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「たてたてヨコヨコ。」第07話
イラスト作成:まんぼう719さん
第07話「剣の無い英雄?」
「わかったわ。”戦いの補助”の方はおいおい話し合いましょう」
「って、”おいおい”かよっ!」
突然押しかけて、終始、自分のペースで話を進める――
プラチナブロンドが眩しいツインテール美少女はそう言いながらニッコリ微笑んだ。
「このわたしのサポートが出来るなんて光栄なことだと思わ……」
「思わない!」
そして俺はスッパリ断定してやる。
「うっ……」
可愛いからって甘やかしたらトコトンつけあがるからな。
俺は意外とこういうところはきっちりしているんだ!
「じゃあ、どうすれば……」
美少女の翠玉石の瞳が少し不安げに揺れていた。
ーーおおぅっ!?
「え、えっと……あれだ、武具提供の方は報酬しだいで引き受ける……けど、もう一方は駄目だ、ま、前にも言っただろ?そっちには触れられたくない」
とはいうものの――
その瞳をされると正直弱い……ってか、
別に俺が軟弱だからじゃ無いぞっ!お、男なら誰でもそうだろ?
「……わかったわ。今のところはそれで我慢する」
ーーい、今のところ……ねぇ?
なんだかあきらめが悪い少女の悲しげな顔を見て少し胸が痛くなるが、こっちもこれが出来る最大の譲歩だ。
「それで……」
プラチナブロンドの美少女は少し躊躇いながらこちらをチラチラと覗い、”ある”言葉を口にしようとする。
「だったら話を聞く必要があるな、どんな秘密があるんだ英雄級のお嬢様には?」
俺は意図的に相手の言葉を遮って確認した。
言いにくそうだったので俺から切り出してやったってわけだ。
自分から”事情”を話そうとするところとか、なかなか真摯な態度だし、それくらいの度量は俺にだってあっても良いだろう。
「え……と、なにか気づいて……ていうか、知っていたの?わたしの事」
「まあな。それによく考えたらこの間の俺の剣の不甲斐なさも不自然だったし、こうやって枸橘女学院に通う外国貴族のお嬢様で容姿端麗、成績優秀なクウォーター美少女様が俺如きの住処にわざわざと足を運んで下さるってのはどう考えても怪奇現象並みにありえないからな」
俺は昨日仕入れたばかりの情報を然も知っていて当然のように答えていた。
「貴方に一目惚れって事もあると考えないの?」
「……」
「……」
「ごっごめんなさい!」
彼女の軽口に対する俺の反応を見て――
彼女、羽咲は慌てて謝っていた。
「いやいや!失礼だろ!そっちの方が失礼だからっ!」
俺の指摘に”あははっ”と苦笑いを返すプラチナブロンド美少女。
「くっ……まあ、それはいい。で?世界に八人しかいないという英雄級のお姫様は何で丸腰なんだ?」
羽咲・ヨーコ・クイーゼルの苦笑いは、そのまま趣旨の違うものに変わっていた。
「やっぱり……その話題になるのね」
「そりゃそうだろ、戦士系の最高峰である英雄級の八人が他の人間と決定的に違うのは”聖剣”の存在だ。それを所持していないって事は気になって当たり前……っ!?」
そこまで言いかけて俺はその先の言葉を飲み込んでいた。
羽咲の表情が俺にそうさせたのだ!
「……」
やや俯き加減で曇る表情。
美しい翠玉石の瞳が悲しげに陰るのが見える。
「いや……言いたくなければ別に」
慌ててそう言い直す俺。
ヘタレでなくとも女の子にこんな表情させたら折れて当然だろう。
――で、彼女にそうさせた”聖剣”という代物は……
文字通り最高、最強の能力を秘めた剣の事である。
全ての能力者が戦闘時にその力を遺憾なく発揮するために必要なものは武具。
それは職人系の能力者である武具職人が製造し、供給している。
しかし、戦士系の最高峰である英雄級の八人だけは例外だ。
”聖剣”と呼ばれる最強の武器を自らの潜在能力で具現化し、それを駆使して想像を凌駕する圧倒的な戦闘力を発揮するというのだ。
ただし英雄級と言えども、”聖剣”の行使には多量の能力を消費するため、普段は他の能力者と同様に武具職人が製造した武具を使用する場合が殆どではあるが……
とは言っても……
――先日のあの状況で”聖剣”を召喚しないのは……な
かなり追い詰められた状態だったみたいだし、それに通常の武具も所持していないみたいだった。
だから俺の疑問はもっともだと言えるものだったのだ。
「大丈夫、ちゃんと説明するわ。協力してもらうわけだし……」
俺が追求するのを諦めかけた時、羽咲はそう言って微笑んだ。
それは、出会ってから今までで一番”ぎこちない”笑顔だった。
「まず最初にわたしの”聖剣”……"グリュヒサイト”は現在は召喚できないの」
「今……は?」
「ええ、現在は。二年ほど前までは出来ていたのだけど……それからは」
「……」
”聖剣”が召喚できない英雄級?そんなのがあり得るのか?
俺の納得がいっていない顔を横目に彼女は続ける。
「理由は聞いても無駄よ、わたしも……いいえ誰にも解らない事らしいから」
この間の状況下でも聖剣を使用しなかったことからウソだとは思えない。
なにより今の俺の情報量では――
そう言われてしまえば納得するしか無い。
「俺の剣が……なんていうか……」
俺は質問を変えるが、なんとなく言い淀んでいた。
自身の作品が不出来なだけだったのではないか?と、いまいち自信に欠けるからだ。
「貴方の剣が一振りで”ああなった”のは貴方のせいではないわ。わたしが通常の剣を振るうと何故だかああなってしまうの……いいえ、今までは一振りどころか用を成すことさえ出来ないのが普通だったから、寧ろ貴方の剣は別格と言えるくらいで……」
――な、なるほど
そうか、だから彼女は俺の処に……
「もしかしたら羽咲、お前の潜在能力は他の英雄級と比べてもとんでもなく高いのかもな。それで通常の武器は耐えきれない……と」
そう分析しながらも、俺は悪い気はしていなかった。
いや、どちらかというと不謹慎にも多少調子に乗っていたのかも知れない。
――誰の武具でも駄目だった
――どんな武具職人が製造した剣も用を成さなかった
俺の剣を除いては……と。
「うん、そうかも……ね」
一方、潜在能力が高いと褒められても表情の暗い少女。
その時の俺は自身が調子に乗っていて気づいていなかった。
彼女が現在まで味わってきた不便さ……いや、不遇さに!
英雄級という特別な立場にありながら”聖剣”を失い、
然りとて通常の武具も扱えず、ろくに戦うことも出来ない悔しさを!
「状況は大体、解った。それで俺に剣を作れって?」
「ええ、だけど……」
彼女の言いたいこと、”だけど……”の先は流石に解る。
幾らマシだからといっても一振りで壊れる剣など用を成しているとは言えない。
いわば、一発しか弾の入っていない銃で戦場に赴くようなものだ。
「そうだな。だが俺にも武具職人としてのプライドがある!お前に応えられるような剣を作るのは願ったりだ……そうだな、少し時間を……」
「ごめんね、あまり……”それ”は無いみたい」
「は?」
――どういうことだ?
実は”なんちゃって武具職人”のクセにそれは棚に上げ、美少女の前で決意を持ってカッコ良く決めたつもりだった俺はガクリと拍子抜けする。
「あの……ね、また……巻き込んじゃったみたい」
彼女の申し訳なさそうな言葉を聞いた瞬間、正体不明の寒気が……
俺の背中の辺りがゾクリとしていた。
第07話「剣の無い英雄?」END