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「置きカレー」で販路を切り拓く~「MOTTAINAI BATON」2年目の挑戦

日本各地の食品ロスを「ご当地レトルトカレー」を作ることで解消しようと活動する「MOTTAINAI BATON」。「Hiroshima FOOD BATON」2年目となった今年注力したのは販路の開拓だった。その中で新たに開発した販売形態「置きカレー」とは?


オフィスで手軽に
温かいカレーが心を満たす


雨が降って会社の外に出たくない日、仕事が立て込んでいて外食する時間がない日でも、心身のエネルギーチャージに食事は欠かせない。そんな時に「置きカレー」が活躍する。

MOTTAINAI BATTONのカレーを多くの人に食べてもらうためにはどうしたらいいか? 2023年度の「Hiroshima FOOD BATON」に採用されて2年目の今年、力を入れたのは「置きカレー」という販売形態だ。取引企業のオフィスの一角にレトルトカレーの無人販売所を設置する。地元のもったいない食材で作られたカレーなど数種類の中から好きなカレーを選んで、電子レンジなどで温めて気軽に食べることができる。ほとんどのカレーがパックご飯と皿、スプーンが付いてワンコインと財布に優しい。支払いは電子決済でスムーズだ。

2年前から広島で活動
食育教育にも乗り出す


その名の通り、もったいないロス食品を「カレー化」によって減らすことを目指す「MOTTAINAI BATON株式会社」。令和5年度のHiroshima FOOD BATONに採用され、2年目を迎えた。これまで2,000食以上のレトルトカレーを食べ、レトルトカレー研究家でもある代表・目取眞興明(めどるま・こうめい)さんは事業の概要をこう説明する。


MOTTAINAI BATON代表の目取眞さん。Tシャツの似顔絵が似てる!

弊社はいわゆる「もったいない」と言われるような、食品ロスで捨てられる食材だったり、地域で眠ってる食材を活用してカレーを作る会社です。広島とは2022年の「RING HIROSHIMA」に採用されたところからお付き合いがはじまり、その時は廃棄予定だった菊芋を具材にした「菊芋カレー」、害魚のチヌを使った「チヌカレー」など4種類のレトルトカレーを作りました

「RING HIROSHIMA」で作った4種類のカレー 

中でも「沼南高校ぶどうカレー」は福山市にある沼南高校の生徒たちとコラボレーションした力作です。地域の食材を使って地域の魅力を再発見するご当地カレーの開発は、学校教育とも相性がいいことに気づいたんです。沼南高校には農業を学ぶコースがあって、そこでぶどうを作っていたので、それを具材に生徒たちとレトルトカレーを作り、パッケージ制作や販売まで一緒に手掛けました

こうした活動を経て翌2023年にはFOOD BATONに採用。安芸高田市にある向原高校と共同開発したチンゲンサイと青ネギ入りの「クリーミーなチキンカレー」、ほうれん草、小松菜を使用したカレーなど5種類のレトルトカレーが新たに誕生した。

いかに知ってもらい
販売数を稼げるか?

 
ではFOOD BATONで1年間活動して、どのような成果が出たのだろう?

まず開発商品数の目標は達成できました。すでに12~3案件は完成していて、年度末の3月末までには約20商品を発売できると思います。その内訳は学校と共同で作ったものが8案件、生産者と連携してできたものが8案件、残りは企業のノベルティとして製作しました。今回広島県を回って、改めてロス食品を作ってカレーを作りたいというニーズは一定数あることを確信しましたね。作ろうと思ったらいくらでも作れるという手応えを感じました

年間20商品というのはすごい数だ。しかも作ろうと思ったらいくらでも作れるという。裏を返せば、それだけ未活用だったり廃棄されているもったいない食材が存在するということだ。

ただ、順調に開発が進む一方、苦戦を強いられている部分もある。

商品はいくらでも開発できるんですが、やはり飲食は規模の経済を働かせないとビジネス的に難しい部分があって。今はいかにこのプロジェクトを知ってもらって販売数を稼げるかということが大切だと考えてます。特にFOOD BATONは稼ぐ力の向上が求められるので、今はその解決策を探してる状態です

開発は順調。次の問題は「いかに売るか?」だ

作ることはできたが、いかに売るか? 彼らがぶつかったのは販路の開拓という問題だった。現状はネット販売が中心。MOTTAINAI BATONの商品はお店に卸そうとしても500~1,000円と大手メーカーのレトルトカレーと比較すると割高なため、何の説明もなく普通にスーパーに並べても売り上げを伸ばすのは難しいという。

そんな中、目取眞さんがひらめいたのが冒頭にも記した「置きカレー」という手法だった。「置き配」という言葉は最近聞くが、置きカレーとは何だろう?

気軽でお手頃な食事を
提供する「置きカレー」


置きカレーというのは、会社にうちのレトルトカレーの販売スペースを設置してもらうという手法です。職場にカレー、パックごはん、お皿やスプーンといったカトラリーを置かせてもらって、従業員の方がレンジで温めて自由に食べられるっていう。今はランチが1,000円くらいして高いじゃないですか? うちのカレーやごはんをセットで500円程度で販売すると安く感じられるみたいです

発端は目取眞さんが借りていた東京のコワーキングスペースに商品を置かせてもらったこと。そこで「置き販売」を試したら月に20食近く売れた。スーパーに置かれたら高く感じるものでも、外食と比べたら断然安い。置き場所によって商品の見え方が変わるというのは発見だった。

置きカレーの様子。オフィスで簡単にカレーが食べられる

置きカレーは2024年6月から開始し、現在は東京や沖縄など10ヶ所程度で展開中。そのうち広島県内では民間企業など5ヶ所で導入され、評判は上々だという。

お客さんの満足度は高いです。特に深夜まで稼働してるようなオフィスや近くにコンビニがないようなところからは、ごはん問題が解消されて助かったという声もいただいてます。意外だったのは、そこで僕たちの取り組みを知って、「こういう会社があるみたい」とお土産に買ってくれることもあるみたいで。MOTTAINAI BATONのことを知ってもらうきっかけになってるところもあると思います

日持ちがして食べやすいというのはレトルト食品のメリットだ。また会社での食事は手持ちぶさたな時も多いもの。その時にMOTTAINAI BATONの取り組みを知って、ファンになってくれる人がいるというのも面白い。

いろんな種類があるので「次は何にしよう?」と考える楽しみも

今後、会社に置くカレーのラインナップもいろいろ試してみようと思います。たとえば「広島の会社だったら広島で作ったカレー」と地元の商品を置いてみたり、一方では「他の地域の珍しいカレーを食べてみたい」という声もあるので、沖縄で作ったカレーを広島に置いてみたり。飽きさせないようにメニューに変化を付けられるのも面白い点だと思います

一度「今日のお昼ご飯はMOTTANAI BATONのカレー」にハマったら、「今日はどこのカレーにしよう?」とバリエーションを楽しむ人が出てくるかもしれない。そうなればまさに「カレー沼」。目取眞さんの戦略通りだ。

現在は置きカレーの設置企業や施設を開拓中。全国で100ヶ所を目標に広げていくことを考えているという。

流通規模=広がりの大きさ
来年は結果を追求します!


さらに今期はご当地カレーの開発を使った食育教育にも進展が見られた。

これまで小、中、高校や大学で行ってきた食育教育を今年から幼稚園でもはじめました。プログラムの内容は幼稚園でも変わりません。地元の食材を知ってもらったり、食品ロスがどういうものか知ってもらったり。みんなで一緒にカレーを食べて、一緒にパッケージを考えることをしています

子どもたちもカレーは大好物。つくづくカレーがアプローチできる層は広いということを痛感させられる。

幼稚園での食育教育もスタートした

FOOD BATONの2年間を振り返って、目取眞さんは何を思うのだろう?

やってることは基本的に何も変わってないんです。ご当地カレーを作ることはできたので、次はそれを多くの方に届けるということ。広島だけじゃなく日本全国にMOTTAINAI BATONのことを知ってもらう機会が必要だと思ってます。それによってご当地カレーの流通量が増えて、広島産食材の良さがもっと広く伝われば。流通規模=広がりの大きさになると思うので、3年目となる来年はさらに結果を追求していきます

今後は活動を広く知ってもらうことが重要になる

MOTTAINAI BATONのビジネスはシードの段階が終わり、すでにスケールや収益化のフェイズに入っている。

置きカレーに関してはさまざまなアイデアが出ていて。たとえば買い物に出るのが大変なタワーマンションでエレベーター前に置いてもらえれば簡単に食事をとれますし、コンビニまで距離がある地方でもニーズはあると思うんです。地方の場合はそこに置くことで「じゃあ、うちの地域のカレーを作ろう!」という動きになるかもしれない。防災用備蓄品としても可能性はあると思うんです

信じるのはカレーが備える公共性と伝播力。目取眞さんの日本全国カレー化計画は今、新たなる局面を迎えている。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて


カレー好きが高じてカレーを作る側に回った目取眞さん。その楽しさを追求する視点は、これまでチヌカレーや沼南高校ぶどうカレーといった斬新な商品を生み出してきましたが、今回は置きカレー。これまでありそうでなかったニッチな業態に目を付けるセンスがスゴイです。

さらにスゴイのが、置きカレーというポップな名前。だって置きカレーって一回聞いたら忘れられないし、パッとイメージ湧きません? マンガ喫茶とかでも受けそう。気付いたらすぐ近くにご当地レトルトカレーが「置いてある」世界が迫っているのかも! (文・清水浩司)