彦星誘拐 #毎週ショートショートnote
年に一度の七夕の前日。織姫の家の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
「もしもし、織姫さんか?落ち着いて聞けよ?彦星を誘拐した」
「なんですって!」
「だから落ち着けって。明日、会いたいよな?俺の言うことを聞けば彦星は無事に返してやるよ」
「お金ならいくらでも払うから彦星を返して!」
「へへへ、そう来なくっちゃ。金額は……」
「なーんちゃって」
「え?」
「彦星とは年一で会ってるけど普段は別の人と暮らしてるの。会えなくなっても別に構わないわ」
「嘘だろ、彦星と年に一度会うために毎日真面目に機織りしてるんじゃなかったのかよ!」
「夢を壊してごめんなさいね……そろそろ天帝様のお守り隊が到着する頃かしら」
「何?……あ、クソ!!
おい、彦星、織姫は浮気してるぞ!」
彦星は答えた。
「ああ、私もしている」
誘拐犯を連行した後、天帝のお守り隊が彦星に聞いた。
「さっきの本当ですか?」
「冗談に決まってるだろう。彦星と織姫だぞ」
彦星はなぜか寂しそうに笑った。
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※こちらの企画に参加させていただきました