「神がかり!」第47話後編
第47話「すっきりした」後編
「さくたろう……くん?」
赤く腫らした頬を押さえながら少女は不安そうな眼差しで俺を見る。
「そうか、そうだな。だが、お前は女だから罰を与えるには別の趣向もある。わかるだろ?」
甘ちゃんの一般人が覚悟なんてちゃんちゃら可笑しい。
――そうだ
よりにもよって俺のような世の裏側の、底辺を這いずり回るクズに向かって大真面目にその言葉を発する身の程知らずのお嬢様……
「か、覚悟は……できてる……わ」
底意地の悪い俺の中の"もうひとり”が、もっと怯えさせろと命令する。
「そうか?じゃあ先ずは……」
――そして
それとは別の何者かはそんな俺を必死に留めようと抵抗するも……
スッ――
結局、折山 朔太郎は邪悪に嗤い、明らかに震える少女の……
守居 蛍の白い頬に無遠慮に手を添えた。
「……ゃだ……」
途端に蛍はビクリと身体を震わせる。
「あ?」
「やだよ……」
蚊の鳴くような頼りない声。
「なんだ?今更命乞いか?」
威勢の良い事を言った癖にと、俺は呆れて蛍を見ていた。
「…………さくたろう……くんの……くんが……そんな悪者になるの……やっぱり、やだ」
「……」
俺にとって予想外の応え……
蛍は自らが求めた罰にこの土壇場で怖じ気づいたのでなく、この土壇場で――
――”折山 朔太郎”にその役割を求めた事を後悔したのだ
「……」
――なんだよ……それ
――ちっ!
俺は無意味でくだらないこの感傷に……
本当はこのくだらない……
本当にくだらない人生に……
――俺だって、愚か者の茶番に終止符を打つきっかけを探っていた……んだ……
「さ……さくたろう……くん?」
――なのに……
その引き金を躊躇させるのさえ……
暴力しか得てこなかった”何事も成さない”折山 朔太郎というクズでは無く、
世の中に折り合うという諦めが欠如した足掻く守居 蛍という少女だったのだ。
「…………」
――俺は……駄目だな……とことんまで……
自分の不甲斐なさに涙が出そうになる。
「さくたろう……くん?」
顔を歪ませる俺を心配そうに、不安そうに見詰める瞳。
――ああ、そうだったな……そうだった
俺はもう識っていたはずだ!
そう、散々思い知っていたはずだ!
俺と蛍の関係は……ずっとそうだったと。
――ははっ……
「俺のキャラは大体こんなもんだぞ?極道の関係者だし……」
瑠璃の瞳を潤ませて俺を見上げる美少女に俺は誤魔化すように言った。
「ちがう!ちがうよ!朔太郎くんは……もっと、こう……あの……正統派正義のダークヒーローだから!キ、キングカイザー?みたいな?……だ、だから……」
「は?」
何故か必死に俺の人格を弁護する少女。
最後の方は……
正統派?ダークヒーロー?
何処かで聞いたような、言ったような……
――いや、結局、なにが言いたいのか全く解らないな
「と、とにかく!朔太郎くんはそんなひとじゃないんだからっ!」
「そうは言ってもな、抑もお前がそう望んだんだろ?」
「そ、それは……」
――
俺は、これ見よがしに溜息を吐く。
「蛍、あのな、お前が罰を望むのも、俺に対して罪悪感を感じるのも、全部お前の感情だ。お前の心だから俺は別段、何も言うつもりは無い」
「…………う、うん」
少し戸惑いながらも小さく頷く少女。
「でもな、罰を与える方は神様じゃないんだから……まあ、そういう役回りになるわけだ」
「…………わ、わたしの独りよがりで……また朔太郎くんに迷惑を?」
戸惑いがちに俺を見る瑠璃の瞳。
――迷惑なんて思ってもいない
――ただ……
「俺のことはどうでも良いけどな、他人に迷惑をかけたからって、裁きを他人に求めるのは結局どうなんだ?ってことだよ」
「でも……だったら……」
――そうだ、蛍に迷惑をかけられるのは寧ろ俺にとっては……
ただ、本音を曝け出すことに俺は……切っ掛けも勇気も両方が欠如していたってこと。
「俺はな……」
だから彼女に言おう。
「さっき言ったことは本当だ」
「え?……えと」
「なんだかずっとモヤモヤしていたことがお前のお陰でスッキリしたんだ」
蛍が考える間も無いウチに意図的に俺は言葉を被せる。
「わ、わたしの?」
俺は話をしたい。
蛍のでは無く、俺のでも無く、
二人の話を……
「ああ……そうだ」
二人がどうしようも無く似ているという事、
それがずっと俺が感じてきた……蛍という少女に惹かれてきた……
好意と嫌悪と執着の正体だろう。
「朔太郎くん……」
――漸く俺はそれに触れたいと……決意した!
「そうだ。俺はな、蛍……」
――
「グォォォォォッッーー!!」
突如!束の間の平穏を破り場に響き渡る獣の咆哮っ!!
「っ!?」
「な、なにっ!?」
「きゃっ!」
俺と蛍のやり取りに見入っていた六神道の面々は慌ててその元凶に視線を向けていた!
そして――
「はは……ははっ!!古の禍々津神が!彼式の事で封じられるかよぉぉっ!!」
負傷で歪んだ顔をさらに歪め、地べたに伏したままの御端 來斗がゲラゲラと嗤っていたのだった。
第47話「すっきりした」後編 END
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