2023年9月第3週「火星と背徳」
はじめに
離婚して半年。一人暮らしをはじめて4か月。ときどき、おそろしいほどの寂寥感と焦燥感に襲われる。
これでもまだ落ち着いた方で、少し前は週末が来るたびに怯えていた。結婚していたとき、実家で暮らしていたとき、あれほど焦がれたひとりの時間が、怖い。
まあでも、しょうがないとも思う。
地元の大学に進学した私は28まで実家に居座り、結婚式の夜から新居に移り住んだ。結婚生活はいろんなことがあったけれど、夫だった人は家に帰らない人ではなかったので、12年間ほぼ毎日布団を並べて寝起きしていた。紆余曲折があって戻った実家には父母弟の核家族フルメンバーが揃っていたし、5月の半ばに契約した部屋に移り住むまで家の中でひとりで眠ったことはほとんどなかった。40年。40年だよ。
そんな私の、人生はじめてのひとり暮らしなのだから、寂しくもなるだろう。いい年してなにを言ってるんだと呆れられて当然だけど、最終的に私しか私の味方はしてあげられないから庇ってあげたい。しょうがないよ。そりゃ寂しいよ。この一年で人生を大きく動かしたしさ、情緒がおかしくもなるよ。当然だよ。よく頑張った、えらいえらい。
ひとりで勝手にしくしくしていたならそれでいい、むしろ自分で自分のケアをして立派なくらいだけど、私は、よりによってできたばかりの恋人に寂しさをぶつけてしまった。
その結果、「好きじゃなくなったっていうか、戸惑ってる感じ? 応えられるのかなって…」などと言われ、いま、濃厚な別れの気配を鼻腔いっぱいに吸い込んで気が遠くなっているところだ。あー、きっつい。くらくらする。来るわ。
ひとしきり落ち込んだあと苦笑いしながら考えた結果、日記を書いてみることにした。日記っていうか、週記? 週報? 認知行動療法みたいな効果を期待している。
限られた人にちらちらと見てもらっただけだけど、離婚のときもそれで乗り切ったし、書くことはポジティブな行為だと思う。私は基本的に続かない人なので、これきりかもしれない。まあそれでもいい。とりあえず、いまこの瞬間は寂しくないし。
2023年9月 第3週
はじめに、でだいぶ消耗したので簡単に。
今日『威風堂々クラシックinHiroshima2023』に足を運んだ。指揮者の大植英次さんのプロデュースで、故郷広島に音楽を届けること、そして音楽を志す若者に活躍の場を提供することを目的としているイベント。JMSアステールプラザで、二日間にわたり、ほぼ無料でクラシック音楽を楽しめる。
私が見た広島国際会議場フェニックスホールでの演奏会だけ有料なのだけど、それもたったの1,000円。こんなイベントがあったなんて知らなかった。土日暇だな~なんかないかな~で検索して見つけたのだけど、調べてみるもんだ。
演奏されたのはワーグナー/「ニュルンベルグのマイスタージンガ-」第一幕への前奏曲、ジン・ウィリアムズ/「E.T.」よりフライングテーマ、ホルスト/「惑星」より火星、木星。
幕間をはさんでレスピーギ/「ローマの松」が演奏されたはずだけど、来週の出張に向けてクリーニング屋でスーツをピックアップしないといけなかったので休憩中に席を立たせてもらった。この値段でなければ、行くこと自体諦めていたと思う。
盛り上がる曲ばかりで本当にわくわくした。楽しかった。大きくて、綺麗な音を聞くのは楽しい!はじめて宝塚歌劇を見たときに、派手ってエンタメ!と感じたのをしみじみ思い出す。プリミティブな感動がある。
若い人たちを盛り上げ、励まし、労うような大植英次さんの指揮も見ていて楽しかった。
場所が平和公園の一角だったので、戦争の空気を纏ったホルストの火星に興奮してしまうことへの背徳感があって、その経験もおもしろかった。
物語に没頭して心が揺れることすら恐れている節があるので、音楽の抽象性が今すごくハマるんだろな。脳を支配されすぎない娯楽。