広島県総カレー化計画~「MOTTAINAI BATON」の寛容
日本の国民食と言えるカレー。そのカレーに目を付けたスタートアップがいる。カレーはSDGs? カレーは農家を救う? カレーこそダイバーシティ? カレーは最高の愛されフード? とにかくすごいカレーの大波が只今広島を席巻中。広島県総カレー化計画の実態に迫る!
もったいない食品ロスを
カレー化で解決する
令和5年度Hiroshima FOOD BATONに採択された「MOTTAINAI BATON株式会社」の目取眞興明(めどるま・こうめい)さんは、名前から想像つくように沖縄出身。どこかおっとりしていて「なんくるないさ~」と何でも受け入れそうな雰囲気がある。実際事業スタートのいきさつを聞いてみると、それを実感させられる。
目取眞さんはもともと食べることが大好き。農業系ベンチャーで働いていた時、ノリで「レトルトカレー100個食べる!」と宣言してしまう。飲み会で新年の誓いの話をしていたら、なんとなく言ってしまったのだ。
ということでこつこつレトルトカレーを食べはじめた目取眞さん。食べてはSNSにアップ、食べてはSNSにアップを繰り返しているうちに、いつの間にか「目取眞=カレーの人」というイメージが定着。次第におすすめのカレーを訊かれる機会が増えていく。
一方、目取眞さんはフードロスにも関心を抱いていた。幼い頃、父が病気になった時期、家の食卓を支えてくれたのが規格外野菜やスーパーの見切り品だった。やがて食品ロスに関心を持ってもらうイベント「もったいないまつり」を開始。当初は趣味の一環としてやっていたが忙しくなり、会社を辞めることに。しかし運悪くコロナによってイベントができなくなってしまう。これは困った……というところからECサイトを立ち上げたのが、今のMOTTAINAI BATONの原型になる。
最初はECサイトを作り、自分が気に入ったレトルトカレーを販売するところからスタートした。ただ、もったいないまつりをやっている時から将来的にはカレーを作りたいという夢があった。それで製造メーカーに電話して交渉……なんかカレー並みに懐が深いというか、風のように生きている人である。
いつの間にか趣味のカレーと興味のフードロスが合体。しかしたまたまの組み合わせが予期せぬ旨味を生み出してしまうのが、カレーのカレーたるゆえんである。
そして2021年、「もったいない食材のカレー化で食品ロスを解消する」をミッションにMOTTAINAI BATON株式会社の設立に至る。
RING HIROSHIMAでは
4種類のカレーを製作
会社設立後、目取眞さんが進めたのは日本各地の自治体とのコラボだった。日本全国には知られてないロス食材が数多く眠っている。それを掘り起こすと共に、レトルトカレー化してご当地商品にすることで地域振興を進めようというのだ。
ちなみにこれまで作ったカレーはノベルティ等も含め約30商品。2022年にはひろしまサンドボックス「RING HIROSHIMA」事業に採択される。
採択を機に来広した目取眞さんは、広島県内を車で走り回り精力的に生産者と面会を行った。そしてできあがったのが、バラエティ豊かな食材が入った「広島横断カレー」、廃棄予定だった菊芋を使った「菊芋カレー」、害魚のチヌを使った「チヌカレー」、福山市の沼南高校とコラボした「沼南高校ぶどうカレー」。菊芋やチヌはともかく、ぶどうまで取り込んでしまうとはカレーの懐の深さを感じずにはいられない。
この取り組みの中で、MOTTAINAI BATONにとってターニングポイントになる出来事があった。福山の沼南高校とのコラボである。
そんなRING HIROSHIMAで培った土台の上に、今回のFOOD BATONは上積みされることになったわけである。
いつか広島を
ご当地カレーのまちに
ではRING HIROSHIMAからFOOD BATONへの変化を、目取眞さんはどう捉えているのだろう?
現在の取り組みをよりビジネス的に育てていくこと。今回の採択にあたり、MOTTAINAI BATONは3年間で5,500万円の売上、3年後には農業経営体に1,350万円の売上をもたらすことを目標に掲げた。
今は最初の1年間が終了した状態だが、成果としては5種類の新作レトルトカレーが完成した。
FOOD BATON同期の「KURU KURU」に紹介してもらった向原高校とのコラボで作ったチンゲン菜と青ネギ入り「クリーミーなチキンカレー」、広島産のほうれん草を材料に東京の国分寺高校の生徒と作ったアメリカナマズ入り「チャネルキャットフィッシュカレー」、大崎上島のオリーブ滓を粉末化したものと牡蠣を合わせたグリーンカレー……。
知られざる地元食材あり、広島の食材を東京の高校生がプロデュースする試みあり……と目取眞さんのアイデアは尽きることがない。改めてカレーの奥深さにも驚かされる。
まさに広島県総カレー化計画! 気が付けば手に入る食材すべてがカレー化しているこの状態は一体何だろう?
カレー化社会の実現に
向けて頑張りましょう!
目取眞さん、今後についてはカレー以外のこともやっていきたいと話す。
とはいえ中心にあるのは、やはりカレーだ。
カレーについて語り出すと、いつまでもおかわりが止まらない。最後、読者に対するメッセージも実にカレーに決めてくれた。
さまざまな異物を受け入れ、それを旨味に変えていくカレーの魔力。寛容と多様性が叫ばれる今の時代、カレーこそ世界平和のシンボルと言っても過言ではないのではなかろうか? いや、過言かも。カレー&ピース。最後もうまいこと広島に着地した!
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
正直最初は「なんでもカレーにする? それってそんなにすごいかね?」と懐疑的な気持ちでしたが、目取眞さんの話を聞いて目からカレーが落ちました。カレーすごい! カレーこそ平和の使者!――そのなんでも取り込める包容力はワールドワイドな魅力ですね。
それにカレーってどんな作り方をしても、そこそこ美味しくできません? 寝かせれば寝かせるほど旨味が増す、刺激と調和のグラデーション。ああ、どうしてカレーについてはこんなに楽しく書けるのか。私ももうカレー沼にはまっているのか? それってスープカレーなのか?(文・清水浩司)