見出し画像

さあ はじめよう!今、経営者が注目する 「働きがい」向上の取組~働き方改革企業経営者勉強会~【第3回】

※以下は、8月9日(火)にオンラインで開催した勉強会の内容を要約したものです。

基調講演「ワーク・エンゲイジメントに注目した『働きがい』の向上」

日本におけるワーク・エンゲイジメントの研究の第一人者である島津教授に、ワーク・エンゲイジメントとは何か、ワーク・エンゲイジメントの向上に必要な要素を個人・組織の観点からお話いただきました。

講師プロフィール

島津 明人 氏
慶応義塾大学総合政策学部 教授

島津先生

2000年早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻・博士後期課程心理学専攻修了。博士(大学)、臨床心理士、公認心理師。早稲田大学助手、広島大学専任講師、同助教授、ユトレヒト大学客員研究員、東京大学准教授、北里大学教授を経て、2007年より現職。主な著書に『ワーク・エンゲイジメント入門』『ワーク・エンゲイジメント:基本理論と研究のためのハンドブック』(星和書店)、『自分でできるストレスマネジメント』(培風館)、『職場のストレスマネジメント:セルフケア教育の企画・実践マニュアル』、『職場のポジティブメンタルヘルス:現場で活かせる最新理論』(誠信書房)、『新版ワーク・エンゲイジメント:ポジティブメンタルヘルスケアで活力あ
る毎日を』(労働調査会)などがある。

ワーク・エンゲイジメントが注目されている背景

昨今注目されている健康経営は、従来の「アブセンティーズム(病欠や病気休業をしている状態)」の視点より「プレゼンティーズム(何らかの疾患や症状を抱えながら出勤はしているが、生産性は低下している状態)」が重視されるようになり、プレゼンティーズムによる損失の大きさも明らかになってきています。
そのため、いかに健康で活き活きと働くか、つまり、ワーク・エンゲイジメントを高めるかが重要になってきました。経済産業省が毎年認定する健康経営優良法人の認定基準にも、「ワーク・エンゲイジメントの定期的な測定」という項目が組み込まれています。

また、働く人々を、労働力の提供者としての「人的資源」から、新しい価値を生み出す「人的資本」へと捉える考え方へ変わってきており、そのために働く人のエンゲイジメントと生産性を高めていくことを目指して働き方改革を進めていくことが求められています。
さらに、従業員のワーク・エンゲイジメントが高いほど企業の利益率も高いことが解析されています。

ワーク・エンゲイジメントとは

「ワーク・エンゲイジメント」は自分の熱意とエネルギーが仕事に向かっているということ。これを学術的に整理したオランダのシャーフェリ氏は当初、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」を少なくすることが従業員のウェルビーイングにつながると考えていましたが、従業員の本当の幸せは活き活き働けることだということにたどり着きました。

ワーク・エンゲイジメントに関連する概念として、「ワーカホリズム」「バーンアウト/ボアアウト」「職務満足感」が挙げられます。新たな概念である「ボアアウト」は、仕事に対して退屈しきっている状態のことです。テレワークが浸透し、自律的な仕事を求められるようになって注目を集めた概念で、自ら仕事を組み立てることができない人が陥りやすい状態です。
注意が必要なのは「ワーカホリズム(仕事依存または仕事中毒)」。仕事への熱量の高さはワーク・エンゲイジメントと共通しますが、仕事から離れる罪悪感から無理に仕事をしているため、仕事を不快に感じています。職場から与えられた職務・環境に満足している「職務満足感」に加えて、自らの未来のために積極的に仕事に取り組むのがワーク・エンゲイジメントです。

ワーク・エンゲイジメントの性質のひとつに、人から人に伝わることが挙げられます。職場のリーダーのエンゲイジメントが部下に伝わると、部下のパフォーマンスが上がり、離職意思は下がるのです。もし部下のエンゲイジメントが低いと感じる場合は、上司である自分自身のエンゲイジメントも振り返ってみてください。

また、ワーク・エンゲイジメントは売上高にも影響していて、ワーク・エンゲイジメントの平均値が高いと売上高も増加すること、さらに、職場内のワーク・エンゲイジメントの高い人と低い人のばらつきが大きいと売上高が低くなることも分かりました。職場づくりを考えるとき、できるだけ多くの人のエンゲジメントを底上げしていくことが有効と言えます。

職場づくりで必要なこと

従来、職場のメンタルヘルス対策で重視されていたのは、「健康障害プロセス」でした。仕事の要求度から生じる心理的ストレス反応を軽減するために、職場の悪いところを取り除いていこうという考え方です。
しかし、これからの職場づくりでは、自己効力感やレジリエンスなどの「個人の資源」と、組織や仕事の強みである「仕事の資源」を増やすことでワーク・エンゲイジメントを高め、結果、心理的ストレス反応を減らし、健康・組織のアウトカムを向上させる「動機付けプロセス」が大事になってくるのです。

「仕事の資源」を伸ばすために、これまでは職場の問題点を改善する職場改善活動が一般的でしたが、私たちのチームは、職場の強みとワーク・エンゲイジメントを、定量的に数値化して伸ばしていくポジティブアプローチを推奨しています。また、アメリカで開発された、互いを尊重する温かいチームをつくろうという「CREW プログラム」を、日本版として展開しています。
チーム内に心理的安全性があると、言いたいことが言える職場風土となり、ヒヤリハットを防ぐことができます。そのために、どうすればお互い尊重し合う環境になるか定期的に話し合いながら、徐々に心理的安全性を高めていくのです。

「個人の資源」を伸ばすためには、「ジョブ・クラフティング」を推奨します。これは、与えられた仕事をやりがいのある仕事に変えることで、そのためには、①タスク自体の性質や遂行方法②仕事上での人間関係③仕事の捉え方(認知)の3つを変化させることです。②の事例として、福岡県のドーム球場で人気のビールの販売員は、客の顔をしっかり覚えることで常連客がつき、そのことが自身のやりがいにもつながっているそうです。

このほかにも、一人一人の強みを増やすために、職場での思いやり行動(利他的行動)を増やすことも有効です。職場の人のサポートをすること(対人的援助)で、自分の仕事は増えてしまいますが、周りからのサポート(ソーシャルサポート)も受けられるようになり、結果、活き活きと仕事ができるということです。
しかし、支援の互恵性が低いとストレス反応も強くなるという研究結果もありますので、一人だけでなく、皆が互いに支え合う互恵状態ができることが大切です。

さらに、食事・運動・睡眠など良好な生活習慣とエンゲイジメントには関連性があること、座っている時間が長いとエンゲイジメントが低くなることも分かってきています。
東京大学医学部の松平浩先生が開発した「美ポジ体操」を2カ月実践した職場では、エンゲイジメントが上がりました。昼休みのちょっとした体操も効果的です。

仕事以外の要因に注目した対策

仕事以外の要因としては、まずはワーク・ライフ・バランスに注目します。仕事上のイライラや疲労を家庭に持ち込んでしまうと、そのイライラが家族に伝播し、その家族も、仕事にイライラを持ち込んでしまうマイナスの効果が表れます。
一方でプラスの効果もあり、仕事でいいことがあれば、同じように家庭にも、家族の仕事にもプラスの効果をもたらすのです。

ワーク・ライフ・バランス対策を考えるとき、仕事のパフォーマンスを上げるために職場環境や働き方を改善しようとするのが一般的ですが、家庭もうまくいくようにサポートすることで仕事へのマイナス効果を減らし、仕事のパフォーマンスを上げることができます。
さらに、パートナーや家族のサポートもすることで、家庭環境が向上し、仕事もうまくいくようになることが考えられます。ワーク・ライフ・バランスが自分自身や家族の健康に及ぼす影響を「TWIN(Tokyo Work-family Interface) study」として研究したところ、自らのワーク・ライフ・バランスが、肉体的にも精神的にも家族に影響するということが分かっています。

ほかの仕事以外の要因としては、リカバリー(疲労回復)です。仕事でストレスを受けても、回復して慢性化しないためにはリカバリーが必要です。仕事以外の時間(休暇や終業後)に行う外的リカバリーと、就業時間内に行う内的リカバリーがあります。
そしてリカバリーのためには、仕事との心理的距離をどれくらいとるかが大切です。仕事のことを忘れれば忘れるほどメンタルヘルスは改善しますが、一定以上の心理的距離ができるとエンゲイジメントは低くなります。

業務内容によってリカバリーするべき場所も変わります。頭脳労働が多い人は脳を休めるためにぼーっとする、人と接する感情労働が多い仕事なら一人の時間を作る、肉体労働なら身体をほぐすなど、業務内容によって適切な疲労回復法が必要です。

ウィズ / ポストコロナにおける働き方

2年以上続くパンデミックにより、ウェルビーイングも影響を受けています。しかし、職場環境や人間関係、働き方、地域や業種、家族の状況などによって、影響の受け方には個人差があります。
テレワークについてのいくつかの研究結果を概観すると、仕事と家庭のバランスの向上、通勤時間の削減などポジティブな面がある一方、同僚との直接的な交流の欠如、仕事と私生活との境界の喪失、テレワーク環境が悪いことによる腰痛などネガティブな面もあります。
また、在宅勤務を希望しない人にとってはストレスになることもありますので、個人の希望も考慮する必要があるかもしれません。

これからの働き方のキーワードは、「自律」「分散」「協働」。一人一人が自律して働き、離れていても協働するのがこれからの働き方です。同僚や上司のほか、家族やコミュニティなど「協働」の相手は様々です。
モバイルワークやワーケーションも注目されており、最適な働き方が模索されている過渡期にあるといえるでしょう。

働きがい向上の取組事例紹介

企業ゲスト
株式会社ハマダ
代表取締役社長 濵田 忠彦 氏
総務部 総務・人事課 係長 松村 未来 氏

企業概要
本社:安芸郡府中町茂陰
設立:1953年
従業員数:320名(派遣・パート含む)
業務内容:自動車部品精密加工事業、医療機器設計・
製造事業
資本金:3,000万円

働きがい向上に取り組んだ背景

当社は、2017年に広島県の働き方改革推進人材養成セミナーに参加し、その後2018年に広島県働き方改革実践企業に認定されました。その頃に社内に働き方改革プロジェクトチームを結成し、県のホームページ「Hint ひろしま」に掲載されている事例などを参考にミーティングを重ね、定期的に現場アンケートを行いながら、ハンドソープの設置から工場内空調設備まで大小様々な働きやすさの改善を実施しました。その結果として従業員のモチベーションも高まり、新規のお仕事をいただくことにもつながりました。しかしそんな中、新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされ、従業員のモチベーションが低下してしまったのです。
また、2018年に、2028年に向けた経営目標を決め、それを達成するためにも、「働きやすさ」から「働きがい」へのレベルアップが必要だと考え、広島県働きがい向上企業コンサルティング事業に申し込みました。

まずは現状把握として従業員サーベイ調査を行い、その結果を基に①生産性向上②コミュニケーションの強化③マネジメント改革④評価制度⑤会社全体の風土づくりという5つのプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトをすすめるにあたって、リーダーを中心に活動すること、管理職はメンバーとして参画すること、各プロジェクトに部長クラスの責任者を配置することを意識しました。
リーダーを中心にミーティングを進める中で、「働きがいは、マイナスをゼロにするのではなく、ゼロからプラスを生み出すことで向上する」と言われたことが印象に残っています。マイナス面を取り除こうとしてきた働き方改革とは異なる点でした。

働きがいとは、企業の視点では、「従業員が組織で働く価値を感じながら、意欲的にとりくむことができている状態のこと」、従業員の視点では、「従業員が組織を信頼し、自分の仕事に誇りをもち、一緒に働く仲間との連帯感をもっている状態、また、仕事を通じて、組織への貢献や自己成長を感じている状態のこと」を指します。
これらの視点と、アンケート結果をもとに、「仕事」「職場」「組織」の観点から5つのプロジェクトを検討、実行しました。

取組の内容

【プロジェクト①生産性向上】
ライン現場が抱える課題は、トラブルによるライン停止がストレスになること、またトラブルの要因は様々で、自身では解決できない場合も多いことがありました。ラインの稼働率は現場の達成感に直結していたため、稼働率の引き上げこそ、経営目標である「100億円企業」の達成に向けた土台づくりと働きがい向上に効果があると考えました。
課を超えたプロジェクトチームを編成し、6M+1E(品質管理の基本である5M(人、機械、材料、方法、測定)+1E(環境)に「マネジメント」のMを追加したもの)活動を実施、またライン停止の課題の抽出と、社内外と連携した課題解決方法を整理した結果、ライン稼働率及び不良率は改善しました。
生産性向上のゴールとしては、職場環境改善(ハード改革)を実施しつつ、組織体制の最適化や事前予測力の向上に向けたマネジメント(ソフト改革)と企業文化の醸成を図る(ハート改革)ことで、働きがいを感じながら働ける、単なる作業者から職人の育成を実現したいと思っています。

【プロジェクト②コミュニケーション向上】
ライン専従配置のため、横のつながりが薄く、日々の気付きやちょっとした疑問を解消する仕組みがないことがコミュニケーションの課題でした。孤立しがちなライン従業者同士のコミュニケーションが向上することで安全・品質・生産性の向上にもつながり、楽しいと思える職場づくりにもつながると考えました。
そこで3人1組の総当たり面談の実施と、目安箱の設置を行いました。従業員からは「面談をきっかけに話すようになった」「目安箱により、疑問がすぐに解消された」などの声がありました。

【プロジェクト③マネジメント改革】
マネジメント面では、管理者とのコミュニケーション不足、改善要望やハラスメントの相談先が不明確であること、現場の声が上司に届かないことが課題でした。
そこで、マネジメント層が自らの行動特性を知る(EQI(行動特性検査)による自己点検)ことで関わり方を改善すること、安心して相談できる窓口を設置すること、部下の声を聞くアンケートを実施することにしました。
ハマダ流のマネジメント(リーダーシップ型からサポート型)を確立することで、働きがいのある組織になると考えました。

【プロジェクト④評価制度】
評価制度については、昇格・昇進に対しての納得性の低さ、評価制度に対しての不平・不満がありました。
そこで、尊重されている、成果を認めてもらっているという実感を持ってもらうため、スペシャリストコースを作ることで、技術力・開発力の向上につなげることを目指しました。
評価制度を見える化するために従業員説明会を行い、来年5月には新昇格ルートの運用を開始します。

【プロジェクト⑤会社全体の風土づくり】
自動車の部品は、最終的にどこに使われどう機能するのか、従業員が知る機会はなかなかありません。そのため、自分の仕事が人の役に立っているという実感が湧かないこと、また部署間の相互理解の不足、会社組織への信頼度の低さが課題でした。仕事にやりがいや誇りを感じてもらい、経営者の想いに沿ってひとつにまとまることで、働きがいのある組織に近付くと考えました。
そこで、作っている「モノ」、一緒に働く「ナカマ」、経営陣のメッセージにより「カイシャ」を、それぞれ紹介する動画を作りました。従業員からは、日々の業務に親近感が持てた、経営者の言葉に励まされたという声が挙がりました。

このように、「仕事」「職場」「組織」の観点から働きがい向上に向けた取組を行ってきましたが、「ゼロからプラスを生みだす」取組は、簡単なことではありませんでした。しかしこれらの活動を行ってみて、全社員の約7割が「今後も働きがい向上の取組が必要だ」と答えています。取組により自社の強みや改善すべき課題も見えましたので、今後も働きがい向上の取組を継続していきたいと思っています。

トークセッション

[パネリスト]
慶応義塾大学総合政策学部 教授 島津 明人 氏
株式会社ハマダ
 代表取締役社長 濵田 忠彦 氏
 総務部 総務・人事課 係長 松村 未来 氏
[ファシリテーター]
株式会社ワーキンエージェント 働き方改革上級コンサルタント 藤原 輝 氏

―株式会社ハマダの取組内容を聞いて、いかがでしたか。

島津:5つのプロジェクトそれぞれが、職場の課題に対してひとつひとつ丁寧に対処していると感じました。単にモノをつくるだけでなく、人をつくるんだという企業理念から来る姿勢なのかなと思います。「マイナスをゼロにするのではなく、ゼロからプラスを生み出す」という発想もすごく良かったです。働く人のメンタルヘルスを考えるとき、不調にならないようにするだけでなく、どのようにしてみんなが活き活きできるかということを考えます。ゴールのないものを目指すことは大変なことだったと思います。

―島津先生にはワーク・エンゲイジメントを働く人の視点で御説明いただきましたが、いかがでしたか。

濵田:顧客の要求が高くなり、当社でも業務の難易度が増していく中で、ワーク・エンゲイジメントを高めることが重要だと考えています。ワーク・エンゲイジメントは、いろいろなものが積み重なった結果として表れるものだとは思いますが、経営者としては、会社の長期目標や社会貢献などを定めて、愚直に実行していくことだろうと思っています。その結果、会社の考えに賛同してくれる人が入社してくれたら良い方向に向かうのではないでしょうか。

―昨年の働きがい向上の取組の動機を教えてください。

松村:働き方改革としてマイナスをゼロにすることに行き詰まっていました。働きやすさは改善されているが、果たしてそれで良いのか、また、2028年の経営目標に向けてこのままではいけないと思っていたところに、広島県働きがい向上企業コンサルティング事業の案内が届き、申し込んだ次第です。

―改めてやらされる仕事と自発的な仕事の違いを教えてください。

島津:心理学では、モチベーションや動機づけに関して、ご褒美(または罰)があるからやる(またはやらない)ということを、外発的動機づけと呼びます。新しいことを始めるときには有効かもしれませんが、習慣化するころには、怖い人が見ているときだけ仕事をするというようなことになりかねません。
それを防ぐためには、仕事自体の価値を見出す必要があります。その点で、株式会社ハマダでは動画を作って「モノ」「ナカマ」「カイシャ」を紹介したとありましたが、自分がなぜこの仕事をするのか再認識できたため、内発的動機づけを高める大きなポイントになったのだろうと感じました。

―「自分の力で成果を勝ちとることが仕事の醍醐味で、それが働きがいである」という強い考えをもっている理由を教えて下さい。

濵田:目標を持って結果を出すことが仕事の醍醐味だと考えていますが、そのベースは、お互いに尊重し合う良好な人間関係だと思っています。仕事はうまくいくこともいかないこともありますが、その結果にこだわらず、過程を大事にしたい。目標を持って過程を踏んだ失敗に対しては、心からエールを贈れる組織でありたいです。

島津:結果に対する評価は、実は軸が定まっていなかったりしますので、「仲間」を一番大きな基盤として考えていることがすごく大事で、ハマダさんの強みだと感じました。

―コロナ禍において従業員の心理的変化を感じましたか。

松村:当社も一定期間休業せざるを得なかったのですが、社員は担当する業務により、休みが続く人と出社する人とが混在することになり、この不公平から不平不満がたまっていました。モノづくりはテレワークができないという点でも、不公平感が生まれています。

島津:コロナ禍により、様々な格差が顕在化しやすくなっていて、休める人と休めない人、テレワークができる人とできない人など、溝が深まっています。そこで大切なのは他者視点や共感性です。皆さん自分のことで精一杯かもしれませんが、例えば隣の席の人がどんな生活をしているのか、テレワークをしている社員がどんな気持ちなのか、ちょっと思いを馳せることで少しでも溝が埋まるのではないでしょうか。

―働きがい向上の取組として、評価制度の改革、スペシャリストコースの創設により、経営者として期待することは何でしょうか。

濵田:いろいろな分野の人材を育成し、今まで成し得なかった、難しい課題を解決することです。そのために人間関係もワーク・エンゲイジメントも高める、そのようなサイクルを回していきたいと思っています。

島津:同じような人がいては、会社としては変化に対応できなくなってしまいます。逆にいろいろなタイプの人を育てるのは忍耐力や柔軟な対応力が必要です。一人一人の強みを引き出すには、サポート型のリーダーシップが大事だと思います。そして、濵田社長が再三繰り返されている人間関係の構築のために、1on1ならぬ3人1組の総当たり面談はおもしろい取組だなと思いました。

松村:1on1では会話に詰まることもあるので、プロジェクトメンバーを入れた形をとったのが3人1組の総当たり面談です。コロナ禍で中断していた時期もありましたが、それまで話したこともなかった社員同士が共通の趣味を見つけて、昼休みにも話すようになった例もあり、効果を感じています。

島津:職場の孤立や孤独が問題になっていますが、孤独感の低減のためには、上司と部下だけでなく、部下と部下がどうつながっているかが大切です。その点で総当たり面談が大きな役割を果たしたのだと感じました。

―プロジェクトの中で、「モノ」「ナカマ」「カイシャ」を紹介する動画を作られました。

島津:生の声を伝えることはとても大事です。誰がどのように作ったのかも関心があります。

松村:会社全体の風土づくりプロジェクトのメンバーである情報システム課の社員が撮影・編集しました。

島津:社員が作ったのもポイントですね。自ら作り上げていくプロセス自体がプロジェクトメンバーのエンゲイジメントにつながって、それが他の社員にも伝わったのだろうと思います。

―働きがい向上の経営メリットはどこにあると思いますか。

濵田:仕事の結果を生むためのワーク・エンゲイジメント、ワーク・エンゲイジメントがあるから仕事が楽しくて結果にもつながり、人材育成にもつながるということだと思います。仕事というのは楽をさせるだけでなく、適切な負荷をかけることで達成感を得ることができますし、そのためには健康面の配慮も必要です。

島津:おっしゃるとおりで、張り合いがないと成長につながりません。働きにくさを取り除きつつも、張り合いを提供していく良い循環が大切だなと感じました。

藤原:まとめです。ハマダさんの働きがい向上の取組を振り返ると、「ハード面」(制度づくり)、「ソフト面」(効果的なマネジメント)、「ハート面」(企業文化の醸成)の3つの区分をもとに、これまでの「作業者」から「職人」を目指す自律型集団へと意識変化させ、仕事の「誇り」を高め、対話機会を促進し組織全体の「連帯感」を醸成。評価制度の見直しや経営者メッセージの動画配信で組織に対する「信頼感」を高めました。これらの取組を発展させるための次のステップをどのようにお考えですか?

松村:取組を継続していくことはもちろん、全員が同じ情報を共有し、同じ気持ちで取り組むことを目指していきたいと思っています。

島津:ハマダさんの場合は、持っている強みは4つあると思います。流行りをあてはまるのではなく、現場の課題に基づいた活きた対策を考案されていること、それを上手く理論に当てはめていること、できることから始めていること、効果の評価を定性的・定量的に拾っていること。この4つの強みを今後も伸ばしていただけたらと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?