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「神がかり!」第48話前編

第48話「サンキュ!」前編

 「グォォォォォッッーーーーーー!!」

 バンッ!ババンッ!!

 今の今まで地に伏していた巨人の両肩が山のように盛り上がり――

 人体を丸ごと鷲掴み出来そうな両手の平がガシリ!と大地を叩いて起き上がる!!

 「…………」

 ――岩家いわいえ 禮雄れお

 元から巨漢で会った男は更に非常識なほどの”巨人”に姿を変えられ、最早”人間ひと”では無い神話の”怪物ばけもの”へと成り果てる。

 「ヴォオォォォッ!!」

 その怪物の顔面は分厚い革製ベルトが巻き付けられ、虜囚のように視界を奪われているものの、確かに……

 ズズン!ズズンッ!

 ちらに意識を向け、地響きと共にゆっくりと歩を進めて来る。

 「ヴォォォォンッ!!」

 ズン!――ズズンッ!

 怪物の巨体は……

 異常なほど屈強な異形の肉体は……

 「ガァァァァァァッ!!」

 月光を浴び、再び身体からだ彼方此方あちこちからボンヤリと光を放っていた。

 「な、なんなのよ……こんな……倒れる前よりなんだか……くっ!」

 東外とが 真理奈まりなの口から絶望を伴う感想が漏れそうになるも、彼女は勇気を維持できる最後の一線を保つ為にその言葉を口には出さなかった。

 「グルルルルッ!!」

 暗闇の中、ボゥッと光を放つ全身に刻まれた痣のような入れ墨……

 ――呪術的な”なにか”

 ”古代文字それ”を全身に刻んだ”術式兵器きょじん”は放たれた超獣。

 いや!野生としての生命力をみなぎらせない無機質な不気味さは……

 ――むし創作話ものがたりにある人工物の怪物フランケンシュタインだっ!

 「……ふぅ」

 ――まぁ、どちらにしても……

 俺としては、あまり関わりたく無いたぐいの相手ではある。

 「まだ……終わりじゃ無いの……」

 近くでは流石の波紫野はしの 嬰美えいみも憔悴した表情で、所々にこぼれした刀を手にしたまま思わずだろう弱音を吐いて数歩後ろに退がっていた。

 「終わり?ははっ!終わりってなんだよ?」

 そんな皆の反応を見てスッカリ覇気を取り戻した御端みはし 來斗らいとは、血だらけの不格好な顔のまま――

 「岩家いわいえはな!御端みはしの”三柱みはしら”が破壊された事で放出された残り全ての”マガツ”をその体内に呼び込んだ!!つ・ま・りぃ!?ひゃははっ!さっきよりもずっと”ヤバイ”ってことなんだよぉぉっ!!ひゃははは!くははははぁぁぁ!!」

 未だ無様に地にひざまずいた恰好のまま!

 波紫野はしの けんに取り押さえられたまま、歪んだ表情で狂ったように笑い転げる!!

 「あ、あんなのは岩家いわいえ先輩じゃないわ!あれは御端あなたが……」

 「そぉ・おぅ・だぁ・よぉぉっ?嬰美えいみぃぃっ!!アレは岩家いわいえなんて小物じゃ無いっ!より強大になった”禍津神まがつかみ”だぁぁっ!!」

 「くっ!」

 波紫野はしの 嬰美えいみは狂った男の反論に嫌悪を露わにするも狂気に一蹴される!

 「このっ!どこにこんな力がっ!」

 目的達成を阻まれたはずの蜂蜜金髪ハニーブロンドの男は唯々ただただ狂ったようにわらい暴れ、それを必死で押さえつける波紫野はしの けんは瀕死である男に少々てこずっていた。

 「く……で、どうする?さくちゃん!”怪物アレ”には攻撃が効かない……鉄壁の防御、”天岩戸あまのいわと”があるんだ」

 波紫野はしの けん御端みはし 來斗らいとを押さえ込むことに四苦八苦しながらも、俺にすがるように問いかけてくる。

 「……」

 ――”天岩戸あまのいわと”?

 俺はというと、

 ――それも六神道ろくしんどうとやらの天孫てんそんなのか?

 最早、使い物にならないだろう自らの四肢を巨人の方へ開いて向け、背後のてるを庇うように立っていた。

 「いね……こっちはもう戦力切れだ。俺や嬰美えいみちゃんの刀はこの状態だし、凛子りんこさんの天弓てんきゅうも弾切れ。永伏ながふしさんは死んでるし……」

 「お……こら……は、波紫野はしの弟!てめぇ……か、勝手に俺を死人にするんじゃ……」

 なんとか喋れるだけの瀕死であるガラの悪い男は、苦しそうにつくばったままで波紫野はしのが言うように役に立ちそうに無い。

 「はい、はーい!死人はぁ、黙ってぇ、避難してなさぁーい」

 「お?こら……この……りん……こぉっ!!」

 うずくまったまま睨む永伏ながふし 剛士たけしの襟首をグイッと雑に掴み、椎葉しいば 凛子りんこがズルズルとその男を引きずって離れて行く。

 ――

 なんとも唯一人、変わらず危機感の無い女だと呆れながらも……

 「まぁ……そうだな、満足に動けない奴や武器の無い奴はむしろ邪魔だ」

 俺は同意する。

 「邪魔って!!解ってるの!?だいたい朔太郎さくたろうもその状態じゃ無理でしょ!?アンタも直ぐに避難を……」

 俺の言葉に東外とが 真理奈まりなが早々に噛みついて来るが……

 「グォォォォォッッーーーーーー!!!!」

 「ひっ!!」

 「きゃっ!?」

 「くっ!!」

 完全に蘇った人外の巨人はその場にそびえ立ち!

 まるで四十五ミリ機関砲のような巨大な両腕を振り上げて、何かの動作を始めていた!

 ――ちっ!

 「真理奈まりなっ!その優男やさおとこからスマホを取り上げろ!今すぐにだっ!!」

 真理奈まりなの俺に向けた忠告を完全に無視して俺は指示を出す!

 俺は感じたのだ!

 怪物の予備動作に唯ならぬ不吉さを――

 「えっ!?」

 「貴様っ!?折山おりやまぁっ!」

 そして――

 その俺の言葉に”いち早く”反応したのは、残念ながら真理奈まりなでは無く、蜂蜜金髪ハニーブロンドのイカレ男だった。

 「ちっ!ちぃぃ!おりやまぁぁっ!!」

 俺の考えを察したのだろう!

 恨めしそうに俺の名を叫びながら、どこにそんな力が残っていたのか!?

 ババッ!!

 「くっ!この……」

 咄嗟に御端みはし 來斗らいと波紫野はしの けんの手を振り払ってその場から離脱を……

 ガスッ!

 「ぐっ!……はっ!」

 ――”しようと”したところで

 真理奈まりな掌底しょうてい優男やさおとこあごを跳ね上げ!

 ドスゥゥ!

 そのまま流れる様な動きでがら空きの鳩尾みぞおちに肘を入れていた!

 「ぐっ……東外とが端女はしため如きが僕を……ううっ……」

 鼻血をたらし腹を押さえて、ヨロヨロとおぼつかない足取りで二歩、三歩と後退する優男やさおとこ

 「くそっ!……ぐ……ドブねずみのような……コソコソと他人ひとの弱みを探るしか出来ない東外とがの如き……端女はしためのカスがぁっ!!」

 御端みはし 來斗らいとは反撃しようとするも、

 俺に受けたダメージで既にその余力の無い動きは”まんま”亀だった。

 「だ・れ・が!ドブねずみですって?端女はしため?私はれっきとした東外とが本家のお嬢様!純情可憐な正真正銘の深窓の令嬢よ!このナルシスト会長!!以前まえから気に入らなかったのよっ!」

 ドスゥゥーー!!

 「ぐはぁぁっ!!」

 自称、深窓のご令嬢の御御足おみあしが鈍重な的に……

 見事な蹴りが股間に命中した瞬間、御端みはし 來斗らいとはもんどり打って仰向けに倒れ、

 「が……うが……が……」

 両足を内股に閉じながらピクピクと痙攣させ失神していた。

 「ふん!自分が思っているほど全然格好良くないのよ、見た目だけのクズ男!」

 ――ゴソゴソ……

 「これね……で、どうするの?朔太郎さくたろう

 そして真理奈まりなは悶絶する御端みはし らいの制服の上着を乱暴に開き、内ポケットから奴のスマートフォンを取り出していた。

 「ま、真理奈まりな……」

 「真理奈まりなちゃん……」

 これには流石の波紫野はしの姉弟きょうだいも言葉が無い。

 「東外とが本家のお嬢様はともかく、純情で可憐な深窓の令嬢は”金的”はしないと思うぞ?相変わらず容赦ないな、真理奈おまえ

 こんな状況でも俺は指摘せずにはいられない。

 「う、いわね!それよりどうする……」

 ――

 「ウガァァァァァーーーー!!」

 「ちっ!」

 「きゃっ?」

 決して忘れては駄目な状況であるのを思い出させるのに充分な巨獣の咆哮!!

 「ちっ!」

 俺は直ぐに振り向き、てるを庇うように手を引いて背後に走った。

 「ちょっ?さ、朔太郎さくたろう!!このスマホ!」

 天に高々と振り上げられた巨人の腕に警戒しながらも、真理奈まりなは俺に指示の続きをを催促していた。

 ガッ!

 俺は――

 走りながら”そこ”に置いてあったバッグの持ち手を拾い上げる!

 ブゥンッ!!

 そしてそれを力一杯に怪物の方へと投げ捨てたっ!!

 「くっ!!」

 途端にメキメキと腕の関節が軋み、死んでいた感覚が肩口から伸ばした指の先まで引き裂く斬撃となって通り過ぎるっ!

 「朔太郎さくたろうくんっ!?」

 思わず顔をしかめる俺に、逆の手でしっかりと握り合った美少女が声を上げるが――

 俺はそれを無視して彼女の手を引いたまま巨人と反対方向へ走る事を優先していた。

 「走れ!バッグの中身はC4爆弾だ!」

 ――!?

 そして振り返りもせずにそう叫び、六神道ろくしんどうの面々に俺の意図を伝える。

 「真理奈まりな!そのスマホは遠隔の起爆スイッチになっているはずだから……」

 「なっ!?」

 「えと?さくちゃん?」

 「ちょっ!ええっ!!」

 ついさっき、この場から遠く離れた椎葉しいば 凛子りんこ永伏ながふし 剛士たけし以外の者達が三者三様に驚愕の声を上げるも……

 「……もう!急なのよ!なにもかも!」

 そこは流石、只者で無い者達の集まりである六神道ろくしんどうとやら――

 銘々が直ぐにその場から離脱を始め、俺の指名を受けた東外とが 真理奈まりなは離脱のため走りながらも手元で御端みはし 來斗らいとのスマホを操作する!

 「……これね……い、いくわよ!」

 走れるだけ走ったところで転げる様に地に伏せて、頭を低く低く両手で覆う六神道ろくしんどう達!

 「耳を塞いで口は半開き!出来るだけ丸くなれっ!!」

 爆発の衝撃に備えるよう駄目押しにそう叫びながら、俺も地べたに転んでてるの上の覆い被さった。

 「ウガァァァーーーー!!」

 本能的になにかを察したのだろうか、足元に飛来した異物を勢いよく踏み潰しにかかる巨人!

 「き、貴様っ!僕の爆弾を!醜い世界の終焉の演出をぉぉっ!台無しにするかぁぁ!折山おりやまぁぁーーっっ!!」

 先ほどまで泡を吹いていた御端みはし 來斗らいとは、波紫野はしの けんに引きずられ、辿り着いた場所で押さえつけられながらも見苦しく絶叫していた!

 「……」

 ――予想つくに決まってんだろうが、馬鹿?

 自身の体全部を使い少女を包み込み、転がった俺は心中で呟く。

 教室に仕掛けられた爆弾部分のみ本物とういう”時限爆弾ちゃばん

 それが脅しだと言わんばかりの御端みはし 來斗らいとの無駄な余裕……

 最後は諸共に、”お前等をそれで葬る準備もありますよ”って。

 ――どこまで悪趣味、尚且なおかつ迂闊な愚か者なんだ?御端 來斗おまえは……

 「お、折山おりやまぁぁっ!!」

 「いい加減、五月蠅うるさいよ!」

 ガツンッ!

 「かはっ!」

 波紫野はしの けんが握った刀の柄の一撃を頭に食らい、御端みはし 來斗らいとは再び沈黙する。

 そして――

 ドドォォーーーーーーーーンッッ!!

 爆弾を踏み潰そうとした巨人の足元に閃光が溢れ!

 その光は一瞬で闇を真昼に変えた!!

 ドッドドドドドドッ!!

 天地が混じってシャッフルされる激しい振動と、瞬時に巨人の居た場所から放射線状に走る衝撃波!

 爆音と爆風が伏した俺達の頭上を走り抜ける!!

 「くっ!」

 「ひっ!」

 「ううっ……」

 指示通り、爆音から鼓膜を守る為に耳を塞ぎ、口を半開きにした六神道ろくしんどう達は小さく丸まって耐える。

 「……」

 てるに覆い被さって護る体勢の俺は……

 自身の両耳を塞ぐことは出来ずにモロにその衝撃波を喰らうが……

 ――まぁ、戦場こんなのは馴れっこだ

 「や、やったの?」

 「さすがに……」

 「不意打ちでこれは……怪物でも……ね」

 爆風が過ぎ去り、濛々と土煙が舞う校庭で、六神道ろくしんどうの面々は眼を細めながら様子を確認しようと……

 だが――

 「ヴォォォーーーーーーーーッッ!」

 閃光と爆音が過ぎ去り、再び訪れた静寂の夜を引き裂いたのは――

 「グォォォォォッッーーーーッッ!!」

 仁王立ちの”いにしえの邪神”の姿だった。

 ――っ!!!

 デタラメもここまで来ればもう言葉はなにも出てこない六神道ろくしんどう達。

 そして折山 朔太郎おれは……

 「………………だろうな」

 そういう事もあるだろうと、既に次の展開を考えていたのだった。

第48話「サンキュ!」前編 END

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