風車探偵 #シロクマ文芸部
風車を手に持ち、息を吹きかけてクルクルと回しながら、その探偵は現れた。
「皆さん、お待たせしました。犯人が分かりましたよ」
陸の孤島の古い屋敷に集められた男女五人。
彼らはみな、屋敷の当主から招待状をもらったと言ってやってきたが、奇妙なことに屋敷の当主は招待状など送っていないと言う。
五人の中には「当主が嘘をついているのではないか」と疑っている者もいたが、「せっかく来られたのだから今日はお泊まりください」と当主が言うので、全員大人しく宿泊した。
しかし、朝になり当主が姿を消していることが分かると五人はパニックとなり、お互いを疑い始めた。険悪な雰囲気となり、危険を感じた中村という男が「良い探偵を知っている。彼に調査させるから皆さん落ち着いて」と言って呼び寄せたのが冒頭の探偵である。
「残念ながら当主はすでに亡くなっているでしょう。事前に皆さんから伺ったお話を整理したところ、当主を誰にも気づかれず殺害できたのはひとりだけでした。みゆきさん、あなたですね」
「違います!」
みゆきは激しく否定したが、探偵は聞く耳を持たずに言った。
「違いません。他の方の部屋は隣り合っていて、隣の部屋で何か物音がすれば気づく。一方、みゆきさん、あなたの部屋は他の方の部屋からは離れていて、当主の部屋のすぐ隣。にも関わらず、当主がいなくなったことに気づかなかったというのはおかしくないですか?」
「だってここまで遠かったから!疲れてよく寝ていたのよ」
「疲れてよく寝ていた、ねぇ。まあ、あなたの部屋を調べたら分かることだ。皆さん、行きましょうか」
「ちょっと!勝手なことしないで!」
みゆきを無視して、探偵はみゆきの部屋へと向かう。
宿泊者達はぞろぞろと探偵について行く。
探偵がみゆきの部屋のドアを開けると、ベッドに当主の秋山が寝ていた。
「そんな!なんで……」
みゆきがショックで膝から崩れ落ちると、探偵はニンマリとして言った。
「私の推理通りだったようですね」
「違います」
突然、当主の秋山がベッドから身体を起こして発言した。
「ど、どういうことだ?」
探偵は動揺して中村を見た。中村はただ驚くばかりで何も知らないようだ。
当主の秋山はベッドからゆっくりと起き上がると演説を始めた。
「風車の探偵さん、やっと会えましたね。我々はずっとあなたを探していたのです。
中村さんにね、『風車を持った面白い探偵を最近雇った』と聞いて今回の企画を思いつきました。中村さんを除いた四人はね、『風車を持った男に騙された娘を持つ親の会』のメンバーなんですよ。
そういうわけで、風車の探偵さん。ゆっくり話を聞かせてもらうから覚悟するんだな!」
探偵はぎこちない動きで部屋の窓を開けた。
そして、手に持った風車が風を受けて回るのをじっと見つめて何も言わなかった。
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