【短編小説】おばあちゃんの困り事 #シロクマ文芸部
「紅葉鳥の鳴き声を聞くと腰が痛くなって困るわ」って、おばあちゃんが言った。
敬老の日にちなんだ小学校の宿題で、「おじいちゃんおばあちゃんの困り事を聞いてお手伝いをしましょう」というのがあって、私はいま、おばあちゃんの家に話を聞きに来ている。
おばあちゃんはお金持ちで、山奥の広いお家にひとりで住んでいる。通いのお手伝いさんがいるからひとりでも大丈夫なんだってママが言ってた。
「紅葉鳥ってどんな鳥?」
「フフフ、まあ知らないわよね、ユリはね。ママは知ってるかな。宿題なんだろ?調べてみるといいよ」
「えー、教えてくれないの?」
「すぐ教えたらつまらないじゃないか、私が。また来た時に教えてやるよ」
「……うん、わかったー」
「面倒くさいよ、おばあちゃん」とは言えず、一旦家に帰ってママに相談。
「ママ、紅葉鳥って知ってる?」
「何それ、知らない」
「おばあちゃんがね、腰が痛くなるんだってさ、紅葉鳥の鳴き声を聞くと」
「何それ、また変なこと言い出したわね……。あんた、おばあちゃんのお手伝いしに行ったんじゃないの?」
「そうよ。困ってることないって聞いたらね、言われたの」
「ふーん、ちょっと調べてみるね」
ママはしばらくスマホをいじってから言った。
「鹿だってさ」
「紅葉鳥が?」
「うん、鹿の別の呼び方だって。うーん……鹿はね、秋になると鳥みたいに鳴くんだってさ。あの人、何を考えてるんだろ」
「ふーん、明日またおばあちゃん家に行って聞いてくるよ」
翌日。
「おばあちゃん、紅葉鳥、分かったよ。鹿でしょ?」
「そうそう、鳥じゃないのよ。面白いでしょ?昔の人は風流よね」
「う、うん」
「知らんがな」とは言えず、私はうなずいた。
「でも、なんで鹿の鳴き声を聞くと、腰が痛くなるの?」
「さあねぇ。おじいちゃんのことをなんとなく思い出しちゃうからかしら。おじいちゃんはね、優しくて男らしい人だったのよ。ユリにも会わせたかったわ」
「そうなんだ。私も会いたかったよ」
「もう少し長生きしてくれればねぇ」
「おばあちゃん、それでね、腰が痛くなるの、どうすればいい?」
「ああ、いいのいいの。すぐに良くなるから。おばあちゃんはね、ユリとお話したかっただけ。楽しかったわ。また遊びに来てね」
「うん、また来るね」
私は家に帰って宿題のレポートを書いた。
ママに見せると奥の部屋に行って電話をかけていた。おばあちゃんにお礼でも言うのかな。
ちょっと変わってるけど、私はおばあちゃんが好き。
(1165文字)
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