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飴玉よりも固い絆 #シロクマ文芸部

布団から何か固いものが出てきた。布団を上げようとしていた加奈子は、それを思いっきり踏んづけてしまった。

「いったーい!」

足裏が痛過ぎて、加奈子は尻餅をついた。
固いものの正体は飴玉だった。
個装されていたので飴玉が割れて散らばったりはしなかったが、加奈子はそのことを不幸中の幸いとまでは思えず、イライラを爆発させた。

「祐一郎!ちょっと来なさい!」
加奈子はほとんど犯人と決めつけたような態度で息子を呼び出した。

「……ママ、どうしたの?僕、怒られるの?」

「たぶんね!これを見て」
加奈子は自分が踏んづけたものを手の平に置いて息子に見せた。

「飴玉の袋?」

「そう!中身入りです。とっても固い飴玉が入ってました。ママはこれを踏んじゃってとっても痛かったの」

「ええっ!ママ、かわいそう。大丈夫?」

「まだちょっと痛いけど大丈夫よ、ありがとう。ママはね、誰がこの飴玉を放置していたのか、どうしても知りたいの」

「……もしかして僕のこと、疑っているの?」

「いいえ。ただ確認したいだけよ。ママは祐一郎のこと、信じてる。
4月から小学5年生になるんだし、まさかまさか飴玉をその辺に放ったらかしになんてするわけないもの。ただ、真実の前に人は平等なのよ。あなたの身の潔白を証明してほしいの」

「ママ、信じて!僕じゃないよ。最近、飴食べてないし」

「前に食べてた飴の残りかもしれないじゃない?」

「そ、そんなぁ!……ちょっとそれ、見せてくれる?」
祐一郎は加奈子から飴玉を奪い取った。

「袋に『天使の飴 想い出味』って書いてあるよ。僕、こんな飴、食べたことない!」

加奈子も慌てて飴玉の袋を確認する。確かにそう書いてあった。

「ごめんなさい、祐一郎。あなたの言う通りだわ。犯人はあなたじゃないって認めます」

「もう!決めつけるのやめてよね。パパじゃないの?そんな変な名前の飴持って帰ってくるの」

「どこから持って帰るって言うのよ?」

「知らないよ!とにかく僕は犯人じゃないんだから部屋に戻るね」
祐一郎は逃げるように自分の部屋に戻っていった。

3人家族だから祐一郎が犯人でないとすると、夫の祐が犯人ということになる。
確かに言われてみれば、いかがわしい名前の飴だ。どこに行けば手に入るんだか。
加奈子は夫が帰宅したら徹底的に問い詰めてやろうと思った。

その頃、夫の祐は外回りの仕事を終えて、会社近くの公園のベンチで休んでいた。
昨日のアレはなんだったんだろう……。



祐がいつものようにベンチで休んでいると、小学生くらいの子供に名前を呼ばれた。

「祐!おい、祐!」

どこかで見たような顔。

「あれ?もしかして隆ちゃん?隆ちゃんか?」

「おー、覚えててくれた!そうだよ、隆一だよ」

「すげー懐かしいな。いや、懐かしいどころじゃないな。小学校以来だろ。つーか、なんで隆ちゃんは子供のままなの?」

「だって俺は死んじゃってるからな」

「え!?いつ?」

「分かるだろ(笑)、小学校の頃だよ」

「急にいなくなったと思ったら死んでたのか。ひどい。なんてことだ。俺は、親の急な転勤で引っ越したって聞いてたよ」

「大人の優しさってやつだろうな。死んだって聞いたらショックだったと思うよ。あんまりいい死に方じゃなかったし」

「どんな?」

「聞くなよ。言いたくない」

「ごめん……てことは幽霊なの、隆ちゃんは」

「さあね、なんでもいいよ」

「それで幽霊の隆ちゃんは何しに出てきたの?」

「祐が毎日ベンチに座ってつまらなそうにしてるからさ、遊びに来たんだよ」

「遊ぶって……俺を見てくれよ。もういいオヤジだろ?お父さんと遊ぶ感じになっちゃうよ」

「ああ、それは大丈夫。ちょっとこっち来て」

「え、そっち行ったら俺死ぬんじゃない?」

「望むならそうしてもいいけど、今日は遊ぶだけ。ここを跨げばいい」

祐が隆一の方に一歩踏み出すと、小学生の頃の祐になった。

「マジか」

「よし、遊ぼうぜ」

それからは2人でひたすら遊んだ。
隆一の家にはファミコン、ゲームボーイ、チョロQ、ミニ四駆、ラジコンといった懐かしの玩具がそろっており、祐は時を忘れた。
その後、小学校の校庭に行くと子供達が集まってきて、ドッヂボールとサッカーをヘトヘトになるまでやった。

「あー久しぶりにこんなに遊んだな。楽しかった」

「祐はもうちょっと遊んだ方がいいよ。遊ばないから死にたくなるんだ」

「え?俺、死にたくなってたの?」

「でなきゃ、俺出てこないだろ」

「なるほどな。でも、また一緒に遊びたい」

「焦るなよ。死んだらいつでも一緒に遊べるさ。奥さんと子供もいるんだろ?俺の分まで頑張って生きてくれよ」

「……隆ちゃん」

「あ、これやるよ。まあまあ旨いぞ。じゃまたな」

隆一は祐の手に飴玉を握らせると、どこかへ帰って行った。



「あれ、そういえば、あの飴玉どうしたっけ?」

探しても見つからなかったが、祐は「まあいいか」と微笑んだ。

(1964文字)


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