた。

 「ええいっ、ままよ!」

 俺は半ばやけくそ気味に手に持った彼女お手製の鎖付鉄球モーニングスターもどきを一投する!

 ヒュゥゥゥゥゥゥ――――――ガコォォ!

 ーーグギャッ!

 「お!命中!」

 続いて二投目!

 ヒュゥゥゥゥゥゥ――――――ドカァァ!

 ーーガギャッ!

 「これまた命中!」

 俺の投擲した凶器が命中した二匹は、頭に鉄アレイを喰らってもんどり打って倒れた。

 ーー三キロの鉄の塊を六階の高さから頭頂部に直撃される!

 重力と加速度、不意打ちも合わさって、普通なら如何いかに化け物といえど直ぐには立ち上がれないだろう。

 ーーギャギャ!

 「あ……普通に立ち上がった」

 残念、全く効いていない。

 直ぐに立ち上がって……

 ギロッ!ギロッ!ギロッ!

 一斉に上方こっちを見る!

 「うおっ!?まさか!の、登って来やがるのかっ!?」

 そして半魚人たちは水かきのある四肢を器用に使って壁を這い上がってくる。

 「うそだろ!なんで魚がそんなに登るのうまいんだよ!」

 ――くっ!あいつら、ご丁寧に一列に並んで登って来やがる……

 ――…………?あれ?一列?

 なんで怪物がそんな規則正しい行動を?

 「へっ!?」

 咄嗟に疑問に思った俺だが、直ぐにそれに気づいた。

 俺が覗いているビルの屋上の縁、そこから垂れ下がったロープに……

 「……あ」

 俺が先ほど投げた彼女お手製の鎖付鉄球モーニングスターもどき。

 そのうち一つに繋がっていた荷造り用ロープは何故か後方の給水タンクの台座にしっかりと結びつけられていたのだ。

 ――レッツ崖登りクライミング

 と言わんばかりに屋上から下に垂れ下がるロープ!

 つまり半魚人達は"それ"を伝ってよじ登って来ていたのだ。

 「な、なんで?」

 ――う、うそだろ!どうすんだよこれ!

 このままじゃ俺はお魚の餌に……

 ーーヴァヴァヴァッ!
 ーーギャヴァヴァウ!

 「うわーーー!」

 ”鯉の滝登り”よろしく、眼前で展開される”半漁人のビル登り”……

 「シャレになんねぇーー!」

 ーーっ!?

 思わずそこから離脱しようとした俺の背後になにか異様な気配がっ!

 「へ?……え……と……」

 「…………」
 
 冷めた表情で背後にスッと立つ人影。

 それは……

 それは階下に移動したはずのプラチナブロンドのツインテール美少女、

 ――羽咲うさぎ・ヨーコ・クイーゼル!!

 「う、羽咲うさぎ……」

 「…………」

 情けなく腰砕けになった俺を一瞥し、彼女は踏み出していた。

 そう!踏み出した!

 ビルの屋上から足下に、なにも無い虚空へと……

 「……」

 「あれ……え……」

 瞬間にチラリとだけ見えた、

 闇の底に跳び立つ美少女の泳ぐ二本のプラチブロンドの間から――

 彼女の整った唇が僅かに口角を上げていたのが……

第08話「闇夜のうさぎ?」END

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