中国株式市場の真実 2007
張志雄・高田勝己『中国株式市場の真実』2007年。本書は、非流通株の流通株化という股改(グーガイ 2005-06)と呼ばれる株式市場改革が行われた直後の2007年6月。ダイヤモンド社から発行された。著者は中国の証券専門紙の記者である張志雄と上海在住の長い高田勝己の二人。この本も時々読み返すのだが、いわゆる学術論文よりはよほど中国株式市場の真相に迫っているように思える。今回は1990年の市場のスタートから1999年5月、米軍機によるユーゴスラビアの中国大使館爆撃事件までを拾い読みする。
著者は股改が行われた背景として、「中国における株式市場は、あくまで社会主義計画経済の弊害で経営困難に陥った国営企業の救済の手段として上場させることを目的として発足した」ことを挙げている。「この結果、非流通株は当初は証券取引所の許可が、その後は中国証券監督管理委員会の許可がないと譲渡することができず」「この体制は、後から法人株を取得して支配権を獲得した民営資本が流通株主を無視した乱脈経営を行うにも都合がよかった。」(pp.8-9)
深圳市場で起きた新株を得ようとする人々が深圳に殺到した1992年8月の8.10事件をまず描写している。上海の取引所のスタートは1990年12月9日、これに対し深圳のスタートは1991年7月3日。当初は地元の政府が取引所を監督。この92年8月の混乱(株式の抽選券を得られなかった人々が市政府に押し掛けるなど暴動状態が生じたとされている)が、中国証券監督管理委員会の設置につながったと著者はまとめている(pp.37-41)。
この事件の結果、深圳の活気が失われたあと、上海では限られた流通株をめぐり相場の過熱と崩壊が生じた。上場資金の規模・件数を政府が決めて直轄市・政府各部門に配分、92年から94年と市場は規模を拡大した。しかし一方的に相場が上昇したわけではなく、発行規模が市場の予想を超過すると市場はしばしば冷え込みを演じた。(pp.41-47)
こうした中で生じた第二の事件が1995年に起きた327国債先物事件であった。大変意外だが、1990年12月に株式取引を始めて間がない上海の取引所は、財政部の支持も受けて1992年12月に国債先物市場をスタートさせた。
1995年2月当時の取引対象は1992年に発行された3年物国債327国債であった。その買い方は財政部100%出資の中国経済開発信託投資公司であった。ところが、万国証券公司それに仕手筋の遼国発公司が、空売りをした。2月23日財政部は327国債の利率引上げを発表。遼国発も買い方に転じ、窮した万国証券は引け直前に規則違反の売り注文を出して相場を下落させた。結局、引け直前の取引は無効とされ、万国証券は巨額の損失を抱えることになった。これを327事件と呼んでいる。結果として95年5月に国債先物市場は事実上閉鎖されている。(pp.47-50)
1996年上海と深圳の両市場は上げ相場を演じ、証監会が市場操作やそのための融資取引を戒める通知を出しても過熱抑制に効果がなかった。しかし12月15日(日)の中央テレビの7時の放送で、また翌日の人民日報で株式市場の急騰は非理性的な情況との報道を流し、16日に両市場は上げ下げ10%以内の値幅制限の新規定を発表するや、ストップ安状態になった。中央政府は再び市場愛護の姿勢に転じて、市場は3日後に安定に転じた。その後97年6月13日に3つの証券会社が株価操作で摘発されたとのニュースが流された。さらに7月2日国務院は上海と深圳の取引所を証監会の直接管理下に置くことを決定した。(pp.51-56) 取引所はこうして地方政府から離され、中央政府が直接管理するものとなった。
印紙税の配分も変更された。1993年以前はすべて上海深圳両政府に配分されていたが、その後は地方70%、中央30%、1998年からは中央88%,地方12%、2002年からは中央97%、地方3%となった。(p.56)
(1997年―1998年に目立つのが、上場にあたって不採算企業を吸収合併させたことである。そうした形で結果として、国営企業を救済する場所に証券市場を利用した疑いである。また帳簿の操作、偽の決算書が横行していたとの疑いもある。大変奇妙だがそうした疑いが高まる時期と、証監会のよる両取引所の直接管理に置く時期(国務院1997年7月決定)や、証券法の制定(全人代1998年12月可決)は重なっている。)(pp.56-64)
1998年から1999年5月に至る長期の弱気相場の転換になるのが、1999年5月7日に生じたユーゴスラビアの中国大使館爆撃事件である。(なお米軍によるこの不可解な「誤爆」事件は、真相は不明だが、中国では意図的な爆撃と信じられており、近年、米中貿易摩擦が高まる中、繰り返し屈辱的な事件として想起されている。)果たしてこの事件を契機に市場は「5.19」相場と呼ばれる上昇を演じたのである。(pp.65-73) (なおお金儲けの仕組みとしてはつぎのようなことであるようだ。非流通株を相場より低い値段で買い取る。自身が支配している会社の資金を借りて使ったり、銀行・証券会社から借り入れて株価を買上げ株価を上げる。アナリストや記者、経済学者を買収する。値上がりした株を担保に借入をしてさらに買い上げる。利食いをしながら売り抜ける。)(pp.66-98)
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