おすすめ本 ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密 広瀬友紀著
自分の子育ても経験したし、もう何年も幼稚園の園長をしているのに、曇っていた視界が開けるような、興味深い本です。言語学はチョムスキーさんの本のように難しいのかと思っていたら、こんなに身近な学問だったんですね。以下gemini AIの要約です。まずは3章まで。
「ちいさい言語学者の冒険」第1章の要約
はじめに
大人は、日本語を自然に習得した過程をほとんど覚えていない。
日本語をマスターしたつもりでも、具体的にどのような知識を身につけているのか把握できていないことが多い。
子供たちがどのように言葉を学習していくのかを観察することで、言葉の習得過程や、頭の中の言語知識の構造を探ることができる。
子供たちは大人の言葉をそのまま真似るのではなく、論理的な方法で言葉の規則性を見つけ出し、試行錯誤しながら言葉を習得していく。
「は」に濁点をつけてみよう
子供に「『は』に濁点をつけると何?」と質問すると、「わからない」や「が」などと答える子がいる。
これは、子供が言葉の音を客観的に捉えている証拠である。
大人は「は」に濁点をつけて「ば」と読むことを当然としているが、他の仮名と比べて規則性がなく、不自然な点がある。
子供は、濁点は音を有声音化する記号だと理解しており、「は」に対応する有声音は日本語に存在しないため、答えに窮したり、最も近い音である「あ」や「が」と答えたりする。
濁点の正体
濁点とは、無声音を有声音に変える記号である。
「た行」-「だ行」、「さ行」-「ざ行」、「か行」-「が行」などは、口の中で音を出す位置や方法は同じだが、声帯の振動の有無が異なる。
「は行」と「ば行」は、口の中で音を出す位置が異なり、他のペアのような対応関係がない。
子供は濁点の正体を理解している
「は」に濁点をつけた場合、口の中の同じ位置で発音される有声音は存在しないため、子供は「わからない」と答える。
「は」に濁点をつけて無理やり発音しようとすると、「あ」に近い音になる。
子供は「が」を「は」に濁点をつけた音として答えることがあるが、これは日本語で発音できる有声音の中で最も喉の奥に近い音だからだと考えられる。
これらの子供の反応は、大人が見落としている言語音の規則性について教えてくれる。
「は行」は昔「ぱ行」だった
歴史的に見ると、「は行」の音はもともと「ぱ行」の音であり、後に変化したものである。
このような歴史的変化により、日本語には不規則な部分が生じている。
子供は、文字を覚える前の段階だからこそ、こうした不規則性に気づくことができる。
文字をマスターする前だから気づく
大人は文字や読み書きのルールをすでにマスターしているため、日本語の特殊性に疑問を持たない。
子供は、身の回りの言葉を観察し、日本語の音の特徴や規則性を自分で発見していく。
子供は、英語の「L」と「R」のような、日本語では区別されない音の違いを学習する必要はない。
子供は、身の回りの大人の言葉を聞いて、日本語の音声体系を無意識のうちに構築していく。
文字を覚える過程では、日本語の特殊性や歴史的経緯を理解しているわけではないため、大人から見ると単純な間違いをすることがある。
しかし、子供の「間違い」は、実は大人が見落としている言語の規則性や法則性を教えてくれる貴重なものである。
子供と外国人に教わる日本語の秘密
日本語学習中の外国人も、日本語の隠れた法則に気づかせてくれる存在である。
例えば、「おんなごころ」は連濁するが「おんなことば」は連濁しない現象は、「ライマンの法則」として知られている。
日本語母語話者は無意識にこの法則に従っているが、外国語話者は気づくことができる。
子供の言葉から学ぶためには、大人が注意深く観察し、その背後にある法則性や規則性を見つける必要がある。
数が合わない
子供は、ひらがなを覚える過程で、音と文字の対応関係に疑問を持つことがある。
例えば、「れっしゃずかん」の「し」や、「みんなうんち」の「ん」の存在に疑問を持つ子がいる。
これは、子供たちが日本語の音声を、大人とは異なる単位で区切っている可能性を示唆している。
納得できない「ぢ」と「じ」
子供は、「ぢ」と「じ」が同じ音であることに納得できないことがある。
歴史的には異なる音だったが、現代日本語では同じ発音になってしまったため、子供にとっては一貫性がないように感じられる。
子供は、異なる音には異なる仮名が対応しているはずだという原則を持っているため、このような不規則性を指摘することができる。
まとめ
子供の言葉の習得過程を観察することで、言葉の秘密や、大人になってからは気づきにくい日本語の規則性などを発見することができる。
子供たちは「ちいさい言語学者」であり、彼らの言葉の冒険から学ぶことは多い。
第2章:「みんな」は何文字?
日本語のリズム
日本語は、基本的に母音一つ、または子音一つ+母音一つの単位で構成され、それぞれの単位の長さが比較的シンプルに決まっている。
この単位を「1拍(モーラ)」といい、日本語の仮名は原則としてこの1拍に対応するようにできている。
例外として、「ん」「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」などの特殊拍がある。
日本語の数え方は少数派
日本語では、「どん」を「ど」「ん」の2拍に分けるが、多くの言語では「don」を1音節として扱う。
日本語話者は、音の連続を単語より小さい単位に区切る際に、音節ではなく拍という単位を用いる。
子供は、ひらがなを覚える過程で、音と文字の対応関係に疑問を持つことがある。
これらの子供の反応は、子供たちが日本語の音声を、大人とは異なる単位で区切っている可能性を示唆している。
子どもなりの区切り方
子供は、大人のように拍を意識して単語を区切ることができないことがある。
例えば、「みんなうんち」を「みん」「な」「うん」「ち」と区切ったり、「あいうえおうさま」を「あ」「い」「う」「え」「お」「う」「さ」「ま」と区切ったりする。
子供は、促音「っ」や撥音「ん」を独立した単位として扱わず、大人とは異なる区切り方をすることがある。
これらの例は、子供が日本語の音声をどのように認識し、処理しているのか、その過程を示している。
じつはかなり難しい「っ」
日本語の促音「っ」は、外国人にとって理解しにくい特殊拍の一つである。
日本語話者は、促音を自然に使いこなせるが、その発音方法を説明するのは難しい。
外国人に促音の発音方法を説明すると、「次の音の構えをしながら、つまりスタンバイしながら1拍分の長さをおく」となる。
子供は、促音の習得にも時間がかかることがある。
「かににさされてちががでた」
「かににさされて」「ちががでた」などの子供がよく使う表現は、子供が単語の境界を誤って認識している例である。
これらの例は、子供が1拍の単語を2拍になるように単語の境界を見直したり、助詞を重ねたりする傾向を示している。
子供は、より自然に感じられる拍数になるように単語を修正する能力を持っている。
必殺!「とうもころし」
「とうもころし」「さなか」など、子供が音を入れ替えて発音する現象は、音位転換と呼ばれる。
音位転換は、子供が発音しやすい音の連続パターンにひっぱられることで起こると解釈されている。
音位転換の例は、大人の「言い間違い」にも見られる。
日本語の音位転換では、大人でも子供でも「拍」単位の入れ替わりだと見なせる例が多数である。
「かぷかぷして」
子供は、「拍」より小さい単位での音の入れ替わりをすることもある。
例えば、「ぱくぱく」を「かぷかぷ」と言うなど、子音の単位を入れ替えることがある。
このような例は、大人よりも子供に多く見られる。
これらのことから、「拍」は日本語話者にとって最初からある単位ではなく、日本語を身につける過程で形成・強化されていくものと考えられる。
第3章:「これ食べたら死む?」ー子どもは一般化の名人
「死む」「死まない」「死めば」ー死の活用形!
子供は、「死む」「死まない」「死めば」など、大人には見られない動詞の活用形を使うことがある。
これは、子供が周囲の大人の言葉をそのまま真似るのではなく、自ら規則を発見し、それを一般化する能力を持っていることを示している。
規則を過剰にあてはめてしまう
子供は、ある動詞の活用パターンを他の動詞にも適用しようとする傾向がある。これを過剰一般化という。
例えば、「飲む」「読まない」「読めば」などのマ行五段活用のパターンを「死ぬ」にも適用し、「死む」「死なない」「死めば」のような形を作り出す。
子供は、自分が知っている規則を新しい単語にも適用することで、語彙を増やしていく。
「死にさせるの」
子供は、使役表現においても過剰一般化を行う。
例えば、「殺す」「動かす」「起こす」と言う代わりに、「死にさせる」「動きさせる」「起きさせる」と言う。
子供は、使役の意味を持つ単語がある場合でも、「せる・させる」を使う傾向がある。
これは、子供がまず規則を最大限に活用しようとすることを示している。
おおざっぱすぎる規則でも、まずはどんどん使ってみる
子供は、動詞の活用タイプを覚える前に、「このパターンでいけるはず」というおおざっぱな規則を見出す。
例えば、「連用形+させる」というパターンを多くの動詞に適用しようとする。
このような過剰一般化は、子供が規則を発見し、試行錯誤しながら言語を習得していく過程を示している。
「これでマンガが読められる」
可能表現においても、子供は過剰一般化を行う。
例えば、「できる」と言う代わりに「しれる」と言ったり、「消せる」「読める」にさらに「られる」を付けて「消せられない」「読められる」と言ったりする。
これらの例は、子供が可能な限り広い範囲に規則を適用しようとする傾向を示している。
日本の子どもだけが規則好きなのではない
過剰一般化は、日本語だけでなく、英語など他の言語でも見られる現象である。
例えば、英語の子どもは、不規則動詞の過去形を規則動詞の過去形と同じように変化させたり、接尾辞-erを過剰に適用したりする。
これらの例は、規則を見つけるのが好きなのは、日本の子どもだけではないことを示している。
手持ちの規則でなんとか表現してしまおう
子供は、まだ使役形や可能形を完全に習得していない段階でも、手持ちの規則を使って表現しようとする。
例えば、「食べさせて」と言いたいときに「はいて」と言ったり、「着替えさせて」と言いたいときに「きあえて」と言ったりする。
これらの例は、子供が限られた語彙や文法知識の中で、コミュニケーションを取ろうとする工夫を示している。
普通に大人をお手本にすればいいのに?
子供の言葉の発達は、大人を手本にするだけでは説明できない。
子供は、大人の発話を聞くだけでなく、自ら規則を発見し、それを試行錯誤しながら修正していくことで、言語を習得していく。
次章では、子供が「普通に学ばない」理由についてさらに検討する。
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