深海から青空を駆ける列車 ~前面パノラマ席でめぐる南紀旅①~
大阪のビル群――
海に沈む夕日――
山の緑や一面の田んぼ――
遮るものが何もない海岸線――
そして四日市の工業地帯――
「そういう移り変わっていく景色を、列車の展望席に座ってひとり占めできたらなぁ」
なんて、そんな子供じみた願望
実現できたので、ご紹介していきますね。
◆前面パノラマ列車でめぐった南紀旅
紀伊半島をぐるりと半周するJRの紀勢本線。
現在、その路線には主に二つの特急が走っています。
特急くろしおと、特急南紀です。
この二つの特急にはある共通の特徴があります。
それは先頭車が前面展望を楽しめるパノラマ車であること。
(※進行方向と運行状況によって異なります。なおくろしおのパノラマ車は283系オーシャンアロー型のみです)
紀勢本線は海岸沿いを通るポイントが多く、迫力あるオーシャンビューを楽しめることで有名。
もちろん、絶景をパノラマビューでひとり占めできる先頭車の最前列は人気席。切符を手に入れることは容易ではありません。
が、
今年の春になんと、一度の旅で二つのパノラマ車を、しかも一番前の席で楽しめたという奇跡が起こりました!
二つのパノラマ特急を乗り継ぎ、新大阪から四日市まで、南紀をぐるりとめぐった話を数回に分けてご紹介していきます。
まずは新大阪から乗車したくろしおから!
さぁ行きましょう!
その道中の陽気なこと!
◆オーシャンアロー(新大阪→紀伊勝浦)
①出発
さて、まずは難しい切符の確保から。
なのですが、乗車予定日が平日とあってか、販売開始後しばらく経った段階でも目的の席に空きがあり、前面展望を楽しめる「特急くろしお17号・1号車1番D席(グリーン席・5970円)」を無事確保することができました。
滅多に乗らないグリーン席、それも展望席!
15時過ぎに新大阪駅を出発する列車なので、多分白浜を過ぎる頃には海に沈みゆく夕日なんてものが拝めるかも……!
ソワソワしているうちにペラペラとカレンダーは進み、気づけば4月某日。
あっという間に出発日がやってきました。
が、
どんより曇り空。
オーシャンアローの始発駅である新大阪駅に降りたつなり、空を覆う濃い雲を見上げ、否応なく気分が沈みます。
思い返せば、数年前に友人に誘われて体験ダイビングをしに和歌山県の白浜に行った際も、天候に恵まれませんでした。
あの日は快晴だったものの、南洋の台風の影響で海は濁りに濁り、
「海ん中味噌汁みたいになってますけど、潜りますか?」
と、直前にスタッフさんから電話がかかってきたほど。
ちなみにその後味噌汁の中を潜りましたが、一応珍しい魚とか見えたので楽しかったです。
そんな感じで蘇った過去の記憶。
「自分と南紀は天気の相性が悪いのかな」と、望み通りの景色が見られる可能性が低いことに落胆しかけていました。
しかし迎えた当日。くもりの予報が少し変わり、どうやら大阪を抜け、和歌山に入る頃には空が晴れるかもしれないとのこと。
これは、ひょっとしたらあるかもしれない。
そんな万に一つの望みに賭け、ホームで列車を待っていると……
特急くろしおが入線しました!
車両は「オーシャンアロー」の愛称で親しまれている283系です。
その色合いとシャープなスタイルは、海からやってきたイルカのよう。
ひと通り撮影していると、発車時刻が近づいてきました。
早速乗っていきましょう!
乗りこむのはもちろん一番先頭、グリーン車です!
ふおおぉ……
普段滅多に乗ることのないグリーン車の洗練された穏やかな内装に息を呑みます。
そして……
今回予約した席がこちら!
こ、こんな贅沢、いいのかな……?
元来、財布の中身の砂漠化を憂慮し倹約に努めるほど環境意識が高いことに定評があるケチくさい私。
滅多に機会のないグリーン席に恐る恐る座ります。
そしてお目当ての前面展望窓に目を向けると――
ひ、広い……!
まるで広角レンズで切り抜いたような余裕のある空間が広がっていて、予想していた以上のダイナミックな視界に再び息を呑みます。
くもりとか晴れとか、そんなの関係なく。
この旅は最高に楽しいものになると、確信した瞬間でした。
②深海を駆ける
15時13分。
ようやくグリーン席に腰を落ち着けたタイミングで、列車が出発しました。
列車は淀川を渡ると地下に潜り、開業したばかりの「大阪駅新ホーム」に停車しました。
この旅の1ヶ月ほど前には、特急はるかで開業前のホームを通過していたことを思うと不思議な心地です。(⇩その時の模様がこちら)
大阪駅を出発すると再び地上へ。
大阪市内を南進していきます!
大阪環状線は何度も乗ったことがあるのですが、広い窓いっぱいにドデンと京セラドームが迫ってくるなど、普通列車や他の特急では味わえない光景がとにかく新鮮でした。
ちなみに今回の旅のお供はこちら!
この先に広がっているであろう海の色に合わせて、青い缶のエビスを買いました。
さて、このビールのように、期待通りの色の海は見られるのでしょうか。
③青空へと跳ぶ
と思った矢先、大阪市を抜けた頃から雨が降りはじめました。
あれ、晴れるどころか悪化してね?
弱気になる私とは反対に、降りしきる雨を浴びながらも堂々と走るオーシャンアロー。
まるで、イルカが海中を突き泳いでいくかのような勇ましく美しい姿に、こみあげかけた不安もいつしか忘れ、見惚れていました。
そして関西空港の辺りを過ぎたころ、
望んでいた兆しが見えはじめました。
これは、あるぞ……!
曇天に色と光を奪われていた大阪のビル群。
私が乗ったイルカは、そんな薄暗い深海のような世界から、水面にきらめく光を追い求め、グングンと急上昇していきます。
いつしか雨もやみ
空の端から光が広がっていき
そして
ザッ、プーーン
と
深海から青空へ
水中から跳びだしたイルカのように
オーシャンアローは体についた水滴を払いながら、青天の下を駆けはじめました。
④海沿いを走り、紀伊勝浦駅へ
晴れの兆しが見えはじめた頃。
都市から郊外へ、郊外から山間へと風景が移り変わっていきます。
そして唐突に景色が開け、この旅初めての海と出会いました。
雲海の隙間からおりる、光のカーテン。
海に宝石をばらまいたように反射する、太陽の光。
思わず、カメラのシャッターを切る手が一瞬止まりました。
おそらく最初から快晴だと出会えなかった光景。
「今日この天気でよかったな」と心底思いました。
そして南下するにつれ、雲もどんどん数を減らしていきます。
白浜を過ぎる頃には太陽がばっちり顔出し!
くう~、気持ちいい!!
車窓にどんどん飛び込んでくる快晴と青海が、今までの薄暗い空気と気持ちを吹き飛ばしてくれるようです!
「なぁ、蛙! お前もそう思うよなぁ!?」
降車駅である紀伊勝浦駅が近づくにつれて、徐々に外もオレンジ色に。
この光景を見込んで購入しておいたウイスキーをちびちびやりながら、あとは到着まで、暗闇に沈んでいく景色をじっくり楽しみました。
そして19時10分。
列車は紀伊勝浦駅に到着しました。
再び深海へと帰っていくような面構えのオーシャンアローをお見送り!
今日はここに一泊し、明日はもう一つのパノラマ車「特急南紀」の一番前の席に座り、三重県四日市を目指します!
お楽しみに!
次回⇒
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ここまで読んでいただきありがとうございました。
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