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さよなら、宇宙船【小田急ロマンスカーVSE乗車記】
「真っ赤な色に、流線型のボディ」
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「小田急ロマンスカー」と聞いた時に、おそらくほとんどの人がイメージするのが、この姿ではないでしょうか。
しかし、私がロマンスカーと聞いていつも思い浮かべていたのは――
真っ白な、宇宙船でした。
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”白いロマンスカー”VSE引退
2023年12月10日。
長年ロマンスカーとして活躍した、小田急のとある車両が引退します。
その名は「VSE50000形」
2005年にそのまっ白なボディで鮮烈なデビューを飾り、鉄道雑誌などにもたびたび取り上げられるなど注目を集めました。
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真っ白なぺっかぺかボディとラグジュアリーな内装、そして展望席。
さながらスペースシャトルのようなフォルムは、子供だった私にも強烈なインパクトを残し、私が住む関西から遠く離れた地を走る「白いロマンスカー」は夢の乗り物でした。
「大人になったらいつか乗りにいきたいなぁ」
「でも関東だから遠いし、いつかお金貯めて乗りにいこう」
そして大人になりお金が貯まってからも、
「また”いつか”いけたらいい」
とお決まりの死亡フラグを抱えて呑気に過ごしていた私の両頬を、突如「引退」という2文字がパチンパチン!とはたきました。
「まだまだ新しいのに?なんで⁉」
※色々と「新しすぎた」ことも引退を速めた要因らしいです
その後、あれよあれよという間に定期運用も終了。
憧れは憧れのまま終わってしまった――
VSEは線路を滑走路に、いよいよ大気圏外へと飛び立ってしまったのです。
――と、この時の私は意気消沈していました。
とある引退イベントの存在を知るまで。
VSEにイベント乗車する
その引退イベントの名は、
さよなら50002編成 ~ロマンスをもう一度/沿線の車窓風景を楽しむ旅~
相模大野駅からVSEに乗車し、片瀬江ノ島駅や車両基地に立ち寄りつつ小田急の主要な路線をぐるりと巡るというツアーでした。
(※回によって運行ルートは異なりました)
予約ページを見ると、さすがに展望席は満席だったものの、まだまだ座席に空きがあることが判明!
行こう。
今度こそ乗り遅れないように。
これが最後のチャンスだと感じた私は、迷わず予約しました。
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そして迎えた2023年9月16日。
私は早朝の相模大野駅に立っていました。
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改札前にいたスタッフさんから、参加証となる特別乗車券を受け取り、それを首から下げて改札を抜けます。
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ホームに立った私は、他のツアー客とともに、いまかいまかとVSEの到着を待ちわびます。すると……
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来ました、ロマンスカーです!
憧れの宇宙船が、今まさに目の前に――
なんて感慨に浸っている間はありゃしません。
他の電車はもちろん通常運行。
首都圏の人々を運ぶ電車がビュンビュンと行き交っています。
そんな毛細血管の隙間を縫うように組まれた変態ダイヤには、主要駅に数十分も居座れる余裕はありません。
撮影もほどほどに乗り込むと、VSEはすぐさま駅を離れました。
湘南を走る、暴走高級ホテル
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私が乗車したのは6号車でした。
引退前のイベント列車ということで相当な混雑を覚悟していたのですが、幸い?にも車内は余裕があり、私は2人分の席をひとり占めできました。
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うーん、この高級ホテルのようなラグジュアリーな空間……
実際に乗車してみると、意匠の一つひとつが実に凝っているのがわかります。
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道中、スタッフさんや乗務員さんによる特別アナウンスや催しをまったり楽しみ、
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かつての売店スペースなどを見学していると、
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片瀬江ノ島駅が近づいてきました。
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ここでVSEは、あのロマンスカーの象徴ともいえるメロディーホーンを連呼。(その時の模様がこちら。※インスタのリンク先「⑦」 )
ファンファンファンファーーン!
通常なら1、2回で済ますメロディーをサービスとばかりに何度も奏でながら江ノ島駅に入線する様は、まさに湘南を爆走しにきたバイク族。
通常運行でこれやったらクレーム間違いなしのやんちゃっぷりをやってのけた小田急さんのことがますます好きになりました。
”物語”を運ぶ電車
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しばしの時間調整の後、VSEは片瀬江ノ島駅を出発しました。
来た線路を折り返し、車両基地へと向かいます。
折り返している途中、硬券や缶バッジ、トートバッグなどの様々な特典を受け取りました。
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その後、VSEの名物だというサルーン席を見学させてもらえることに。
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私の番が回ってきた時にスタッフさんに「座っているとこ、撮りましょうか?」と訊かれ、お願いすることに。
うん。
今日でお別れなんだ。
記念にそういう一枚も残しておくのも悪くな
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めっちゃ後ろの看板とシンクロしちゃってるぅぅぅ
うさん臭い社長のインタビュー写真みたいになっとるぅぅぅぅ
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思い出の写真が怪しい投資を勧める広告と化した一幕がありつつもVSEは出発駅の相模大野駅を過ぎ、成城学園前駅で折り返しました。
「ここから見える東京の夜景は運転士だけが味わえます」という高架を渡って喜多見車両基地の中へ。
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基地内にしばらく停車し、車内チャイムを4種聴き比べるという特別サービスを堪能した後は、いよいよ終点・唐木田駅に向けて出発です。
(その時の音声がこちら。※インスタのリンク先「③④」 )
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発車後に、当時実際に流されていた自動放送の再現もありました。
(こちら。※インスタのリンク先「⑤」 )
一度出発地を機械に設定すると、後は車輪の回転数に応じて自動でアナウンスが流れる仕組みらしく、
『今からだいたい10㎞くらい走ると海老名駅到着のアナウンスが流れます』
という乗務員さんの説明通り、全然海老名とは関係のない路線上で『まもなく海老名です』の自動音声が流れました。
(こちら。※インスタのリンク先「⑥」 )
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イベント乗車の旅は実に楽しいものでした。
『えー、みなさん、運転士と車掌の自己紹介で気づいた方もおられるかと思いますが、実は現在、このVSEは夫婦で運行しております』
なんてほほえましいアナウンスがあったかと思えば、
「さきほど再現した自動放送の列車名は『スーパーはこね号』に設定されていますが、これはVSEの車掌だった私の趣味です」
とVSE愛を惜しみなく披露された乗務員さんもおられたり。
VSEは乗客だけでなく、小田急の乗務員さんたちからも愛されていたんだなぁと実感できたひと時でした。
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写真は『カントリーロード』で有名な映画『耳をすませば』の舞台となった辺り。
引退するその最後の瞬間まで、たくさんの物語を運び続けたであろう車内の温もりに包まれながら、やがてVSEは終点の海老名駅に――
ちげぇ
唐木田駅に到着しました。
そして宇宙船は線路を離れる
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唐木田駅に到着後は、次のツアー開始までに時間があったので撮影タイムです。
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その美しい流線型の車体や、
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小田急ロマンスカーの特徴ともいえる連接台車も余さず撮った後、
私は”最後のお別れ”をすべく、唐木田駅を出ました。
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駅近くのシェアサイクルで電動自転車を借りた後、脳内で『カントリーロード』を奏でながら多摩の急坂を上がっていきます。
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そして団地の間に小田急線を見下ろせる手頃な撮影スポットを見つけて、待つこと数十分。
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はるか眼下の線路を、次のツアー客を乗せたVSEが通過していきました!
(動画はこちら。※インスタのリンク先「⑧」 )
VSEはほぼ箱根専属特急だったらしいので、多摩線を走るこの光景はなかなか珍しいのではないでしょうか。
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最後に3時間以上もロマンスカーに乗車できるチャンスをくれたVSE。
この記事を公開した12月10日を最後に、いよいよ本当に線路から離れます。
夢と思い出をくれて、ありがとう。
私の宇宙船。
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各動画リンク先
記事内で紹介した動画は、すべて下記リンク先のインスタグラムにまとめていますので、よければご覧ください!
【リンク先内容】
①画像
②画像
③車内チャイム 1~2
④車内チャイム 3~4
⑤自動放送(スーパーはこね)
⑥海老名(唐木田)
⑦メロディーホーン
⑧多摩線通過シーン
⑨画像