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農業で温室効果ガスを削減~「Rev0」2年目の登録

近年世界的に関心が高まっている地球環境問題。中でももっとも注目を集めているのがCO2を筆頭とする温室効果ガスの削減だ。農家の立場からその課題を解決する、しかもそれによって農家の収入を増やす? 広島の山間部から新しい経済が動き出す。


J-クレジット制度への
正式登録を果たす


昨年「Hiroshima FOOD BATON」に採用された「株式会社Rev0」の取り組み「Fair-Farm Credit(フェアファームクレジット)」は理解するのに少し時間がかかる。まず、下の図を見てほしい。

J-クレジットは「作る人」と「使う人」の間で売買される

この取り組みのベースにあるのは2013年度から経済産業省・環境省・農林水産省が運営をはじめた「J-クレジット制度」だ。これは温室効果ガスの排出削減量・吸収量を国がクレジットとして認証する制度。これによって、大企業や地方自治体など「温室効果ガス削減を推進したい人たち」が、太陽光発電の導入や森林の管理などで「温室効果ガスを削減した人たち」から、J-クレジットという形で削減量を購入できるようになった。  

安芸高田市高宮で農業を営む「株式会社ハラダファーム本多」代表の本多正樹(ほんだ・まさき)さんはこの制度に着目。さらに、稲作の過程では一定期間水田の水を抜き、土壌を乾かす「中干し」という工程があるが、この中干しの期間を1週間延長することで温室効果ガスの排出が抑制できるという情報をキャッチした。

本多さんが経営するハラダファーム本多は安芸高田市高宮にある

これを用いればJ-クレジットの活用で農家の収入が増し、農家の減少が食い止められるのではないか? さらに自然環境が守れるのならいいことづくめではないか?……本多さんはFair-Farm Creditを実現するためFOOD BATONの門を叩き、この取り組みに興味のある農家と共に「Net-Zero Farmers」を設立した、というのがこれまでのいきさつである。

Net-Zero Farmers=脱炭素を推進する農家の集団

2年目を迎えたFair-Farm Creditプロジェクトに、ひとつの大きなニュースが届いた。今年8月、株式会社Rev0の取り組みがJ-クレジット制度認証委員会に正式登録されたのだ。水稲栽培における中干し延長を通じたJ-クレジットの登録は広島県で初の事例となる。

これでやっと僕らの活動が社会的に認められた感じはありますね。これまでFair-Farm Creditの取り組みを説明しても多くの人はJ-クレジット制度を知らないし、不安もあったと思うんです。でも正式登録されたことで国の運営するホームページに会社名が掲載された。外的な認証をもらったことで、Rev0として次のステップに進んでいける気がします

正式登録されたことでRev0の名がHPに記された

 今回の正式登録に次いで、2025年1月ごろには委員会のモニタリング認証を受ける。それを経て、Rev0はいよいよJ-クレジットの販売をスタートさせることになる。

NHKの全国ニュースや
地元新聞で取り上げられる


少し考えれば想像つくが、このプロジェクトを進める上で最大のネックとなるのは「J-クレジットとは何なのか?」を理解してもらうことであり、「それを信用していいのか?」という関係者たちの不安を払拭することにある。今回のJ-クレジット正式登録はいわば国のお墨付きをもらえたということで、今後事業を展開していく上で大きな助けになるに違いない。

そうした朗報以外にも、半年ぶりに取材するRev0にはさまざまな変化があった。 

これまでは僕1人でやってましたが、2人の仲間が加わりました。田島牧場を運営している田島あゆみさんにはJ-クレジット登録の手続きなどを担ってもらい、元JA職員の出張一樹さんにはNet-Zero Farmersに参加する農家に赴いて、技術指導をしてもらってます。1人の力では限界があるので、今は2人に助けてもらいながら進んでるところですね

HPに掲載された2人のプロフィール。新たな仲間が加わった

1馬力から3馬力へ。畜産農家である田島さんは「この話を聞いた時は中干しという単語も知らなかったし、内容もちんぷんかんぷんだった」と笑う。同じ農家でもこうなのだから、一般の人にFair-Farm Creditのことを理解してもらうのは至難の技のように思える。

田島さんが事務、出張さんが農家の現場を見てくれたことで、僕は営業に力を入れられるようになりました。Net-Zero Farmersが獲得したJ-クレジットを購入してくれる企業を探すんです。いくつかの企業さんとは話が進んでいて、「広島県で出た温室効果ガスは広島県でオフセットしていきましょう」という風潮は少しずつ広がってるように思います

Fair-Farm Creditを実現するには、冒頭の図でも示したように「J-クレジットを獲得したい人たち(農家)」と「J-クレジットを購入したい人たち(企業など)」、双方へのアプローチが必要になる。西日本で初めてJ-クレジットを扱うRev0の試みは地元新聞やNHKの全国ニュースでも取り上げられるなど、世間の認知も着実に広がっている。

NHKのニュースに取り上げられた本多さん

あとはそれをどのように活かして販売につなげていくかが今後の大きな課題でしょうね

本多さんのまなざしは来年1月以降に開始するJ-クレジットの本格販売に向けられている。

透明性をもって
取り組める環境を作る


本多さんがやらなければいけないのはクライアント開拓だけではない。中干しの延長によって、米の生育に影響は出ないのか? Net-Zero Farmersに参加する農家を増やすには、そこも証明しなければならない。

現在JA全農ひろしま、JAひろしま、広島県西部農業技術指導所さんたちと一緒に、適切な中干し開始タイミングの見極め調査を実施しています。種まきの時期を遅くしてみたり、中干し期間を伸ばしてみたり。そうした研究の中でベストな形を探っているところです。やはり農家は農産物を作ることが本業なので、J-クレジットを得るために収穫量が減ったという本末転倒は避けたくて。あくまで「水稲生産者ファースト」で農家さんに寄り添っていきたいと思います

Net-Zero Farmersのメンバーたち。新しい挑戦に燃えている
こちらもメンバーの世羅の「(株)恵」さん
庄原の「農業組合法人 殿垣内」さんもメンバーに名を連ねる

農家の心情に寄り添いながら、それと同時に不正防止の対策も進める。

Net-Zero Farmersの参加農家には水位センサーの設置を奨励してて。水位センサーが付いていればちゃんと中干しされているかどうか、データでチェックできるんです。不正があった場合、会社の信用にかかわりますからね。参加してくださる農家さんには「透明性をもって取り組んでいける環境を作りましょう」とお伝えしています

水位センサーを設置することで中干しを行っていることが証明できる

新しいビジネスには新しいシステムの構築が不可欠だ。これまでの農家から環境対応型で利益も得られるシン・農家へ。日々手探りしながら、Rev0とNet-Zero Farmers、広島の農業関係者たちの協業は続いている。

農業を身近に感じられる
環境を作っていきたい

 
令和6年度、Net-Zero Farmersに参加するのは広島県内の10の農業経営体。計307haで1,382万円のJ-クレジット創出を見込んでいる。

初めての取引が成立して、「実際にお金がもらえた」「米の生育にも影響が出なかった」という事実が伝われば、Net-Zero Farmersに参加する農家や、僕たちのJ-クレジットを購入してくれる企業は自然に増えていくと思うんです。まずは今年のJ-クレジットを売り切って、農家さんからのフィードバックを反映させて、来年はさらにFair-Farm Creditに関わる人の輪を広げていきたいと思います

Net-Zero Farmersのミーティング。農家のファーストペンギンとなる

いったん「1週間中干しをすれば収入が得られる」という事実が作れれば、あとは雪崩を打ってFair-Farm Creditは広がっていくはず。Rev0はまさにファーストペンギンとして、結果が伴う2年目の海に飛び込もうとしている。

僕らが得たJ-クレジットを広島県の企業さんに販売することで、都市部の人たちにもっと広島の農業を知ってもらい、応援してもらいたいんです。J-クレジットの売買で接点を持った後は、たとえば田植え体験や稲刈り体験をしたりして。里山に来て農業に触れることで、食育も含めて地球環境のことを考えるきっかけになればいいなと思うんです

広島県の7割は中山間地域で、都市部からちょっと車で走れば田舎に行けるじゃないですか。近隣の宿泊施設なども巻き込みつつ、農業をもっと身近に感じてもらえる環境を作っていきたいと思います

青空と黄金色の稲穂のコントラストが美しい、高宮の秋

この文章をここまで読んでくれた人は、そのついでに「安芸高田市高宮」がどこにあるか検索してほしい。多くの人がまだ行ったことのない山間の小さな町には美しい田園風景が広がっていて、そこでは時代の先端を行く新しい挑戦がはじまっている。

広島で獲れた最初のJ-クレジットはどのような成果を見せるのか。Fair-Farm Credit、初めての「収穫」はどんな味がするのだろう。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて


冒頭にも書いたように、J-クレジットとは何かを伝えることは非常に難しいことです。それはここに現在の環境問題や、それに付随するGX(グリーン・トランスフォーメーション)といった経済トレンドが密接に絡みついているから。さらにFair-Farm Creditについては「中干し」という稲作の工程まで関係してきます。なんて複雑なんでしょう!

しかし逆に考えれば、J-クレジットという制度が普及すれば農業や地球環境に対する理解はおのずと深まるということ。Rev0がやろうとしていることは実はものすごく壮大なことなんじゃないでしょうか? (文・清水浩司)