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綿密なエリアリサーチから「地域文化資本」が見えてくる

quodの一連の活動で得た知見を活かして、地域の文化資本を研究・分析する「地域文化資本ラボ」。前回のnoteでは、なぜ「地域文化資本」が大切だと感じたかについて書かせてもらいました。

 今回は、その地域における「地域文化資本」の見極め方について、エリアリサーチの手法を中心に書いてみたいと思います。ぜひ参考にしてみてください。

地域の特性を活かした新たなリゾート

「地域文化資本」を見極めるためには綿密なエリアリサーチが必要だと前回のnoteに書いた。そこでまず、quodで取り組んでいる「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」の事例を紹介したい。
 
僕の祖父母は長野出身で、高校生の頃からたびたび白樺湖に足を運んでいた。そして白樺湖畔の一大スポット「池の平ホテル&リゾーツ」の現代表である矢島義拡さんと東大ラクロス部の先輩・後輩として出会ったのも、今思えば不思議な縁である。
 
矢島さんとは卒業後も交流が続き、それぞれの事業に活かすために、一緒にヨーロッパ視察ツアーへ赴いた。
 
その時に訪れたスイスの山岳リゾート・ツェルマットで強い衝撃を受けた。僕たち日本人がイメージする一般的なリゾートとはまるで違っていて、時間そのものを楽しむ豊かなムードに包まれていたのだ。
 
矢島さんと「こんな場所を日本にもつくりたいね」と盛り上がった。


その後、社員旅行も兼ねてquodチームで北欧へ視察に行き、北欧の湖と白樺湖が持つ空気感に通じるものを感じた。

 北欧と日本は、自然と人との関わり方や距離感が似ている。建築業界でも北欧のテイストと和の要素をミックスした「ジャパンディ」がここ数年のトレンドになっているし、きっとマインド的な近さもあるんだと思う。 

ただ、湖での過ごし方は全然違っていた。北欧ではみんな湖水浴をしたり、SUPをしたり、桟橋でまどろんだりして楽しんでいて、ツェルマットと同じように豊かな時間が流れている。当時、日本の湖でそんな風に過ごす発想は、全国的に見てもほぼなかったんじゃないかと思う。

 これを白樺湖で形にしたい。矢島さんと話した“こんな場所”の方向性がより定まった。 

そこから有志で本格的にプロジェクトを立ち上げ、白樺湖周辺を「高原レイクリゾート」としてリコンセプトし、地域の特性を活かした新たなリゾートをつくる取り組みを進めていった。

歴史と文化に紐付いたコンセプト

湖が目の前にあるんだから当たり前だと思われるかもしれないが、「高原レイクリゾート」のコンセプトが決まるまでには3年くらいかかった。
 
言葉が定まることはもちろん大事だけど、その中にしっかりイメージが詰まっていて、イメージごと共有されながら広がっていくことがコンセプトの本質だ。地域の歴史や文化に紐づいた合理性がなければ、どんなにキャッチーでも持続性がない。
 
そこでまずは世界のリゾートを片っ端からリサーチして、白樺湖の魅力を最大限に活かす方向性を探っていった。
 
水系のリゾートには川・海・湖のジャンルがあり、湖だけでも平地にあるものから険しい山にあるもの、森の中にあるものまでさまざまだ。その中で、白樺湖は静的で、包まれた空間にあり、森林と調和した湖に分類される。

さらに日本の中での白樺湖の位置付けを見てみると、そもそも湖があるのは47都道府県中33都道府県のみ。かつ白樺湖のように標高の高い場所にあって透明度も高いものとなると、全国でもかなり少数だ。
 
白樺湖は農業用のため池として1940年代に築かれた人造湖で、代々地域の人が大切に守り抜いてきた。人の手でつくられていながら、周囲の自然と調和している姿は、前回のnoteで触れた散居村の美しさにも通じる。
 
また白樺湖周辺は縄文時代に最も人口が多かった地域で、“縄文銀座”と称されるほど。遺跡も数多く発掘されている。
 
そんな風に地域の特徴を深掘りしていくと、全国でも希少な高原にある湖で、昔から人々の生活の起点となる要素があり、大切に受け継がれてきた思いがあることなどが見えてきた。
 
そこに北欧の湖で出会った穏やかで寛容なリゾートのイメージを紐付けることで、「高原レイクリゾート」のコンセプトに行き着いたというわけである。
 

その土地の雰囲気を肌で感じる

エリアリサーチで一番大事なのは、まずは実際に行ってみて、その土地の雰囲気を肌で感じること。水が美味しいなとか、湿度が低くて気持ちいいなとか、デスクワークだけではわからない部分が見えるからだ。

逆に、現地で得た感覚の構造を分析する際には、デスクワークで調べた情報が役立つ。そして象徴的なコンセプトにたどり着いたら、それをどうプロジェクトとして表現すればいいのかを検討する。それぞれのポイントを行ったり来たりすることで地域への理解が深まり、良質なアウトプットへとつながっていく。
 
僕はドライブしながらエリアリサーチをすることが多い。googleマップを見て面白そうだと思ったところに車を走らせ、こういう感じで川が流れているから下にこういう集落があるんだなとか、あの木を使ってこういう工芸品ができるんだとか、花崗岩があるってことはこうやって地形が成り立っているのかなとか。
 
自分の中で仮説となるセオリーが見えてくると、めちゃくちゃテンションが上がる。この話を知人にしたら、「ブラタモリみたいですね」と言われた。そう、やっていることはまさにブラタモリ。

同じ対象をさまざまな角度から立体的に捉える

仮説を立てたら、次はそれを地域の人に当てにいく。こういう地名があるってことは、ここってこういう場所だったんですか?みたいなことを、地元のおじいさんなどに聞くのだ。そういう話をしたくても、みんななかなかする機会がないから、「お、こいつわかってるな」という感じで、快くいろんなことを教えてくれる。
 
有効なエリアリサーチを行うためには、同じ場所に何回も通うことが重要だ。そのたびにいろんな人に会って、それぞれが思う地域のよさを聞き、同じ対象をさまざまな角度で見ていく。そこから、地政学的に見てどうか、地域経済はどんな構造になっているかなど、都市工学的・産業的なフィルターを立体的に組み合わせることによって、対象をより有機的に捉えることができる。
 
仮説を実証に落とし込んでいくというよりは、その土地で感じた感覚をどう説明できるのか俯瞰で見ていくというイメージの方が本質に近いと思う。身体知、行動知と言うべきか。もちろん仮説が外れることも大いにあるし、そもそもそんなにすぐポンとセオリーは出てこない。この感覚をどう表現したらいいんだろうと考え続けて、数年単位で温めることだってある。

興味の幅が広がるヘルシーなチーム構造 

こうした取り組みには、一定の専門性が必要だ。多様なメンバーが揃っているquodだからこそできる面も多々あると思う。
 
コンセプトをプロジェクト化するアイデアが豊富なのはもちろん、その地域に実際に住むメンバーがいることも強い原動力だ。さらに自分の地域について深掘りすると、他の地域にも興味が湧く。そこからどんどん広く深く調べるようになり、結果一人ひとりのリテラシーが上がるというヘルシーな構造が成り立っている。
 
ただメンバーの専門性がそれぞれ違うので、使う言語も結構違う。同じプロジェクトに携わる際には共通言語を持っておくことが重要なので、「地域文化資本ラボ」の活動の一環として、読書会などのイベントも増やしていきたいと思っている。
 
この間、試験的に富山チームで松岡正剛さんの『日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く』を読んだけど、みんな楽しんで参加してくれて嬉しかった。
 
ちなみに今、個人的に興味がある地域は静岡の三島。quodの設計チームの拠点を三島につくろうと計画していて、定期的に訪れているんだけど、めちゃくちゃいいところ。コンパクトで、水路がいたるところにあって、上品で、明るくて、柔らかい。
 
そうなるともうブラタモリで、なんでこんなに湧き水が流れているんだろうとか、この地名って武家文化の影響なのかなとか、鎌倉時代の位置付けってどうなんだろうとか、気づいた時にはいろいろと調べ始めていた。
 
こんな感じで、今後も「地域文化資本ラボ」について紹介していきたいと思っているので、次回も楽しみにしてください。


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