財務管理論資料
財務管理についても成人向け資料(社会人の人が読んでも少しは役立ちそうな資料)があります。たとえば15年近く前に作成されたものですが以下があります。
財務課題解決(中小企業庁)
地域金融人材育成システム開発事業(経済産業省)
Statistical Data of Financial Manegement
以下では、財務管理論で使える統計についてのべてゆきます(沢山あげてありますので深みにはまらずざっと要領よくみてください)。
もちろん各企業のアニュアルブック、財務諸表の取り扱いの問題が別途あります。様々な業界団体が作成している数値も大事です。ただここでは政府などが作っている、横断的あるいは全国的統計に焦点をあてて始めます。
自分で勉強してゆく中で、以下以外の統計を発見することも教わることもあると思います。先ずはどのような資料がどこにあるかを把握しましょう。
で統計の存在がわかったら、その数値を見て、何がいえるかか、何が分かるかを頭に入れてゆきます。資料全体の構造が分かったら、自分が問題にしている産業、企業の個別の問題を次に見て行きましょう。
最初は「コロナショックと日本企業」でも使った、景気動向を予測する統計をみます。
まず「短観」があります。
日本銀行短観 企業経営者の景況感 過不足 見通しなど 四半期
2020年6月短観結果 MUFG 2020/07/01
2020年9月短観予測 第一生命 2020/09/14
2020年9月短観予測 MUFG 2020/09/14
鉱工業指数(月次) 経済産業省 速報と確報とがある サービス業に比べて景気の動向を反映しやすく、数字に速報性がある。半面、操業日数の違いや決算期の有無などの季節要因を調節するため、原指数とは別に季節調整済指数が作成される。以下で前月との比較は、季節調整済指数、前年同月比比較は、原指数が用いられている。
商業動態統計(月次) 経済産業省 速報と確報とがある。
家計調査 総務省統計局
以上の統計は景況感などを見るのに使います。これから述べる法人企業統計調査では、企業の財務的な内容、企業のお金の動きそのものが出てきます。四半期、年次2つの数字があり、様々な区分の数字があります。
法人企業統計調査(四半期別) 財務総合政策研究所
法人企業統計20年4-6月期 ニッセイ基礎研2020/09/01
法人企業統計20年4-6月期 大和総研2020/09/01
設備投資 4-6月期10年ぶりの落ち込み Reuters20/09/01
法人企業統計調査(年次別) 財務総合政策研究所
業種別 売上高 経常利益 設備投資 営業利益 配当
在庫 売上高利益率 資金調達構成 自己資本比率
重要 法人企業からみる日本企業の特徴 数字は2018年のもの
自己資本利益率 いわゆるROEです。資本金1000万-1億のところをのぞくと製造業非製造業をとわず10%前後になっています。過去からのトレンドをグラフでみると2008-09年度を底に2017-18年度まで上昇トレンドが確認できます。
売上高営業利益率 売上高経常利益率
資本金規模が大きいほど利益率が高まる傾向があります。また2007-08の金融恐慌時を除き1990年代半ば以降、上昇トレンドが確認できます。
→ 企業規模別に見た売上高経常利益率(平成26年2014年中小企業白書)
自己資本比率 直近で製造業で50%前後 非製造業で40%前後ですが、長期的上昇傾向がみられます。製造業は1970年代半ばの17-18%が低くそこから増えています。非製造業は1970年代半ば12-13%そこから1990年代までわずかに上昇。そのあと急激に上昇しています。この自己資本比率についても規模が大きくなると、比率が大きくなる傾向があります。
疑問として売上高営業利益率、売上高経常利益率の数字から、資本金規模が大きいほど、利益率が高いと言うことを言えるでしょうか(このことはどのように説明可能でしょうか)。他方でこのこと(利益率の資本金規模による格差)と、自己資本利益率においては、規模による格差が大きくないように見えることはどのように説明されるべきでしょうか?以下は2018年度の数値。
自己資本 資本金 1000万以上 1億以上
当期利益率 1000万未満 1億未満 10億未満 10億以上
製造業 10.6% 5.4% 6.0% 9.7%
非製造業 10.0% 5.8% 10.5% 9.4%
売上高営業利益率
製造業 1.8% 3.5% 4.7% 5.2%
非製造業 2.1% 2.8% 3.9% 7.1%
売上高経常利益率
製造業 2.8% 4.2% 5.2% 8.2%
非製造業 2.7% 3.4% 4.4% 8.8%
自己資本比率
製造業 25.7% 45.7% 47.8% 52.4%
非製造業 18.7% 40.2% 40.0% 41.8%
企業財務の数値は、証券取引所で集計しているものがあります。これは上場会社に限定されますが、貴重な情報になります。以下です。
上場会社決算短信集計結果(市場ごと 業種ごと)(JPX)
財務上の数値の変化が追えますが、ここの数値の意味は各市場の業種平均の数値を知ることで、投資判断に使える数値(スクリーニングと呼ばれる銘柄選別に使える数値)だという意味が大きい。もちろん、大企業の数値と見ることもできます。
東証一部 集計対象 金融業除く。連結。2019年度分。
自己資本当期 総資産 売上高
純利益率(ROE) 経常利益率 営業利益率
2019 2018 2019 2018 2019 2018
全産業 1989社 6.57 9.54 3.52 4.52 5.53 6.88
製造業 905社 5.86 9.18 4.33 6.05 5.78 7.21
非製造業 1084社 7.47 10.01 3.00 3.53 5.28 6.52
自己資本比率 配当性向 総資産配当率
2019 2018 2019 2018 2019 2018
全産業 1989社 30.91 32.07 47.51 33.19 2.92 3.09
製造業 905社 44.12 45.08 52.34 35.88 2.88 2.80
非製造業 1084社 22.40 23.51 42.68 30.03 2.95 2.75
今ここでは有料のデータベースに頼らないで済む方法を説明しています。個別の企業の財務データについては、上場会社の有価証券報告書については
EDINET があります。各企業のHPに入って、IR情報などのページにも掲載されています。EDINETでは、有価証券報告書のほか、大量保有報告書、公開買付情報なども入手できます。
大量保有報告書速報(日本経済新聞)
公開買付銘柄一覧(松井証券) 公開買付銘柄一覧(マネックス証券)
IPOスケジュール(価格com)
金融機関の業界団体などで、業界に続する企業の財務状況などを開示していることがあります。気になる業界団体のサイトは 、どのような情報が得られるかチェックする習慣を身につけましょう。
全国銀行協会決算
貸出金利回り 預金利回り
各種資産構成など
生命保険協会 生命保険事業概況
有価証券明細表 資産別運用利回り表
証券業協会会員決算概況
企業の財務行動を考える場合に、投資について、どのような意思決定をしているかをよく考える必要があります。そこで以下の日本政策銀行の資料をみてください。これは大手企業について、設備投資計画を毎年調査発表しているものです。
設備投資計画調査(毎年) 日本政策投資銀行 企業活動がグローバル化するなかで。2020年度設備投資計画調査の概要 このなかで狭義の投資と広義の投資が議論されている。狭義の投資とは国内有形固定資産投資のこと。これに対して広義の投資として以下を上げている。事実、投資計画あるいは事業計画のなかでこれらを含めて考える必要がある。(重要)
研究開発
人的投資・人材育成
情報化投資
海外有形固定資産投資
M&A
投資について、国内の有形固定資産投資だけ見ていてはダメだということ。金額的に大きい海外投資についてはこれから述べます。そのほかの項目例えばM&Aについては、講義の中で話す機会があると思います。
参考 対内対外証券売買契約状況(財務省) 週間旬間月間など
非居住者によるもの ETF REIT含む
居住者 組織別
参考 国際収支統計 直接投資(日本銀行)
業種別 国別 残高/フロー/投資収益 企業の投資を考えるときに対外投資の動向を考える必要がある。まずストック(残高)がどうなっているか。
企業の海外直接投資の実態、規模を知ってもらうために、残高とフローを日本銀行の資料により、以下に示します。(なお間接投資というのは、ポートフォリオ投資ともいいますが、海外の証券などを収益目的に取得することを指します。直接投資ではまず海外企業を取得支配し、その企業を通して現地での事業活動を拡大します。)
直接投資残高(2019年末) 金額単位 億円
輸送機械
金融保険 卸売小売 化学医薬 器具
アメリカ合衆国 565,777 138,876 127,945 46,934 34,205
英国 178,513 30,001 10,719 6,000 4,207
中国 139,147 13,450 25,068 10,199 21,268
オランダ 126,785 23,571 15,129 11,815 8,873
シンガポール 89,341 26,795 17,407 4,329 1,866
タイ 81,992 22,512 5,268 4,786 14,616
オーストラリア 77,531 12,642 5,511 4,329 686
ケイマン諸島 50,177 15,691 1,306 X X
インドネシア 43,897 17,381 1,327 284 8,761
大韓民国 42,415 7,051 4,004 7,732 1,392
総計 1,930,544 402,687 293,644 198,468 157,358
対外直接投資(2019年中) 金額単位 億円
輸送機械
金融保険 卸売小売 化学医薬 器具
アイルランド 64,269 697 -748 63,132*
アメリカ合衆国 47,796 4,742 8,701 2,017 1,677
スイス 37,090 -640 37,431 ** 207
シンガポール 14,817 5,988 2,913 249 158
中国 13,992 1,076 1,941 1,083 4,024
ドイツ 12,729 1,045 393 146 7,758
オーストラリア 11,960 4,435 910 2,645 84
インドネシア 9,149 6,533 204 450 780
バージン諸島 5,638 5,549 X X X
英国 5,622 -2,263 1,332 3,528 -157
総計 247,068 36,246 59,403 45,956 22,795
*アイルランドの化学医薬で63132億円は武田薬品のシャイヤー買収を反映したものと思われる。**スイスの卸売小売で37431億円については、対応する規模の買収をにわかに思いつかなかった。
参考 直接投資統計(JETRO)
国別 地域別 業種別 残高
世界と日本の直接投資(JETRO) (重要)
日本の企業の海外直接投資収益率は7%台と高い。したがって今後も増加が見込まれる。日本企業の売上高のすでに6割は海外での売上高になっており、今後も海外比率の上昇が見込まれる。
表2-24 日本企業の売上高の地域構成の推移
表2-25 業種別売上高の地域構成
こうした投資の結果として、あるいは投資計画の結果として、資金調達が必要になります。しかし、近年日本企業は、得られた収益の範囲で投資を進め、なおそれでも余裕があるので、自社株を取得し、市場から資金を調達するより、むしろ市場にお金を返すことが多かったとされます。その資金に余裕のある状況が2020年に入り、コロナでどこまで変わったかが注目されます。実は企業部門が資金不足状態に陥ったとされています。
上場会社資金調達額(月間、年間)(JPX) (重要)ここでは資金不足に陥る前の2019年の数字を挙げておきます。
この統計により、上場会社が証券市場から調達した資金の内訳が過去にさかのぼってわかります。1件あたりの規模が大きいものに注目。2019年についえは、普通債とよばれるいわゆる普通社債(1件当たり平均で228億円 公募社債の発行額というのはとても大きいことが分かります)。それから国外発行の転換社債(同174億円)。そして優先株式(私募)です(同151億円)。他方、新規株式公開というもの、市場に登場するに際しての公開売り付けは、1件あたり10億円前後のものだということも以下の表から読み取れます。
この表から読み取れる株式による資金調達は1兆4240億円です。
ところが、ニッセイ基礎研のレポートによれば、2019年に上場会社の自社株買いは過去最高を記録し、4月から12月までで6.3兆円に達しました。つまり2019年については、株式では資金の償還、お金を市場に返す方が圧倒的に多かったことになります。こうしたカネ余り状態が2020年、コロナショックで180度変わったのです。
2019年上場会社資金調達内訳
件数 発行金額 1件当たり
普通株式
株主割当 0件 0 0
公 募 93 2,198 24
IPO分 73 916 13
IPO以外 20 1,282 64
第三者割当 307 9,104 30
新株予約権権利行使 573 1,430 2
優先株式(すべて私募) 10 1,508 151
普通債 501 114,386 228
転換社債国内発行 17 274 30
転換社債国外発行 8 1,389 174
新株予約権
注)集計対象は上場会社 原則は公募発行分 金額単位は億円
端数は四捨五入
参考 福本渉 日本企業の投資と資金調達動向 ファイナンス2017/09
坂本純也 コロナ禍での資金調達動向 大和総研2020/05/27
日銀のデータについて まず時系列データの利用に慣れる必要があります。
慣れると、エクセルにデータを落として、加工することができます。
現金・現金・貸出金(月次) 日本銀行
貸出先別貸出金 日本銀行
応用例 貸出先別貸出金に見る国内銀行の経営 金融市場2016年12月
資金循環(四半期 年度) 日本銀行 お金の流れの総括(重要)
応用例 資金循環統計(2020年4-6月期)ニッセイ基礎研2020/09
・個人金融資産で定期性預金→流動性預金への動き続いています。背景には定期性預金においてもほとんど金利がえられないことがあります。
・企業部門 資金余剰から資金不足に切り替わっています。他方で高い対外投資が続いています。企業は、資金不足に切り替わったわけです。これが今後どうなるか、どのような影響を与えるかが注目されます。
・国債保有 これから講義で説明しますが、日銀の割合44.2%まで上昇しています。銀行・外国人保有(図表13)
・GPIF 2020/04保有比率基準変更 対外投資 増やしています。
→ 証券市場論資料(株式編)Satistical Data of Securities Markets-Stock Market Edition
なお見出しに使ったのは、根津神社の千本鳥居である。「家内安全」「無病息災」「商売繁盛」などの願がみられる。