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農家発の調味料をプロデュース~オタフクソースの共創

広島を代表する食品メーカー・オタフクソースが「Hiroshima FOOD BATON」に参加。これまで培ってきた調味料製造のノウハウを活かして、地域の農産物を原料にした調味料の開発・販売を総合的にプロデュースする。地域との共創に乗り出したオタフクソースの真意に迫る。


調味料製造のノウハウを
地元産農作物に活かす


令和6(2024)年のHiroshima FOOD BATONにオタフクソースが採用された。提案した「地域共創ハレノベジプロジェクト」を担当するのは共創本部・共創室室長の栗田翼(くりた・つばさ)さんと、同じく共創室に所属する小針一風(こばり・いっぷう)さん。まずはこのプロジェクトがどういうものか教えてもらった。

オタフクソース共創本部・共創室の室長を務める栗田さん
同じく共創室に所属する小針さん

このプロジェクトは地域の生産者の方々と食を通じた共創を行うもの。我々には調味料を含めた知見がありますので、それを活かして加工品のプロデュース・企画・販売までご一緒するという内容です。地域にはすぐれた野菜や果物を作っておられる生産者の方がたくさんいますが、一農家でできることには限界があります。我々がサポートすることで、そうした方々の認知度や知名度を上げて、農作物の生産量の向上やブランド化に結び付けられればと思いました

栗田さん

プロジェクトの構造はシンプルだ。調味料の開発・製造・販売のノウハウを持つオタフクソースが、地元農家と組んで調味料をプロデュース。それをたとえば「○○農園のトマトソース」「××ファームのオニオンドレッシング」といった商品にして売り出すことで、農家は自社ブランドを展開できるし、これまで廃棄されていた規格外野菜も活用でき、食品ロスの削減にもつながるというわけだ。

旬の生の野菜を使うことで、野菜の自然の甘さを活かした調味料の開発に繋がる

そもそもオタフクソースと農家というのは、これまで接点があったのだろうか?

ソース製品はピューレ状になった原料を加工して作ることが多いので、直接農家さんと取り引きすることはほぼありません。ただ社内には世界で唯一「お好み焼課」という部署があって、お好み焼の研修や研究をしているので、そこではキャベツやネギといった具材を農家さんから仕入れています

栗田さん

ソース製造という部分で直接取り引きすることはないが、引いて見れば同じ食というフィールド。1次産業(生産者=農家)と2次産業(加工業者=オタフクソース)が手を組んで6次産業のシナジーを追求するというのは自然ななりゆきのように見える。

中期経営計画のテーマが
「食の未来を共創」


今回オタフクソースがこうした取り組みに乗り出したのは、会社としての流れがある。実は栗田さんと小針さんが所属する共創本部・共創室ができたのはこの10月。過去2年間は共創課という部署で活動していた。

会社としても10月に発表した中期経営計画では「食の未来を共創」をテーマに掲げています。外部パートナーの方々と一緒に新しい価値を生み出すことを推進するため、このたび本部制を敷くことになりました。さらに私たちが属する共創室は予算感やスピード感で柔軟に動ける体制が作られています

栗田さん
子どもたちと手作りソース体験を行い、手作りソースの可能性を検証した

会社として重要なテーマに位置付ける「共創」という意識。近年オタフクソースはベクトルを外に向け、積極的に他企業との交流を進めているが、その先鋒隊となるのが共創室である。栗田さんと小針さんは共創課が誕生した2年前から、具体的にどのような形で共創活動を行うか模索していた。今回の地域共創ハレノベジプロジェクトも原型はその時にできたものだ。

昨年、東広島市の地元生産者さんと一緒に、地域に愛される商品づくりを行いました。それも今回と同じで、地元農家さんの作られる農産物と私たちが得意とする調味料を組み合わせて何か作れないかという企画です。その時に農家さんの実情を知ることもできました

小針さん

2023年7月から東広島の農業事業者4社と共創による調味料開発をスタート。「株式会社アグライズ」のトマトを使った「揚げ物に革命がおこるトマトミックスソース」「自然農園ALLGREEN」のケールを使った「瀬戸内ケール GREEN SAUCE」「株式会社ねぎらいふぁーむ」のサムライねぎを使った「サムライねぎどっさり醤油だれ」などをオタフクソースの設備を用いて製造した。

調味料も一緒に売ることで原料の野菜のブランド力を高める
調味料は加工品なため保存期間が長く、贈答用など活用法が広がる

共創で作った商品を西条中央公園で行われた「はいびずマルシェ2023」で販売したら、その日のうちに完売した商品もありました。さらに生活者のみなさんにヒアリングしたところ「ここでしか買えないものや農家さんの顔が見える商品は魅力的」という声も得られました。「これはビジネスになるかもしれない」という手応えを得て、今回は事業化の道を探るべくFOOD BATONに応募させていただきました

栗田さん
2023年10月に行われた「はいびずマルシェ」の様子

オタフクソースでは、まず社内に共創というコンセプトが生まれ、東広島での実証実験でポジティブな反応を獲得。それを受けて、さらに多様な食材で展開し、商品のロット数を増やして収益化、いずれはマーケットを全国規模まで拡大――そうした未来のための布石となるのが今回の地域共創ハレノベジプロジェクトになる。

小ロット多品種で
商品開発を進めていく


ではオタフクソースはFOOD BATONの3年間でこのプロジェクトをどのように発展させていこうと考えているのだろう。

まず初年度となる今年は5事業者と5商品を作れたらいいなと考えています。販売先は東広島の時と同様、マルシェや道の駅を想定しています。来年は商品数を拡大し、販売に関してもギフト品としてのブランドを確立。最終年には小ロット多品種で商品を作って、毎月何十種類も出る状態にしたいです。その過程でOEM先や委託先など製造の規模拡大も進め、好評だった商品は中ロットや大ロットに引き上げていくことも予定しています

栗田さん
まずは小ロットで展開するが、人気となった商品は生産規模拡大も視野に入れる

オタフクソースがやろうとしているのは、地元農家と組んで「商品の卵」を発掘し続けることだろう。まずはデビューのハードルを下げて徹底的にトライする。その中でキラリと光る原石があれば、それを磨いたり広いステージを用意するなどして注力商品として育てていく。彼らが目指すのは、地元農家発の「スター調味料誕生」。それはとても夢のある話のように思える。

農家の事業者さんは新規に就農される方もたくさんいます。みなさんチャレンジ精神も旺盛ですし、一緒に共創することでどちらにとってもいいプロジェクトになると思います

農産物の旬は一瞬だけど、それを調味料という形にすることで長期間販売できます。そうすると農作物の収量を増やせるし、収益の安定化にもつながるかもしれません。最終的にはこのプロジェクトによって「農業って面白いな」「農家やってみたいな」と思ってくれる人が増えればいいと思います

栗田さん

僕自身今回のプロジェクトをきっかけに農家の方々と接する機会が増えて。今は収穫体験など、もっと農作業に関わってみたいと思っています。我々の調味料開発も今後、消費者に対してそういう要素までパッケージできれば理想的です。参加型として一般消費者も巻き込んでいけたら、農のファンを増やすことにつながるんじゃないかと思います

小針さん
このプロジェクトをきっかけに小針さん自身、農に触れる機会が増えた

お好み焼きも間口が広くて
何を入れてもおいしく仕上がる


栗田さんたちは将来のビジョンについてもイメージを馳せている。地場の農家と組んで小ロットの調味料を製造する手法は広島以外でも通用する。いずれはこのプロジェクトを全国に拡大して、各地域の活性化に貢献するという青写真を描く。

いま私たちがメインで扱ってるお好み焼きも間口が広くて、何を入れてもおいしく仕上がる料理です。イノベーションという言葉は「新結合」とも訳され、いろいろな価値や考え方が加わることでシナジーが生まれると期待します

あとお好み焼きは、広島だけでも府中焼きとか三原焼きとか地域によってさまざまな特色があります。そう考えると、地域ならではの食材を活用し、その土地独自の食を創る風土はこの会社に昔からありました。今はそれをオープンにして、メッセージとして積極的に発信しています

栗田さん
東広島でのワークショップの様子。すべてを共創で進めていく

なるほど、確かにお好みのものを何でも取り込んで最終的においしいものに仕上げる手腕は、一銭洋食の時代からオタフクソースの十八番に違いない。

調味料という形で手軽に流通できるようにすることで、素材である農産品の味を多くの人に味わってほしいと思います。気になった生産者の方はぜひオタフクソース共創室までご連絡ください!

小針さん
新しい農家さんの参加は大歓迎とのこと!

農家さんには農業に対する強みがあり、私たちは調味料という加工品に強みがあります。その強みを掛け合わせることで、より良いものが生まれてくると思います。少しでも興味があるとか自分のところで獲れた農作物を知ってほしいという事業者さんがいたら、気軽にお声掛けいただければと思います

栗田さん

オタクフソース共創室はいつでもウェルカム、オープンイノベーション大歓迎だ。新たな食材をベースにどんな「お好み調味料」ができるのか? 私たちがまだ見たことのない新星が、ここから飛び出すかもしれない。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて


お2人と話しながら思ったのは、ちょっとヘンですが「まるで地元産アイドルグループを作るみたいだな」ということ。まだ誰も知らない原石を見つけて、それを磨き、商品として世に出して行く。まずは地元のお客さん相手からスタート。もしも好評ならピンで全国展開したりメジャーデビューのチャンスあり!――みたいな。その全体のフォーマットが地域共創ハレノベジプロジェクトってことなんでしょうね。どんなスターが生まれるか、楽しみにしています! (文・清水浩司)