「神がかり!」第52話後編
第52話「滅神、そして……」後編
捌いた?捌けた?
――ああ、何割かは……
多分あの大きさの礫をあの速度で真面に顔面に受ければ、俺の首から上は今頃どっかに飛んでいって西瓜割りの西瓜より非道い状態だったろう。
「グゥオォォォォオォォォォーーーーーー」
――
――吠えるなよ、神様
そうだよ、喧嘩ってのはトコトンだ!
一度本気で始めてしまえば、どちらかの身体、精神を削り合い、そのどちらか或いは両方が破壊されるまで続く。
「……ふぅ」
――終着点は毎度……
「はははぁっ!大悪神が権能!大地の礫!群れなす邪神!これが”八十禍津神”だっ!!」
蜂蜜金髪の優男が――
「大地を震撼させる破壊の”大禍津神”と大地の礫!群れなす邪神”八十禍津神”!!二柱の災厄神を以て其れは”最恐の邪神”へと至るんだよっ!!思い知ったか!?ばぁぁーーかっ!!」
相も変わらず情けない腰砕け体勢のままで愉しそうに唾を飛ばす様が見える。
「……」
――中々に鬱陶しいな、御端 來斗
やっぱ仕留めときゃ良かったか?
「ウゴォォォォーーーーッ!!」
ボコッ……
間を置かず、再び大地を陵辱し始める巨神。
ボコボコボコボコッ!!
見る間に地面が三カ所、
いや、今度は五カ所も土が盛り上がって――
ドドォォーーーーン!!
ドドォォーーーーン!!ドドォォーーーーン!!
ドドォォーーーーン!!ドドォォーーーーン!!
先ほどと全く同じ五カ所同時に巨大な岩の塊が地中から出現すると、瞬く間に校庭に五本の柱となって聳え立つ!
パァァァァァァーーーーーーンッ!!
パァァァァァァーーーーーーンッ!!
パァァァァァァーーーーーーンッ!!
パァァァァァァーーーーーーンッ!!
パァァァァァァーーーーーーンッ!!
そして――
それらは同様、派手に破裂するっ!
拳大の、抱えるほどの、押し潰すほどの巨魁に姿を変えた岩礫が!
GAU-8も真っ青な高速連弾で俺との空間を席巻するっ!!
「……」
――群れなす邪神”八十禍津神”……てか
「駄目だ朔ちゃん!?正面からはとても!!」
波紫野 剣の忠告も、
「別にどうって事無い。現在までだって”そうしてきた”」
――いや、誰の言葉も常識も俺には必要ない
心中で嘯くも、だが実際この距離は上手くない!
此方の攻撃が尽くあの”天岩戸”とやらで無効化される上に、
凶悪な飛び道具による攻撃範囲の差で圧倒的に手も足も出ない距離だ。
――なら
そうだ、俺にとって安全圏は巨神の懐中……
あの”死地”こそが断然、闘い易い!!
ガバッ!
額から伝って流れ込み、次第に赤く染まる視界のまま……俺は地べたに伏せる!
バシュッ!!バシュッ!!バシュッ!!
バシュッ!!バシュッ!!バシュッ!!
バシュッ!!バシュッ!!バシュッ!!
バシュッ!!バシュッ!!バシュッ!!
直後!またも辺りを埋め尽くす黒き凶器の群れ!!
「……」
俺は両掌をペッタリ地面に貼り合わせ、低く低く……
気合い万全で挑む力士の仕切りよりもさらに低く!顎を地表に擦りつけそうなくらいに、平蜘蛛のように超低空に構えて――
ダダッ!
後は一気に駆けたっ!
「ばぁーかっ、そんなのが……っ!?」
ビュオンッ!ビシュッ!!ビュンッ!
頭上を行き過ぎ、飛び交う多種多様な”直死”の礫たち……
「朔太郎っ!!」
「朔ちゃんっ!!」
「朔太郎ぉっ!」
御端 來斗の罵倒も、波紫野姉弟や東外 真理奈の叫びも……
「さく……たろうくんっ!」
俺を心配する蛍の悲鳴さえ、意識から追いやって”それ”に集中する!
ビシュッ!!
シュォォーーン!
ズバッ!
「ちっ!」
紙一重の数々……
否、格好を付けても仕方が無い。
実際は何発か掠った。
太ももと、脇腹と……あと何カ所か。
「……」
――だが問題ない
直撃で無ければ問題ない。
シュバ!
ズバッ!
「……」
肉が裂け、血が噴き出しても、俺は突進を継続し、
ダダッ
接触した衝撃でふらついた重心をも逆に利用して敵への到達速度に加算する!
「ガァァッ!!」
そんなこんなで――
再び巨神の死地まで辿り着いた俺に奴は明らかに苛立った咆哮を絞り出し、残った左腕を掲げて直接死を振り下ろそうと――
――それだっ!
「……」
ダッ!
超低空で加速していたボロ雑巾の俺は一気に土埃を残し跳ね上がるっ!!
両腕が……
この邪神、最大にして最強の”矛”が無効になった瞬間を見逃さない!!
――――――――ガスゥゥッ!!
敵の鼻先で大地を蹴り低空姿勢から一気に巨漢の顎に振り切った膝を吸い込ませる!
「グギャァァッァッッ!!」
飛び膝蹴りを受けて悲鳴を上げ、同時に完全に天を仰ぐ邪神の顔面!!
ガツッ!
だが!俺の攻撃は単発では止まない!!
宙に舞った自身が重力に捕らえられる前に!
負傷と疲労に軋む両手を目一杯に伸ばし、相手の巨大な耳を鷲掴んでその場に留め――
ブワァッ!
そのまま巨人の頭上で逆立ちになる!
「ガガァッ!!」
「喚くなよ……」
そして身体の反動を利用して、今度は上空から――
ガスゥゥゥゥッッ!!!!
縦に回転、無防備な脳天に特大な踵落としをお見舞いしてやった!
「ガッ!!…………フゥゥッ…………ゥゥ………………」
――
ドドォォーーーーン!!
額をパックリと割り、血と砂埃をまき散らして地響きと共に垂直に崩れ落ちる巨体。
その姿は……様相は……
完全に”死に体”であった。
「どうだぁっ!!こ・れ・がぁ!”振り子”だぁぁぁっ!」
離れたベンチ近くで拳を突き上げる小太り男。
「前のめった相手に出会い頭のカウンター!さらにその勢いを上乗せ利用した再撃のカウンター!ひゃはっ!ありゃあ、朔の十八番だよっ!」
業を放って地面に落下する俺の耳には、なぜか森永の自慢げに叫ぶ声が聞こえていた。
――
――
――ドサリッ!
無理に無理を重ねた、運動法則をも半ば無視した非常識な業による当然の報い。
俺は受け身も取れるわけも無い無様な体勢で落下して、地面に落ちて張り付いた生卵と同列の姿を晒すも、直後には何事も無かったかのように立ち上がる。
「……」
折山 朔太郎にとってはそれが日常。
命のやり取りをする闘いなら当然。
その理由だけで俺の身体はそう反応する、そう西島 馨に骨の髄まで染みこまされてきたからだ。
ズズズッ……
ズッ……
ぼろ雑巾の方が幾分マシな状態で拳を構える俺の目前に、ゆっくりと迫り上がってくる巨体。
「ガガ……ガ…………」
右腕から肩まで――
あらぬ方向へ捲り上げられた無惨な右半身。
そして、先ほどの一撃で首にしこたま衝撃を受けて、どこか妙な角度にかしげられた顔面……
「ガ……ガ……」
流石に蓄積されたダメージが甚大なのが明らかな、邪神の壊れ過ぎた巨躯。
――
「まだ……やるの……これ以上は……」
嬰美が”もういい加減にして”という悲痛な表情で呟いた。
「だね、けど……もう勝負は決着いたよ。後は……」
それに弟の剣が応える。
誰の目にも勝負はもう終わった。
そしてこの死闘の行き着く先は――
つまり……死。
殺し合いであった以上、それを始めてしまった以上、結末はそれ以外あり得ない。
「そ、そこまでしなくても……」
真理奈も弱々しく声を上げるが……
「そこまでしなくちゃならないんだよ。そうしないと岩ちゃ……禍津神は止まらない」
波紫野 剣から出そうになった”岩ちゃん”……岩家と言う呼び名に全員の顔が沈む。
「……」
虫の息の……
かつて”岩家 禮雄”だった男……
「ガガ……ガ…………」
――そうか
禍津神も俺と同じか。
”それ”が染みこんでいるんだな。
俺は改めて認識する。
「……」
俺は此所で此奴を殺すんだ。
岩家 禮雄の成れの果てを。
「……」
そして俺は”死に体”の怪物を前にふと、無意識に視線を”ある娘”に移していた。
そして同時に思い出す。
――何故だかこんな時に
あの奇妙な夜のことを思い出す。
”あの男”のことを……
”あの事”を……
ここに来る前夜に出会った”ミイラ男”の如き奇妙な輩のことを……
第52話「滅神、そして……」 END