懐かしい初めまして #シロクマ文芸部
懐かしい雰囲気、匂いと声音。
なぜだろう。初めて会った人なのに。
六歳年下の小学四年生の弟が連れてきた男の子、裕太くん。
どこかで会ったような気がして仕方がない。
でも相手は小学生だし。
そんなわけないか、とも思うけど、でも……。
ついつい彼の顔をまじまじと見てしまう。
「なんだよ、姉ちゃん、裕太のこと好きなんか」
弟のマサルが能天気にしょうもないことを言ってくる。そんなんじゃないんだよ、馬鹿。
「いや、あのね、私、どこかで裕太くんに会ったような気がするのよね」
「マジ?裕太、お前、俺の姉ちゃんに会ったことあるの?」
弟が裕太くんに聞くと、「ないよ」と即座に否定されたんだけど、「でも、なんかちょっと懐かしい感じがする」と言うではないか。
「えー!なんなの、裕太と俺の姉ちゃん、好き同士なの?」
馬鹿な弟が的外れなことを言う。
「そんなんじゃないよ」
裕太くんが否定。ちょっと寂しい気もするけど、そんなんじゃないからな、実際。
その後、オヤツの時間にちょっとした事件が発生した。
「マサルは姉ちゃんがいてよかったね」
裕太くんがつぶやくように言った。
「なんだなんだ、やっぱり俺の姉ちゃんのことが好きなんか」
弟はまだそんなことを言う。
「いや、そういうんじゃないんだけど、僕、お姉ちゃんいたら甘えてみたいんだよね」
「どんなふうに?」
「膝枕してもらうとか」
「俺、膝枕してもらったことあったかなぁ。姉ちゃん、してあげてよ」
「え、いいよー」
裕太くんはそう言ったけど、私は嫌な気はしていなかった。
「裕太くん、いいよ。私でよかったら」
「本当?じゃ少しだけ」
裕太くんはそう言うと、私の膝の上に頭を乗せて丸くなった。めちゃくちゃ穏やかな顔で。
なんだろう、この心地いい感じ。
「なんだよ、コイツ。犬みたいだな」
マサルがそう言って笑った。
犬?
「そう言えば、裕太って犬の鳴き声がめちゃくちゃうまいんだよ。裕太、ちょっとやってみて」
裕太くんはおもむろに起き上がり、おすわりの格好をして吠えた。
「ワンワン、ワォーン!」
「あはは。な、うまいだろう?」
私はもう確信していた。
裕太くんはポチだ。マサルが生まれる前に死んでしまった、ポチの生まれ変わりだ。
駄目だ。気持ちを抑えられない。
私は裕太くんを抱きしめると、しばらく泣いた。
気持ちが落ち着いてから、動かずじっとしててくれた裕太くんに言った。
「裕太くん、ごめんね。私、とてもうれしいことがあったの」
「うん、大丈夫だよ。なんだか僕もすごくうれしかったし」
きょとんとしていたマサルが言った。
「やっぱり好き同士なんじゃね?」
もうそれでいいよ。
(1060文字)
※シロクマ文芸部に参加させていただきました