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量的質的金融緩和政策から動けない日銀

 量的質的金融緩和政策から動けない日本銀行(2019年10月)。
 米国ではトランプ大統領に連邦準備制度理事会(FRB)議長のパウエルが譲歩することが続いている(写真は正面奥に成城大学図書館)。2018年12月FRBの利上げ決定のあと、トランプの批判があり、2019年1月、FRBは利上げの中断に追い込まれた。そして2019年夏から秋にかけて、7月末と9月にFRBは、各0.25%の利下げを決定した。利下げ決定は2008年12月から数えて約10年以上ぶりの金融緩和政策への転換である。7月末にFRBは量的引き締め政策の前倒し終了も宣言。10月上旬に入ると量的緩和政策に復帰する構えも示した。欧州中央銀行はこれより前の9月にすでに量的緩和への復帰を決めている。
 ただ日本銀行は、同行が行ってきた量的質的金融緩和政策のコストにも注目する姿勢を崩さず、現在のところ(10月17日)、2016年9月に採用したイールドカーブコントロール(YCC)からさらには動いていない。これは短期金利をマイナスに維持しつつ、長期金利を浮上させる市場操作(長短金利操作)を指している。
 日本ではマイナス金利政策にまで進んだ量的質的金融緩和政策のコスト面への認識が高まっている。金融機関の収益力の低下、年金など資産運用に与えるマイナス面が認識されている。また最近では、金利が低すぎると銀行の収益力が低下するために、金融機関がリスクを取れず融資が増えないという意見も強まっている。大変な低金利であるために、融資が行われてもそれが、企業買収や不動産投資などマネーゲームに費消されていることや、淘汰されるべき企業(ゾンビ企業)が延命して、市場規律が働かなくなっていることへの批判も強まっている。
 反面、米中の貿易摩擦は続いており(米中貿易摩擦の泥沼化)、外需の低下、とくに製造業の景況感の悪化も否めない。堅調に拡大してきたインバウンド消費も、国際的な緊張拡大など懸念材料が出てきた。加えて10月からの消費税引き上げに絡んで、さまざまな商品・サービスの値上がりが生じており、消費の冷え込みが強く懸念される。わずかにプラスの要因として、人手不足を背景にした省力化投資を指摘できる。しかしそれは、当面は企業の利益を減らしての投資となる。つまり、内外の環境を考えると、日銀が現在の量的質的金融緩和政策を離れる余地も乏しい。日本の金融政策は動きが取れない状態にあるといえるのではないか?

(米)2019年7月31日 FRBは0.25%利下げを決定 利下げは2008年12月以来10年半ぶりだった。FFレートの誘導目標を年2.25-2.50%から2.00-2.25%へ引き下げ。また米国債など保有資産縮小する量的引き締めを2ケ月前倒しで終了も決定。2017年秋からすすめてきた量的引き締め策(2008金融危機のあと量的緩和策)。2019年9月末に終了予定だった(19年3月に決定)。これを2ケ月早く終了した。
(日)日銀は短期金利をマイナス0.1% 長期金利をゼロ%程度とする長短金利操作=イールドカーブコントロールYCCを実施している。(2016年1月マイナス金利⇒利回り曲線全体が沈む問題が生じ⇒2016年9月からYCCを展開。2018年7月長期金利変動幅±0~0.1%⇒±0.2%に拡大)
 日銀の国債保有は市場全体の4割を占めるまで増加している。日銀の国債保有については、市場で購入しているとしても実質的な国債引き受けで、政府の財政節度を弱めているとの批判が強い。他方で日銀は増加額ペースを減少する政策を進めており保有国債増加額ペースは2015年10月をピークに減少を始めている。ピークは年あたり83兆5538億円ペース。 2019年5月に29兆387億円 保有残高は468兆9352億円 。 2019年9月には年24兆円ベースにまで落ち着いている。他方でETFを通じた株式保有は東証1部時価総額の5%弱に達しているが、これにも株式市場のガバナンス機能を妨げているとの批判が強い。
 日銀は、7月末のFRBの政策変更に対し、自らの量的質的金融緩和政策について、ベネフィットとコストとの比較考量が必要だとして、現状維持を決定している。
(日)8月30日 概算要求締め切り 過去最大の105兆円規模
(欧)9月12日 欧州中央銀行 小幅な利下げ(3年半ぶり)と2018年末に打ち切った量的緩和の再開決定
(日)13日 対ドル円相場108円前後
(米)9月18日FRBは7月に続く0.25%利下げ決定。 失業率3%台 消費者物価上昇率2.4%上昇 米企業債務過去最大の15兆ドル超 GDP比73% 2008年の水準にある。過剰債務企業は、わずかな金利引き上げに耐えられない可能性がある。債務の増加により経済は金利の変化に敏感になっている。記者会見でFRBは利下げ継続の可能性、保有資産拡大を検討する可能性に触れている。
(日)9月19日 日銀はFRBの金利再引き下げ決定に対し、自身の金融緩和政策の現状維持を決定した。(長期)金利の誘導目標を0%程度 短期政策金利をマイナス0.1%に据え置く=長短金利操作付き量的質的緩和の維持を再度決定している。8月の決定と観点に大きな違いはないと考えられる。
(米)なお、金利引き下げなのに市場で金融機関の間で資金がひっ迫している。その理由は以下の通りだが、日本でも同様の問題があり注意が必要だとされている。
1)緩和政策の持続は市場参加者を減らす側面がある。その結果、金利の乱高下起こりやすくなっている。
2)FRBが量的緩和政策からの脱却のため、資産圧縮が進めた結果、銀行の余剰資金減少している。
3)連鎖収縮という金融リスクを減らす目的で貸し借りを規制しているために、市場で資金がひっ迫している面もある(金融規制の影響)。
(日)10月1日 消費増税実施。
(米)10月8日の講演でパウエル議長は資産購入再拡大を表明した。
10月末 英国のEU離脱期限

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福光 寛  中国経済思想摘記
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