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言葉についての思い違い

音が同じために長年誤解するってことは大人でもある。たとえば
May Day or m'aider
日本語ではメーデーという同じ表記だが、労働者の祭典日を意味するメーデー、つまり5月のMay Dayと、国際救難信号のメーデーm'aider(フランス語でhelp me)とが全く別の言葉に由来するというのは時々でてくるお話。後者のメーデーは、演劇の演出として最近はみないけれど昔は(私の子供のころは)通信士が「メーデー」と叫ぶ様子がよく船の遭難の場面でつかわれたものだ。でもそれがm'aiderとわかっているかどうか。

sweet or suite
ホテルのスイートルームがsweet roomではなく、suite room(寝室と居間とが続けてあるホテルの部屋をいう。suite:フランス語で連続する、スイット)からきているというのは、日本人の多くがあるとき突然気づくお話。でもsweet roomとまだ思っているかも。最近ではIT用語のsuite(これはパッケージ化され組み合わされたソフトのこと)も登場している。

May Fair or My Fair
映画の題名でMy Fair Ladyというのは、ロンドンの高級住宅街であるメイフェア(May Fair)をコクニー(下町言葉)ではマイフェアと発音することにかけた表現だというのも頻繁な指摘がある。May Fairは言葉通り5月の祝祭を意味する。この地で1686-1764年の間、毎年2週間にわたりMay Fairが行われていたことに由来する。このお祭りは居住者の迷惑になるという理由で、1764年にこの地での開催が禁止された。

senority or seignority
senorityは上席にあるとか、先に席を占めているといった意味。雇用においては先に雇われているものを優遇することをsenorityを冠していうことがある。
これと発音が似ているseignorityは、古い英語なので現代の辞書では掲載されていない場合もある。意味としては上級のものの所有する権利を表すが、中世において国王の所有する権利を指している。そこから通貨発行権seigniorage;seinorage;seignority rightといった表現が生じる。この言葉は、日本語の論文の中では、中央銀行はそれ自体は無価値な紙幣を流通させて通貨発行益seigniorage;seignorageを得ているとか、アメリカは世界貨幣であるドルを流通させて通貨発行益(シニョリッジ)を得ているといった表現で、使われることがある。
「シニョリッジという言葉がある。もともとは封建時代の領主が領民に対して持っていた権利を意味し、そのなかには初夜権まであった。金融の世界では、硬貨に含まれる貴金属の量を減らせる主権者の権限を意味していた。」チャールズRモリス 山岡洋一訳『なぜアメリカは崩壊に向かうのか』日本経済新聞出版社, 2008年, p.128。

シンデレラのガラスの靴をめぐって
シンデレラのガラスの靴については、ガラスの靴では歩きにくいと誰もがすぐに考える。多くの人にとって、子供のときからの疑問の一つになっているはずだ。お話自体がヨーロッパにおける古くからの民話からの採録であることは議論の余地はないが、ガラスの靴でいいのか実は誰もが疑っている。実際に誤訳(採録の誤り)説があるが、歴史をさかのぼると「金の靴」のお話にたどりつくようだ。誤訳説は、リスの毛皮(vair)がガラス(verre)に置き換わったというもの。この二つの言葉の発音は同じ(ヴェール)。

早起きは得かあるいは徳か
「早起きは三文の得」かをめぐって「徳」か「得」かをめぐって議論がある。言葉のいわれは以下の野中兼山(1615-1664)にちなんだお話がもっともらしく(このお話ー早起きして堤を歩かせ、そうして堤を固めた領民に三文与えたというお話ですがーには疑問も残るが)、その説に従えば得が正しい。早起きは三文の得 徳ではない; この野中説に従うと「二束三文」というようにわずかなお金の代名詞である三文を得ることの意味も分かる。
よくこのことわざでは早起きしても三文の得にしかならないではないかとの笑い話にされるのは、このことわざの三文というわずかなお金のところに「得」とすると矛盾が残るからだ。つまり「得」でいいかは再考の余地がある。

慣用句の多くは否定的意味に誤解される
<図にのる>は声明の転調が図表(声明の転調を示す)どおりうまくできることを指し、つけあがるといういう意味はもとはなかった。<姑息な手段>の姑息というのも、姑(しばらく)息(休息)、しばし休むことを指し、良くない意味はもとはなかった。<流れに棹差す>も流れに沿って、つまり時流にのるというのが元の意味。しかしこの言葉も、流れに逆らっての意味にしばしば誤用されるとされる。どうも言葉は、否定的な意味や悪い意味につかわれやすいようだ。問題は、このような言葉を使うべきかどうか。私は誤った意味にとられやすい言葉は、避けるべきではないかと考える。

ブリヂストン or ブリジストン
会社の名前は固有名詞だから、理屈ではなくその会社が決めた言い方にしたがう必要がある。その初級問題のひとつがこれ。ブリヂストンであって、ブリジストンではない。名前の由来が創業者石橋正二郎のbridge stoneに由来することも常識であろう。
初級問題の2番目はキヤノンはキヤノンであってキャノンではないこと。なおキヤノンは観音菩薩の観音kwanonに由来する。
あるいは野村證券であって野村証券ではない。新日本製鐵であって新日本製鉄ではない。
こうしたこと(相手の名前の表記、呼び方、由来、さらには企業理念)に注意することは、社会人として最初のイロハであり、それができない人はそもそも働く心構えができていないのだろう。

プラットフォーム or プラットホーム
これは英語としては前者が正しい。platformだ。ところが日本語としてはプラットホームで良い。とはいえhomeは人が住んでいるところ、あるいはケアセンターのイメージなので、プラットホームは意味をなさない。海外から観光客は多数。早めに訂正したいが、できるだろうか。

originally appeared in Mar.11, 2010
reposted in Aug.07, 2021


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福光 寛  中国経済思想摘記
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