「ウェルビーイング野菜」で広島農家の希望になる~「さいねい農園」の使命
さいねい龍二――広島でその顔と名前を知らない人はいない有名タレントである彼は、近年「さいねい農園」を営む農業従事者としても活動している。そんな彼が今年度「ウェルビーイング野菜プロジェクト」で「Hiroshima FOOD BATON」に採択された。かつての特撮ヒーローは今、農のヒーローに変身しようとしている。
良い野菜であることを
伝えるための指標が必要
さいねい龍二さんは2004年放送のスーパー戦隊シリーズ『特捜戦隊デカレンジャー』のデカレッド役で一躍スターダムに登り詰めた。2015年には故郷の広島に戻り、テレビやラジオを中心に活躍。現在は実家の「さいねい農園」を手伝いながら「半農半芸」の生活を続けている。
そんな彼が今回FOOD BATONにエントリー。「ウェルビーイング野菜プロジェクト」という企画をスタートさせた。
さいねいさんがアクションを起こしたきっかけは、広島に帰って目の当たりにした地元農家の窮状だった。狭い耕作地でも利益を上げられるようにするにはどうしたらいいだろう? 収入が増えれば若い人も農業に夢を見られるようになるのではないか?……そんな中で出てきたのが「栽培する野菜のブランド化」というアイデアだった。
ウェルビーイングとは「心身ともに健康で、社会的、経済的に良好な状態にあること」。エシカル消費は「買い物をする際に、社会や地球環境を配慮して購入物を選択すること」。どちらも近年、さまざまな業界で語られている消費トレンドである。
野菜に含まれる
硝酸態窒素に着目
誠実に野菜作りと向き合っている農家が報われるには、彼らの努力を証明するモノサシがなければならない。そこでさいねいさんが目を付けたのが、野菜に含まれる「硝酸態窒素(または硝酸イオン)」という成分だった。
硝酸態窒素は肥料として使用されているが、マイナスの影響も指摘されている。野菜に付いて人体に吸収されたり、土壌に吸収されにくいため川や海へと流れ出したり。さいねいさんは野菜に含まれるこの硝酸態窒素の量を測定することで、他と差別化できないか考えた。
客観的なエビデンスに根差した指標を設けることで、消費者は安心して野菜を選ぶことができるし、エシカルな意識で農業に取り組んでいる生産者は高い対価を得ることができる。ウェルビーイング野菜プロジェクトは売り手にも買い手にもメリットのあるシステムだと言えるだろう。
これまで致命的な欠点だと思ってきた平野部の少なさが、むしろ長所に反転するという面白さ。
実際、さいねい農園のキャベツやトマトで硝酸態窒素を測定したところ、数値が低いどころか「含有量が少なすぎて計測不能」という結果が出た。
まさに意義と手応えは自分のところで証明済というわけだ。
農業の魅力を伝える活動は
自分の人生のノルマかも
ウェルビーイング野菜の仕組みは設計できた。次のステップは、それを多くの農家に知ってもらい、プロジェクトに参加してもらうことになる。
だがこれが難しい。「硝酸態窒素って何?」「それを測ってどうするの?」「ウェルビーイングって何?」……これらを農家の人にわかってもらわなければならないし、消費者の人にもシールの意味を理解してもらわなければならない。
仕組みの構築と共に進めていかなければならないのは、告知・宣伝という作業だ。これに関しては、メディアで活躍するさいねいさんは適役なのではないだろうか?
広島の若手農家の顔となり、スポークスマンを務める覚悟。さいねいさんはあえて農の旗振り役を買って出ようとしている。
現在さいねいさんはRCCラジオで自身の農業ライフを伝える「さいねいレストラン」という番組をやったり、さいねい農園で収穫体験会を開催したりしている。今後は農の伝道者としてのさらなる活躍も期待される。
理想に踏み出す
きっかけを与えてくれた
一方のさいねいさんにとっても、FOOD BATONとの出会いは大きかったようだ。
ウェルビーイング野菜プロジェクトはまず今年、マーケティングチームやデザインチーム、実行部隊などのチームビルディングを進めていく。そして来年には広島県内のスーパーで展開、3年目は日本全国に展開というロードマップを描く。
43歳になったデカレッドは今、故郷の土にまみれながら新たなる戦いの場に立とうとしていた。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
さいねいさん、ヒーローっていうイメージはありましたが、今回はビジネスマンの顔。リモートという状況でもいちいち的確なコメント、理路整然とした語り口。本当にプロフェッショナルで撮れ高十分の取材となりました。
内容に関しては、ウェルビーイング野菜プロジェクトはもちろん、さいねいさんが「広島野菜の伝道師」の役割を自覚的に引き受けようとしていた姿が印象的でした。めちゃくちゃ大人。ちなみにさいねい農園は世羅にあって、ご本人がアテンドする食育教室なども開催してます! (文・清水浩司)