2023年10月第4週「やればできる子(40)」
来月の半ばに誕生日を迎えるので、母にスーツを買ってもらった。自分では手が出ない価格帯の、シャープで美しいパンツスーツ。
「アンタが正社員になったときから、ちゃんとしたのがいるんじゃないかと思ってたんよ」とのこと。母が長年愛用するブランドで、お嬢扱いされながらの楽しいショッピングだった。
そういえば、派遣先での正社員登用が決まったとき、彼女に言われた言葉が忘れられない。
「だって、アンタはやればできる子だから」。
子供の頃よく言われたセリフだが、まさか40になって耳にするとは思わなかった。
しかも、不肖の娘である私がこの40年で明確に“やってできた”といえるのは中学受験だけだ。大学受験は“なんとかやれた”程度で、就職活動は失敗したし、ADHDの影響もあり、若い頃は仕事といい関係を築けなかった。28でまともに働けない人間だと思うに至り、結婚に逃げた。それから40になる今までずっと、母の頭の片隅には(この子はやればできるはずなのに)が居座り続けてきたのだろうか。申し訳ないというか、なんというか……言葉がない。
孫を欲しがっていた時期もあるし、娘の離婚は彼女にとって望ましい事態ではなかろうが、私が一念発起して人生を立て直そうとしたことで母の中に居座り続けてきた忸怩たる思いが多少なりとも解消したのであればよかったと思うし、どうか、そうであってほしいと願う。切実に。
新しいスーツは誕生日に下ろそうと思う。