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さあ はじめよう!今、経営者が注目する「働きがい」向上の取組~働き方改革企業経営者勉強会~【第5回】

※以下は、2月17日(金)にオンラインで開催した勉強会の内容を要約したものです。

基調講演さあはじめよう!「働きがい」向上の取組

佐々木氏より、社員の仕事と生活の充実・働きがい向上に必要な仕事の進め方や管理職(リーダー)の在り方などを、経験と事例を交えながらお話いただきました。

講師プロフィール

佐々木 常夫 氏
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表

講師プロフィール
1969年東京大学経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。
しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建や様々な事業改革など多忙を極め、そうした仕事にも全力で取り組む。
2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より東レ経営研究所社長となる。
2010年(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。
何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを勤める。
社外業務としては内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授 などの公職を歴任。


ワーク・ライフ・バランスは個人も会社も共に成長させる経営戦略 ~タイムマネジメントはすべての基本~

私には自閉症の長男を含む3人の子どもがいます。妻が入退院を繰り返していた時期は、家事や見舞、もちろん仕事においても、すべて計画的・戦略的に進める必要がありました。そこで私は、仕事を極限まで効率化し、生活にかける時間を捻出することにしたのです。家族との時間、自己研鑽や趣味の時間を確保しなければならないことは皆さんも同じですが、もしそれができないとしたら、最大の障害になっているのは、「長時間労働」と「非効率労働」です。仕事の成果と長時間労働とは必ずしも関係があるわけではありません。

ワーク・ライフ・バランスとは、個人も会社も共に成長する経営戦略です。仕事と生活を充実させるためには、そのどちらも上手くコントロールする必要があります。そこで重要となるのが「タイムマネジメント」です。仕事には重要なものから雑用まで様々な種類がありますが、価値のない会議をいくら効率良くこなしても結果には繋がりません。肝心要な仕事を完璧にこなしてこそ評価につながるのです。つまり、タイムマネジメントとは「時間の管理」ではなく「仕事の管理」なのです。

ワーク・ライフ・バランスは個人も会社も共に成長させる経営戦略 ~タイムマネジメントの3つの極意~

タイムマネジメントを考える上で、3つ重要なポイントをお伝えします。
1つめは「計画先行・戦略的仕事術」です。私は、「戦略的計画立案」は「仕事量を半減」させると考えています。同じ仕事をこなしても、すぐに終わる人と時間がかかる人がいます。それは能力の差ではありません。「最も大事なことは何か」を正しくつかみ、段取りよく進めることができるかどうかの差なのです。


私は課長になった時にまず、部下が過去1年間の仕事にどれだけ時間をかけたか洗い出し、その仕事の重要度から本来かけるべき時間を分析した上で戦略的計画を策定しました。仕事はすぐに走り出してはいけません。最短コースを考えるのです。予め計画を立て仕事を進めることで仕事の流れがスムーズになりムダを削減することができるのです。さらに、部下に指示を出すときは、必ず期限を決めます。途中で報告をさせ、方針が合っているか確認することで、無駄なやり直しを防ぐことも重要です。年度終わりには、フォローアップを行い、その計画がなぜできなかったか、どうしたらできたのか振り返り、次の年の計画につなげます。このような戦略的仕事術により、私の部下は月60時間の時間外労働を数時間まで削減することができたのです。

2つめの極意は「時間節約・効率的仕事術」です。まず、仕事を効率的に進めるためには、情報管理が重要です。重要な情報を整理し、必要なときにすぐにアクセスできるようにしておくことが大切です。例えば、組織の仕事は同じことの繰り返しであり、先輩たちが過去に似たような仕事をしていることが多いものです。過去の資料を把握し、管理することで、完全オリジナルの仕事以外は、過去の資料から考え方・フォーマット・着眼点をもらい、最新のデータに置きかえて、自分のアイデアをのせるだけで仕事が一つ片付きます。過去の優れた作品を使うのですから、仕事が早くて優れていて当たり前です。思いつきのような「プアなイノベーション」よりも、先輩たちの「優れたイミテーション」を賢く活用し、仕事を効率化するべきです。そして、仕事はなるべく発生したその場で片付け、次の日に持ち越さないことが肝心です。レポートや議事録は、どんなに忙しくてもとにかく「その日中に書き上げる」ことです。人間は、時間が経過するほど内容を思い出すのに時間が必要になります。移動のスキマ時間などを有効活用するなど、仕事を効率化できる方法を常に考えて行動することが、時間の節約につながるのです。

3つめの極意は「時間増大・広角的仕事術」です。これは、時間を有効に活用し、仕事の視野を広げることに焦点を当てた仕事術です。まずは、出なくてもいい会議、必要のない面会、読む必要のない資料を減らします。私はできるだけ全体会議はしません。そのかわり、そのテーマに関連する人だけを集めて15分程度で結論を出すミーティングを行います。短い時間のミーティングであれば関係者はすぐに集まることができます。誰もが時間に限りがあるなか、本当にその仕事をするために人に会わなければならないのか、よく考え工夫しなければいけません。そして最も重要な課題は、上司とのコミュニケーションです。上司は部下の働き方や成果に直接関わる存在です。上司が自分の業務を正確に理解し、適切なフィードバックを与えることで、部下はより効率的に業務を遂行でき、成果を上げることができます。また、トラブルが発生した場合も、上司とのコミュニケーションが密に行われている場合は、早期に解決することができるのです。

リーダーのミッションは働きがい向上で組織の成果を上げること

新型コロナの発生から3年が経ち、社会ではいろいろな変化がありました。そのひとつであるテレワークの進展とともに、生産性が低い管理職は不要だという議論が生まれています。本来、管理職には2つのミッションがあります。広い視点で有効なビジネス活動にシフトし組織の成果を上げること。そして、従業員が働きがいや生きがいを感じながら働くためのサポート(エンゲージメントアップ)を行うことです。「働きがい」の根源は、自分以外の誰か・何かに貢献すること、そして自分の成長を感じることです。周囲からの感謝や信頼、自身の成長の喜びによって人は幸せを感じ、働く理由となります。そのため、上司が部下の働きがい向上に積極的に取り組むことは、組織の生産性や業績を向上させるために必要不可欠なのです。私は組織の活性化、従業員の働きがい向上には従業員を尊重して対等に捉えること、つまりダイバーシティ&インクルージョンが、重要だと考えます。私は30歳の時から、上司、部下には「さん」付けで名前を呼ぶようにしています。当時、私の周りに部下を「さん」付けで呼ぶ人はいませんでしたが、取り組むことで大きな変化がありました。信頼関係が生まれたことで、彼らは指示待ちにならず、自分で考え、提案するようになったのです。

リーダーに必要といわれる能力には、先見性や、謙虚さ、責任感、行動力、向上心などがありますが、そういったものを全て兼ね備えている人はいません。それよりも必要なのは「志と人間性」です。「自分に期待されている役割をきちんと達成しよう」「お客様に貢献しよう」「部下を成長させよう」といった志を持つことのほうが大切です。そういう志さえしっかり持っていれば周囲の人は理解し、付いてきてくれます。何のために働くのか、きちんと自分の中で志を持つことがリーダーには必要なのです。


働きがい向上の取組事例紹介
「さあはじめよう!『働きがい』向上の取組み」

企業ゲスト
株式会社バーテック
代表取締役社長 末松 仁彦 氏

会社概要
本社:大阪市都島区
設立:1962年
従業員数:32名
業務内容:工業用ブラシの設計開発・製造・販売
資本金:4,500万円

働きがい向上に取り組んだ背景

当社は祖父から父へ、父から私へバトンをつないできたファミリービジネス企業です。私は2008年に父から会社を承継しました。社長に就任したこの年はリーマンショックが発生した年であり、当社も影響を受け業績を落としてしまいました。この危機を脱するため、利益管理を徹底した経営を行った結果、業績はV字回復し過去最高を実現できたものの、数字を追う経営に従業員が疲弊してしまい、退職者が続出してしまったのです。慌てて採用しても気持ちが合わずに退職、という悪循環に陥りました。そこから何とか抜け出すため、2014年頃から取り組んだのが「働きがい向上」の取組です。

この頃から、京セラを一代で世界的な企業に成長させた稲盛和夫氏の盛和塾に参加し、私と同じ立場である経営者たちとともに経営哲学を学んでいます。「全従業員の物心両面の幸福を追求することが経営者の使命」とする稲盛氏の経営理念を取り入れ、当社でも従業員一人ひとりが経営者目線を持ち、主体的に仕事に関わる「全員参加型経営」に力を入れてきました。

2018年からはGreat Place to Work®(以下「GPTW」)による「働きがいのある会社」調査に参加しています。GPTWの調査では、従業員を対象としたアンケート調査があります。アンケートでは、所属している会社が「働きがいのある会社」かどうかについての設問が60問あります。この調査結果に真摯に向き合い、見えてきた課題を従業員と一緒に少しずつ改善した結果、GPTW 2022年版働きがいのある会社ランキングで国内若手ランキング5位、アジアランキング17位を達成、2023年版では国内小規模部門で3位を獲得。従業員の働きがいに関するアンケート調査結果については、総合評価を表す全設問平均値が、2018年には78%でしたが、2022年には92%まで上昇しました。また、その上昇と合わせたように、業績も2018年から2022年までに約2倍に成長しました。

当社にとって、働きがいの向上は経営理念である「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類・社会の心と技術における進化発展に貢献する」という目的を実現するために取り組むべきものと考えています。「働きがいのある会社は、従業員一人ひとりが考え、つくる」という意識を社内で高めて改革を進めた結果、現在の姿があります。

取組の内容

特に力を入れていることは、理念経営を実現させていくため、日々の仕事の中でどのように理念を具現化していくのか、共有したい価値観を50項目にまとめて冊子化した「バーテックフィロソフィ」です。会社が目指す方向性や、従業員にもってもらいたい人生観・仕事観をまとめたもので、これを基に、昼礼や日々の仕事での実践を重視した勉強会を開催しています。また、週単位で模範従業員の表彰などを行っています。

2018年に社長に就任してから様々な取組を行ってきました。まず、年1回行っているビジョン合宿も、会社と従業員が同じ目線で進んでいくために欠かせないイベントです。全従業員の幸福を追求するためには、会社ビジョンだけではなく、個人のライフビジョン・キャリアビジョンを明確にし、日々の業務に意義をもたせることが重要だと考えています。そこで、会社のビジョンを「自分事」として考える時間、従業員一人ひとりが自分のキャリアビジョンを考えるための時間を合宿というまとまった時間として確保し、テーマに沿ったアクションプランを考えるワークショップや、従業員自らのプレゼンテーションを通して、アイデアを共有する場などを設けています。社長一人の力では従業員全員の幸せを実現できません。従業員一人ひとりが自分の人生のオーナー経営者となり主体的に生きがいや働きがいを考えていくことが重要だと思っています。

また、コロナ禍を受けて、すべての従業員が在宅勤務できる環境を整えました。仕事のプロセスを整理したり、在宅でも業務対応が行えるようシステムに投資したりしました。ここでは、従業員だけでなく、その家族も含め安心して働けるように、従業員一人ひとりの声を聞きながら意思決定しました。このような取組で国のBCPに関する制度であるレジリエンス認証の取得にもつながりました。

さらに、ダイバーシティ&インクルージョン経営を目指し、異文化感受性発達理論を導入しています。性別、国籍、考え方など多様性の違いをあるがままに活かすため、多様性理解を深める取組にも力を入れています。当社では、「極意のワーク」という従業員同士が相互理解を深めるための研修を行っています。極意のワークでは、2人ペアをつくり、テーマに沿って10分間お互いに共通点や相違点について発表し、まとめる時間を設けます。テーマは仕事の内容以外にもプライベートの出来事など様々です。お互いについて紹介し合うことで、知らなかった一面が垣間見え、相手への安心感と好奇心が高まります。テレワークにより物理的に離れて仕事をしていると、コミュニケーション不足になりがちですが、相互理解を深めるワークを定期的に行うことで一体感を深めることが可能となるのです。

取組をはじめる上での心構え

働きがいの向上への取組は必要不可欠ですが、すぐに効果が出るものではありません。長期的視点で、永続的に健全な発展を目指す心構えが必要です。また、どこまでいっても終わりはありません。ひとつ改善しても別のボトルネックが見つかったりしますが、継続していくことで、全体の働きがいが向上すると思います。最初は社内の抵抗感や失敗もありますが、あきらめずじっくり話し合って、試行錯誤することが大切です。

そして最も重要なことは、経営者の人間性だと思います。業績や利益のためでなく、従業員の幸せを追求していく気持ちを持って取り組んでいます。

トークセッション

[パネリスト]
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表 佐々木 常夫 氏
株式会社バーテック 代表取締役社長 末松 仁彦 氏

[ファシリテーター]
株式会社ワーキンエージェント 働き方改革 上級コンサルタント 藤原 輝 氏

―株式会社バーテックの取組を聞いていかがでしたか。

佐々木:正直驚きました。ここまでの成功事例をあまり聞いたことがありませんでした。従業員の物心に照準を合わせていることや、極意のワーク、バーテックフィロソフィなどの手法も素晴らしく、経営者の人柄がにじみ出ています。
末松:私もこれを機会に、佐々木さんの著書を3冊読みました。単なる仕事術でなく、家族への愛を実現するためのものというお話を読んで感動しました。

―27歳という若さで3代目社長に就任されて、それまでのトップダウン型からボトムアップ型に変更されました。なぜそのように変更され、またフィロソフィや経営理念に焦点を当てたのか、いきさつを教えてください。

末松:2代目として父が経営しているときに、退職者が出たことをきっかけとしてボトムアップ型に改革しました。それを私も引き継ぎ、またリーマンショック後の業績悪化で苦労したときに、稲盛和夫さんの経営哲学から「経営において重要なことは『何のために経営するのか』」ということ、経営理念の重要さを学びました。経営理念を唱和する程度のことでなく、日々の業務に落とし込んでいくということを実践しました。

―理念の浸透はなぜ必要なのでしょうか。

佐々木:稲盛和夫さんは、京セラフィロソフィ、JALフィロソフィなどを改革の最初に打ち立てています。私は、リーダーには心が乗っている言葉を使うことが大事だと思います。手法はいかようにもなりますが、自分自身がのめり込むためにも、経営の哲学を持っていないと企業は成功しないと、様々な事例を見て思っているところです。だからこそ、末松さんの言葉には感銘を受けました。
藤原:バーテックフィロソフィには、心構えだけでなく仕事を進めるにあたって大切なことが書かれています。そのなかで、「目的意識を高める」「出口を明確にする」「シンプルにとらえる」など、佐々木さんの講演内容に共通することが書かれていました。
末松:理念を理解するだけでなく、実際にお客様に接する従業員が仕事に反映するためには、そこまで具体的に落とし込む必要性を感じました。仕事を通じて成長してもらいたいと思ったので、理念だけでなくそこまで具体的に書いています。
佐々木:理念を掲げるだけでなく、50項目にまとめて、合宿やワークショップを行うことで、従業員の心が動くんです。経営者には言葉が必要だと言いましたが、行動も必要です。経営者が動くことで、従業員は「社長が言っていることは本物だ」と感じるでしょう。また、「“全従業員”の幸福の追求」という言葉を使っていることで、従業員はダイバーシティや思いやりを感じるのだと思います。

―従業員個人のフィロソフィも作っていることがとてもユニークです。その効果はいかがですか。

末松:理念を暗唱できるということでなく、仕事を通して体得してほしいと考えています。生きる目的と仕事が合致すると楽しくなる。そういう気持ちを高めるためにも合宿を行っています。
藤原:「シンプルに考える」ということにもつながりそうですね。

―同族経営はネガティブにとらえられることが多いですが、メリットもあると思いますか。

末松:たしかに日本では、ファミリービジネス(同族経営)のイメージがあまり良くないです。ファミリービジネス白書では、全企業の約97%、上場企業のおよそ半分がファミリービジネス。長寿企業や業績が良い企業も多いんです。ファミリービジネスのメリットは、長期的視点に立って安定した経営ができること。ファミリー企業ならではの温かさも出していけるのではないでしょうか。
佐々木:私は、従業員は家族だと思っています。無償の愛を持っている存在。親である社長が、従業員という子どもたちを見守り育てるという見方をすれば、効率的でもあると思います。
末松:「大家族主義」も大事ですね。

―働きがい向上のために、ほかにも様々な取組みをしているそうですね。

末松:社内の懇親会「バーテックコンパ」や管理職だけの懇親会、私と若手従業員の懇親会などを行っています。コロナ禍を受けても中止することなく、オンラインで行うなど、相互理解を深める場を持ち続けています。
また、家族のサポートがあってこそ元気に仕事ができるので、年1回「家族感謝祭」を行っています。従業員同士で家族の顔が見える関係になることで、家族に対する気遣いや連帯感が生まれるという効果もあります。
佐々木:聞くと、とても分かりやすい取組ですが、やるとなれば手間暇がかかることです。ダイバーシティ&インクルージョンにおいても、違う考え方を受け入れて共に行動するのは面倒だと感じがち。それを一人も逃さず行っていることがすごいです。従業員の反発はありませんでしたか。
末松:抵抗感を表す従業員もいました。しかし、そういう従業員を含めて、雇用したからには覚悟を持って従業員一人ひとりの幸せを実現していきたいと強く思ってやっています。時間がかかることも覚悟しています。
ただ、採用時に工夫もしていて、採用面接の際にはあらかじめバーテックフィロソフィをお渡しし、事前に会社の理念を理解してもらうようにしています。それがミスマッチを防いでいます。また、人生において普遍的なことを書いてあるため、学生にとっても響くところがあるようで、最終面接ではこのフィソロフィについてディスカッションすることもしばしばです。

―GPTWの調査に参加しているねらいや、活かし方を教えてください。

末松:初めて参加したのは、リーマンショックからV字回復して過去最高売上げを達成した頃でした。順調に進んでいると、「このままでいいんじゃないか」という空気が流れがちです。そういうときこそ自社の成長課題に向き合って成長していきたいという思いから参加しました。最初に結果を見たとき、とてもショックでした。従業員の幸せを願ってやってきたつもりが、想いが一方的で逆効果だったこともありました。60の質問項目から見える強みと成長課題を幹部と共有・分析して、毎年少しずつ改善すると、業績も上がっていきました。従業員は匿名で回答するので信憑性が高く、経営理念を測る健康診断のような感覚で行っています。
佐々木:客観的に強みも弱みも分かりますので、改善を目指すなら定期的に続けることがとても効果的です。企業の成績表のようなものですね。数字で出る業績は経営者に対する評価。従業員の心やエンゲージメントは別のところで評価する必要があり、GPTWの調査は意義があることだと思います。

―働きがいのある会社にするために、何がポイントだと感じますか。

末松:いちばん重要なのは、経営者の姿勢ではないでしょうか。何のために経営しているのか、働きがいを高めていくのか、芯を持っていないと何事も続けていけないと思います。
佐々木:経営者の人間性もとても重要です。一方で、個人も会社も共に成長するワーク・ライフ・バランスを目指すとき、一人ひとりの従業員に向き合って対話する必要があります。様々な手法を試して、終わりなく継続できることが重要なポイントです。

―次のステップをどのように考えていますか。

末松:一人ひとりの人生観をさらに高めていきたいということ。また、取引先とともに働きがいを高めていきたいとも思っています。自社だけが幸せということでなく、取引先、ひいては社会全体の幸せに貢献できたらと思っています。
佐々木:継続的に従業員の心の変化をトレースできる体制ができてきていると思います。現在は末松さんに共感している従業員が多いのだろうと思いますが、心が離れることもあると思います。その変化をとらえられる手法も考えると、さらに良い会社になるのではないでしょうか。

―バーテックは「全員経営」で事業をうまく継承しているように感じましたが、いかがでしょうか。

末松:「大家族主義」「全員参加経営」は大切にしています。全従業員が経営者と同じ課題意識を持って仕事をするべく、経営情報をオープンにしています。ファミリービジネスの強みを活かした経営をしていきたいですが、それは必ずしも一族から経営者を出すことではないと考えています。創業家が会社を私物化したり私心で仕事したりするのでなく、社長として、家族の長として、人間性を高めることでより良いファミリービジネスができると思っています。

―最後にメッセージをお願いします。

佐々木:ファミリー経営や大家族主義の前提として、「主体性を持って生きる」ことが重要です。働き方は生き方。少しずつ違うものを持っている人が集まって同じ方向へ進むことは大変なことです。ズレを許容しながらダイバーシティを進めることも必要だと思います。この勉強会を視聴した経営者は、自社なりの活かし方を考えてもらえたらと思います。
末松:当社もまだまだ発展途上です。内側から燃え上がるような情熱のある従業員の集まりを目指し、さらに働きがいの向上に努めていきます。

Great Place to Work🄬 2023年版 広島県における「働きがいのある会社」優秀企業の発表

Great Place to Work®(GPTW)は、「働きがい」に関する調査・分析を行い、一定の水準に達していると認められた会社や組織を「働きがいのある会社」ランキングとして発表する活動を世界約100ヵ国で実施している専門機関です。
広島県では、「働きがい」向上に取り組む優秀企業の創出を目的に、GPTWの働きがいの現状を可視化する調査に参加する費用の一部を補助する事業を実施しています。

当日は県内企業の中から、GPTWが特に優れていると認めるGPTW2023年版広島県における「働きがいのある会社」優秀企業5社を発表するとともに、各社から喜びのコメントをいただきました。

GPTW2023年版広島県における「働きがいのある会社」優秀企業は次の5社です。

大津建設株式会社(建設業/三次市)

代表取締役 熊本 孝司

建設業の仕事は3Kと言われ、私たちの職場は中山間地域に位置しています。そのため、働く人を雇い入れることが大変難しく、人手不足から冬場の除雪や自然災害への復旧作業が出来づらくなっているのが現状です。そのような現状を打破するため、社員一人ひとりが心置きなく意見を交わし合うことで、心惹かれる仕事に出会う「面白さ」と仕事の過程や出来栄えを通して得られる新たな体験や達成感による「感動」を実感できる取組を進めています。今後も仕事を通じたやりがいや出逢いを生む職場づくりを進めるとともに、地域と共にある企業を目指したいと思います。


マイクロンメモリ ジャパン株式会社(製造業/東広島市)

代表取締役 ジョシュア・リー

人が働きがいを感じるのは、働く人が自分の仕事に意義を見いだし、自分の成長が支援されていると感じ、ありのままの自分が尊重され、評価されて、その成果が認められていると感じられるときだと思います。「働きがいのある会社」として評価されることにより、優秀な人材が集まり、イノベーションの生まれる職場環境が形成されると信じています。個々の潜在能力を高め、誰もが自分らしく活躍できるような職場環境の構築に向けて引き続き取り組んでまいります。

株式会社ミクセル(小売業・サービス業/広島市)

代表取締役 島 幸司

私たちのパーパスである“日本の文化と技術で長寿を喜び合える社会をつくる”への共感を広げることと、共感してくれた社員さんが能力を発揮できる環境を整えることの二つを大切にしています。“共感”と“環境”の二つを大切にしてきた事で醸成された社風が、働きがいの向上に大きく影響していると感じています。今は働きがいの向上が社員さんの幸福度や業績に大きな影響を与える事を実感しているので、さらに目的意識を持って働きがい向上に取り組んでいます。

株式会社三原美装社(総合ビルメンテナンス業/三原市)

代表取締役 藤原 聖士

15年前から男女共同参画に取り組み、男女ともに自分の意思で能力や個性を発揮し、責任を果たせる人材の登用を進めてきました。さらにワーク・ライフ・バランスが実現できる職場環境の整備として、労働時間の短縮、有給休暇の取得促進などの取組も進めてきました。こういった取組に加え、今まで以上に働きがいのある会社とするために社員同士が感謝を伝え合うThank youカードの作成や経営者との個人面談などコミュニケーションの強化で社員が仕事での貢献や成長を感じられる取組を行っています。今後も働く人が積極的に働きがい向上の取組に関わる方法を考え、実践することで誰もがいきいきと活躍できる職場づくりを目指していきたいと思います。


株式会社RITA(生活関連サービス業/広島市)

専務取締役 廣政 恵太

私たちは従業員の働きがい向上に向けて価値観の共有と、目標・方針を明確にして伝えることに重きを置いています。それと同時に生産性の高い会社づくりに向けて、従業員の提案による業務改善の取組や、限られた時間で意欲的に業務に取り組み、成果を残せる人材を育てるために感謝を伝え合うサンクスカードや先輩社員とペアで課題を解決するシスター制度などの取組を進めています。仲間に必要とされ、社会的に認められ、それが評価にもつながっていく仕組づくりを進めることが会社の持続的な成長の上でも必要だと考えています。

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