新撰組:絶滅した男の顔
新撰組
1969年 日本映画
フー流独断的評価:☆☆☆
新撰組局長近藤勇、死の直前の写真である。この時近藤は34歳。鳥羽伏見の戦いで肩を射貫かれ、命からがら江戸に戻り、これから死地流山に赴く間際に撮ったとされる。
21世紀の日本において、34歳でこのような顔をもった男は絶対にいない。ニホンオオカミのように絶滅してしまった。太平洋戦争末期の特攻隊員の中には、二十歳そこそこで近藤勇のような顔をもった者もいたかもしれない。男の顔を決めるのは、平均寿命ではなく平均余命だからだ。
天下の三船敏郎が自らの三船プロダクションで撮った作品が『新撰組』だ。撮りたい映画を自分が撮りたいように撮りたかったのだろう。三船というと、貫禄のある大スターのイメージがあるが、三船はとても繊細な男だったと僕は思っている。近藤勇もまた外見的なイメージとは似ても似つかぬウェットさを持った男だった、と僕は思っている。そして、三船はそんな近藤勇をどうしても演じてみたかったのだと思う。ふたりに共通するのは、外見と内面の乖離を内包した男の悲しみだろう。
当時の三船は49歳。30歳代半ばの近藤勇を演じるのは、ちょっと苦しい気もするが、もう一度上の写真をよく見てほしい。死を前にしてこの落着き。世界の三船をして、がっぷり四つに取り組む相手として不足のない圧倒的な存在感ではないか。
ただ三船が近藤勇を演じてしまうと、共演陣のキャスティングに無理が生じることになる。映画スターが自分のプロダクションで映画を製作して失敗するのはだいたいこのパターンだ。たとえば、土方歳三。近藤勇より一つ年下だが、近藤を象徴に祭り上げて、実質的に新撰組を動かしていた男。それを演じたのは、千秋実。うーん、苦しい。近藤勇より8歳年上だった芹沢鴨を演じたのは、三船より実際には3歳年下の三國連太郎。芹沢の狂犬ぶりを怪演できるのは、やはり三國しかいなかったのかもしれないが。なんと言ってもすごいのが、勝海舟を演じた三代目中村翫右衛門だ。幕末当時40歳代半ばだった勝海舟を69歳の翫右衛門が演じて何の違和感もない。勝海舟という老獪さとヤンチャ小僧ぶりで世間を欺いた怪人物を演じて見事である。
映画としては何とも大味な出来ばえだが、絶滅してしまったニホンオオカミの記録映画でも見るつもりで、本物の大人の男の顔をじっくり観察して見るのも悪くはないものだ。