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マイルズ・ケイン「チェンジ・ザ・ショウ」
これぞ英国産ポップ・ロック!
マイルズ・ケインのアルバム『チェンジ・ザ・ショウ』を聴くと「うわ〜、イギリスのロックだな〜」という感じが凄くする。
もともとはバンドマンからスタートしたキャリアだけれど、解散後はソロアーティストとして活動し、今回のアルバムが4枚目となる。
ソロ活動と平行して、アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーとのプロジェクト=ザ・ラスト・シャドウ・パペッツでも作品を発表し、コンスタントな創作活動を継続している。
それまでのソロアルバムでは、様々なタイプの楽曲を作り歌ってきたが、ブリットポップ通過後のロックンロールという印象が強く、アルバムの中に“なかなかいいじゃん!”という曲とそうでもない曲がゴチャまぜになっており、今ひとつハマりきれないアーティストだったのだ。
統一感と王道感が増した新作
しかし、2022年にソロとしてリリースされた現時点での最新作『チェンジ・ザ・ショウ』はもう少し落ち着いた王道感あるシンプルなアレンジが全曲に施され、統一感ある聴き応え充分の作品になっている。
まず、一聴して印象に残るのは、どの曲も強力なフックを持っていて、そのポップなメロディーを最大限活かすために、シンプルでソウルフルな演奏がとても心地良い。
そこにマイルズのボーカルが乗るのだが、彼の声がとてもイギリス的なのだ。
その声はハッキリ言って、マーク・ボラン!
ちょっと鼻にかかった声で歌われるポップチューンは、本格派で落ち着いた曲想にキッチュな魅力を付け加えてくれる。
今時のシンガーソングライターは、70年代のロックやソウル、あるいはAORをベースにしながら本物志向を強く打ち出しているアーティストがほとんどだ。
そんな中、本作ではマイルズ・ケインもヴィンテージなポップ、ロックに沿ったソングライティングと音作りを志向しながらも、マーク・ボラン調の鼻声がそこに乗ることで、ヴィンテージ感だけではないキャッチーな魅力が爆発するのだ。
そして、それこそが本作における最大の魅力になっており、同時に他のシンガーソングライターにはない個性にもなっている。
本場にはないキッチュな魅力
ロックンロールもソウルも、ポップ・ミュージックのほとんどのスタイルはアメリカで生み出されたと言っても過言ではない。
60年代以降のイギリスのミュージシャンはアメリカへの憧れをいだき、目一杯、本場の音楽に近づこうとして日夜奮闘してきた。
しかし、彼らは本場アメリカの音楽にはない別の魅力を手に入れてきた。
それは憧れが増幅してできたチャーミングさやキッチュないかがわしさであり、時としてそうした魅力は、本場王道のアメリカン・ルーツ・ミュージックにはないイギリス特有のキャッチーさを獲得してきたのだ。
マイルズ・ケインの音楽を聴くと、イギリスに60年代から脈々と流れる「まがい物の王道感」を感じるのだが、私はそのイギリスらしさが堪らなく大好きだ。
そして、彼がこれからどれだけ素晴らしい英国産ポップ・ロックを聴かせてくれるのか楽しみでならない。