ブラジルの和声
ブラジルの音楽を勉強しているとブラジルらしい
斬新な和声進行にしばしば出会います。
ブラジルのミュージシャンにしぼって。
1.機能和声的ではない半音進行
譜例1-a Amanha(Pscoal Meirelles)抜粋
1小節目から5小節目までF、E、E♭、D、C♯を
ルートとしたコードの半音下降。
10小節目から15小節目にかけても半音で
ふらふらと漂う。
譜例1-b Fatima(Hermeto Pascoal)抜粋
1小節目からメジャートライアドで強引に
半音下降。
パスコアールはこの異常なコード進行の上で
ハイスピードのアドリブを弾く。
譜例1-c 練習曲第1番(Villa Lobos)抜粋
ブラジル音楽の巨人といえばヴィラ・ロボス。
有名なギターのための12の
練習曲の第1番から。
1小節目から9小節目まで同一の
ディミニッシュコードフォームでひたすら
下降していく。
しかも、音程の変わらない6弦と1弦の
開放(いずれもミの音)を含ませながら。
全弦をバランスよく使った右手の
アルペジオ練習に最適な曲だ。
2.美しい進行
譜例2-a One Note Samba
(Antonio Carlos Jobin)抜粋
「イパネマの娘」の作曲で有名な
カルロス・ジョビンの洒落た作品。
ゆるやかにルートを半音下降させていく
コード進行の中にありながらメロディーが
レとソのみで
固定されていて面白く美しい。
音符の下の数字はコードに対してメロディーが
何度の音程かを表している。
譜例2-b VeraCruz
(Milton Nascimento)抜粋
「ブラジルの声」とも言われる
ミルトン・ナシメントのベラ・クルス。
4段目からのノンダイアトニック・コードの
半音下降が美しい。
3.強引きわまりない
譜例3 練習曲第4番(Villa Lobos)抜粋
再び、ヴィラ・ロボスのギターのための
12の練習曲から第4番。
この曲の楽譜を初めて読んだ時、
あまりの読みにくさに脳みそが
とろけそうになった。
その原因としてはギターはピアノと違い
同じ音が違う弦で複数とれるので1つの和声でも
2~3種類の異なるコードフォームの
可能性がある。
その上、この曲は違う弦の同じ音を
わざと重ねたりしているので、
それも読みにくくさせている。
(不協和音のオンパレードでもある)
しかし、根気よく読んでいると前後の
フォームがまったく同じじゃん!
ただ、横にずれてるだけじゃん!
といった場面が頻出することに、気づく。
和声の上にコードダイヤグラムを
書いてみました。(つかれた・・)
初見じゃぜったい弾けないけれど、
意外と簡単(あくまでも譜読み)だったと
判明しました。
もはや、和声1つ1つにネームを
付けること自体、意味がない大胆でギターの
機能を最大限に生かした(?)
ヴィラ・ロボスならではのハーモニー感覚。
強引きわまりない。
この大胆な和声進行とブラジルのリズムが
融合して、既存のクラシック音楽や
ジャズには見られないヴィラ・ロボスならではの
オリジナリティが出来上がっていったのだろう。
ピアノ曲も実に綺麗な曲が多い。
ヴィラ・ロボス以降のブラジル音楽
(ボサノバやMPB)にどこか一貫して強烈な
ブラジルならではの和声への
印象を持つがヴィラ・ロボスの大胆な
ハーモニー感覚からの影響は少なくないと思う。