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「神がかり!」第20話前編

第20話「痣と手掛かり」前編

 「随分と酷くやられちゃったね」

 「っ!」

 傍らで立ってそう言う波紫野はしの けんを、東外とが 真理奈まりなは尻餅をついたまま見上げて睨んだ。

 「い、いんですか?あんな事を話してしまって」

 「さぁね?でもキミも長老達のやり方には疑問があるんだろ?だから永伏ながふしさんに彼の情報を伝えなかった」

 真理奈まりなはビクリと肩を窄める。

 波紫野はしの けんが何故そのことを知っているのか……と。

 「何のことですか?私は……職務を果たすだけです。今回は失敗しましたけど」

 「手段を選ばない永伏ながふしさんの性格から、さくちゃんの過去を知っていれば利用するはずだからね、それをしないと言うことは……キミが伝えていない、でしょ?」

 「……」

 全てわかっていると言わんばかりな表情かお波紫野はしの けんの指摘に、真理奈まりなは黙り込んだ。

 どうやら波紫野はしの けんは、彼なりに折山おりやま 朔太郎さくたろうの過去を調べていたようだ。

 「まあ、良いんじゃ無い?あの折山おりやま 朔太郎さくたろうって男は中々のものだよ。彼に任せてみるのも一興かな」

 「…………波紫野はしの先輩は六神道ろくしんどうを見くびりすぎじゃ無いですか。怖いですよ、あの”ひと”は」

 自身の領分、東外とがの専売特許である諜報活動に出しゃばられたためだろうか、少し機嫌悪く唇をとがらせる真理奈まりな

 「永伏ながふしさん?たしかにあのひとは……」

 それを意に介さず答えるけんに彼女は無言で首を左右に振った。

 「椎葉しいば 凛子りんこさんです。永伏ながふしさんも勿論そうですけど、あのひとの”天孫てんそん”は……」

 「ああ!?そうだった。だいじょうぶかなぁ?さくちゃん」

 けんは今思い出したように慌ててみせるが……

 態度とは裏腹で全然困った様には見えない。

 全くこの男はどこまで本気なのか?と、呆れながらそれを見上げる少女。

 「でもね、真理奈まりなちゃん。あの男、折山おりやま 朔太郎さくたろうが普通じゃ無いのも事実だよ、今回だって……」

 「……」

 「どうやって真理奈まりなちゃんの天孫てんそんを……”地鏡ちかがみ”を破った?解るかな、あの男は単に当てずっぽうで指を伸ばしたんじゃ無い。いや、当てずっぽうでも咄嗟にあんな芸当が出来る方も常識外れだけれど」

 「そ、それは……」

 真理奈まりなけんのもっともなツッコミに言葉を詰まらせる。

 「真理奈まりなちゃんの”地鏡ちかがみ”はただの目眩ましじゃないよね?」

 「”地鏡ちかがみ”は……僅かに質量を持った特別な幻影です。本体から微妙にズレた位置に出現し、同時にその幻影を中心に本体わたしは姿を不可視にしてランダムに移動する」

 「だよねぇ。つまり……質量の大きな本体と小さな擬態が瞬時に入れ替わる。しかもその位置はランダムで予測できるはずもないし、擬態も一瞬で消えるとは言え質量を持った存在だよ、これを見破るなんて俺達、他の六神道ろくしんどうだって難しい」

 けんはうんうんと頷いてから、未だ地べたにペタリと座ったままの少女をチラリと見る。

 「……で、真理奈まりなちゃんの見解は?」

 真理奈まりなけんの持って回った言い方を不満そうにしながらも、自身も気になっていた疑問でもあったので、人差し指をおでこに当てて暫し思考した。

 根が真面目な彼女らしい反応だといえる。

 「…………射程を伸ばして捕まえたってことは、囮の攻撃を繰り出して……私に技を使わせ、その攻撃を元に位置を分析して…………って、無理ですね。そんなこと出来るわけ無いもの」

 「訳が無い?」

 「だってそうでしょう?そもそも私の場所は見えない訳ですし」

 けんに言われて幾つかの可能性を考えてみたものの、やはり彼女にはソレが可能とは思えない。

 「最初に数度、真理奈まりなちゃんの攻撃を被弾うけてたなぁ、さくちゃん。あれって……」

 ――!?

 「わざと!?そんな……こと……いいえ!やっぱり無理です!」

 思わせぶりな言葉に過剰に反応する根が真面目な少女。

 「だよねぇ」

 けんはそう答えつつも、彼自身が確定できる何の根拠も無い分析であったが、それしかないだろうという事ならそうなんじゃない?的な軽いノリで続けた。

 「最初の攻撃をいくつか受けて、真理奈まりなちゃんの掌底しょうていの射程を計り、そんでもって攻撃を受けたときの擬態の位置から受けた攻撃の角度と擬態の腕の角度、伸び具合などなど、考察して本体の位置に目処をつけて…………ズドンッ!」

 パンチを繰り出すりをする波紫野はしの けん

 「…………」

 「もちろん、東外とがが誇る”地鏡ちかがみ”はその程度じゃ捕まらなかったけど……実際の感覚から多少の誤差を指を伸ばすことで修正……とか、これはもう人間業じゃないね?」

 「…………」

妙に嬉しそうに話す男に東外とが 真理奈まりなは俯いてしまっていた。

 「真理奈まりなちゃん?」

 「私の位置はその都度ランダムで、それは……」

 俯いたまま、ぼそりと言葉を発する少女。

 「その”都度”計算するんでしょ。打撃の入射角とか支点とか……で、捕まえた」

 「そんなっ!あんな男にっ!」

 「……」

 「う……あ、あんな……折山おりやま 朔太郎さくたろうのくせに……そんな頭脳あたまが……」

 少女はどうしても納得いかないようだ。

 東外とが天孫てんそんが一時的とはいえ破られた事が?

 それとも、どうあってもあの折山おりやま 朔太郎さくたろうという男を認めたくないから?

 「頭……あたまね。そういえばさくちゃんって特待生だよね」

 頑なな真理奈まりなに苦笑いを向けつつ、けんはあさっての方向を向いてぼそりと呟く。

 「…………それが、なにか?」

 「いや、別に。ところで一年の入学試験の成績……真理奈まりなちゃんは?」

 「……………………九番目です」

 何か悪い予感がしたのか、少女はあからさまに曇った顔で答える。

 「うわっ、凄いね相変わらず。この天都原あまつはらで九番目って……さすが真理奈まりなちゃん」

 「…………それで」

 「それで?」

 「しらばっくれないでください!朔太郎さくたろうですよ!折山おりやま 朔太郎さくたろうの成績っ!」

 「ああ……そうだった」

 波紫野はしの けんはわざとらしく頭をかいて、今思い出した様に歯切れ悪く答える。

 「えっとね……たしか……」

 「たしか?」

 「学年で……三番目かなぁ」

 「!!」

 「ははは……笑っちゃうよね、あのさくちゃんが」

 「笑えませんっ!!」

 途中から嫌な予感がしていたとは言え、自分の得意分野でよりにもよってあんな野蛮な男に劣っていたという事実がプライドの高い彼女を追い打ちで大いにヘコませたのだった。

第20話「痣と手掛かり」前編END 

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