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法規担当1年目の方に贈る覚書(未定稿)【12/9追記あり】

○はじめに

Xにて、法規担当1年目の方から返信をいただき、その中で、前任者や前々任者の方がいらっしゃらないとの記載がありました。

お一人で法規担当をやっているのか、係長はどうなのかなど、御事情が分かりませんが、私なりに、法規担当1年目として気を付けておかねばならない部分や、最低限ここだけはやっておきたい部分などを、メモしておきます。気になる方がいらっしゃれば、御参照いただければ幸いです。

なお、当然に、自治体の規模や、所掌事務などによって、具体的な法規担当の仕事が異なることから、あくまでも参考程度に留めておいてください。

※あえて箇条書のような形式にしたので、思いついたままに書いています。追加もする予定です。

2024年12月9日 法務相談などについて追記しました。

○法制執務と法務相談

私は、法規担当の仕事の両輪は、法制執務と法務相談であると思っています。主な仕事はこの2つだけです。
法制執務は、所管部署から提出された条例、規則の改正を行う作業であり、法務相談は、所管部署からの法律関係の相談対応を意味します。

○法制執務で絶対視するのは条例改正のみ

まず、法規担当が例規の改正で絶対視するのが「条例」の改正です。議会を通りますので、条例改正にミスがあっては一大事です。訂正するのも大変手間ですので、条例改正には細心の注意を払います。

逆に、長限りで改正できる(長の決裁で改正できる)規則とか、部長や課長限りで改正可能なもの(例えば、要綱など)は、手を抜いて構いません。後回しでも結構です。

とにかく条例改正に集中しましょう。法制執務については、法規担当の部署に改正手法の本がたくさんあると思います。国の法令改正のルールならワークブック、条例改正のルールなら石毛さんの本が有名です。

○法制執務はただのルール。間違っても違法ではない。

法制執務は、これらの本に載っている壮大なローカルルールです。端的に言ってしまえば、改正がうまく反映できればいいので、ルールをミスっても何とかなります。

また、ほとんどの自治体では、第一法規株式会社又は株式会社ぎょうせい(新日本法規やクレステックという可能性もあるようです)の例規システムを使っていると思います。

もし頼る方がいないようであれば、所管部署から出された案を忠実にこのシステムに入れて吐き出した(改め文や新旧対照表など)ものをそのまま使うとよいかと思います。

実は、このようにやっている自治体はまれだそうですが、当方では完全にこのシステムに依存して作成をしています。このシステムから必ず吐き出して使うようにしています。

○致命的なのは誤字脱字

法制執務のルールに反しても、うまく溶け込むとか、読めるようであれば、気にする必要はありません。それよりも、取り返しがつかないのが誤字脱字です。誰でも気づくことができますし、いわんや議員から指摘を受けるなどはあってはなりません。そのため、最初のうちは、誤字脱字に力点を置くとよいと思います。

○誤字脱字は複数人でチェックする

当方では、係内で2回の読み合わせを行い、所管部署にも2回チェックしてもらいます。それでも、5年に1回ぐらいは、誤字や誤記載があることがあります。

できるだけ複数人で、人の目で見てチェックするのが重要です。できれば声に出して読み合わせをしてください。

法制執務読み」という謎の音訓を逆にした読み方(定める→テイメル、改める→カイメル、超える→チョウエル)がありますが、意味がないのでやめて大丈夫です。

○準則には忠実に

条例によっては、国や県から、条例(例)(そのまま「じょうれいれい」と読みます。)という準則が送られてくることがあります。税条例とか給与条例とかです。

準則には従っておくのがベストです。特に何も考えずに、一言一句そのまま書き写すことをお勧めします。

○パクる

とにかく、条例改正のポイントは「パクる」ことです。これを難しい言葉で、「条例のベンチマーキング」とか「厳格な前例踏襲」といいます。

まずは、過去の自社の改正例を参考にするのが一番です。今回と同じように改正していないか、同じような言葉を使っていないかなどをひたすら探します。

○官報に始まる

自社の例がない場合、改め文方式であれば、官報が最良の素材だと思います。官報で法律、政令の改正手法を調べて真似するとよいです。例規担当部署であれば、「官報情報検索サービス」を契約していると思いますので、それを使うとよいと思います。

○他都市の事例を調べる

「令和6年 第4回定例会 議案」とか「令和6年12月定例会 議案」などをインターネットで検索すると、同時期に改正しようとしている他都市の事例がヒットすることがあります。

議案提出の時期が早い自治体では使えませんが、比較的遅い自治体であれば、かなり有用です。私も毎回できるだけ検索するようにして、改正漏れがないかなどを調べています。

うまく検索出来れば、他都市の改め文や新旧対照表をそのままパクることもできます。なお、参考にする例規の都市の規模(中核市とか指定都市とか)には注意してください。

○改正漏れを防ぐ

第一法規株式会社の法令FOCUSや株式会社ぎょうせいの法令改廃情報では、法令の改正による例規への影響を教えてくれますので、逃さずチェックしましょう。日々の官報チェックだけでは、はじめのうちは全くわかりません。

また、近隣他都市と情報交換するのも手です。当地域では、毎年近隣他都市と勉強会を開いており、各定例会ごとに、「どんな議案を出しますか?」という照会がきます。これも参考になりますので是非やってみてください。

○新規制定条例はヤバイ

新規条例の制定は大変な作業です。大きく、命令とか罰則とかの規定がない「理念条例」と、規制や罰則のある「規制条例」が主なものだと思います。前者の例は「手話条例」、後者の例は「ごみ屋敷条例」です。

新規制定の場合も、基本的にはパクリまくることになります。活躍するのは、第一法規株式会社であれば「全国例規集」、株式会社ぎょうせいであれば「政策法務支援システム」です。どちらも一長一短あるのですが、他都市の例規を調べるのに大変役立ちます。契約していない場合は、「全国条例データベースpowerd by eLen」を使います。

とにかく、参考にする条例を決めてしまったほうが楽です。当方でごみ屋敷条例を作ったときは、空家条例を参考にして、それを元に作っていきました。

改正の場合も同じですが、特に新規制定の場合は、キーワードをひたすらヒットさせていきます。例えば、「について必要な事項を定める」「次の各号に掲げる用語の意義は」など、自社の条例で使っていないか、一つ一つみていきます。

また、新規制定条例には、このような法制執務の悩みよりも、パブリックコメントや庁内の意思決定会議、議会への説明のタイミングなどの悩みがかなり大きいです。こちらの相談も多いかと思います。過去の事例を参考に答えることになりますので、過去の新規制定条例のスケジュールを2、3個持っておくとよいと思います。

○条例案が終わったら契約議案などを見る

指定都市など、大きな自治体であれば、法規担当が一般議案(単行案とか単行議決など、自治体によって呼び方は違います。契約議案や行政委員会の委員の人事議案などです。)をやることはないかと思いますが、当方では、法規担当が見ています。地方自治法第180条に基づいて専決処分を行った後の報告もやってます。

一般議案や報告で初めてやるようなものは少ないかと思いますので、こちらも誤字脱字のチェックがメインです。また、レイアウトなどの体裁は、前例を踏襲すべきです。当方は、実例がなければ昭和の時代まで遡って同じ議案を探します。なければ、他都市の議案を検索します。

○法務相談は分からないことばかり

つい先日まで、別の課の担当として相談する立場であったのに、急に相談を受ける立場になるのが法規担当です。

はっきり言って、初めて見る法令ばかりで分からないことだらけです。地方自治法もほぼ初見ではないでしょうか。法務相談は、経験がモノをいいます。3年ぐらいは、手探りです。

最初のうちは、その場で答えず、持ち帰りましょう。電話で簡単に答えるのもお勧めしません。また、相談シートを事前に出してもらうと、相手もこちらも事案が整理できてスムーズです。

持ち帰った相談は、必ず上司などに確認し、自分自身の判断のみで回答をしないようにしたほうが安全です。担当の答えが、課の答えになってしまうからです。

回答を考える際は、既存のコンテンツをうまく活用できると早く答えが見つかります。まずは、何よりもGoogleで検索です。実際、検索すればかなりの確率で解決できることがあります。

続いて、契約していれば、第一法規株式会社のコンシェルジュデスクや株式会社ぎょうせいのGovGuideを使います。行政実例が豊富ですので、地方自治法や財務の関係は、ここで答えを見つけることが多いです。

あとは、課で買っている書籍や、判例検索(D1-Law判例体系TKC)を使います。判例が見つかれば、関連の文献なども見ることができますので、勝ち確です。

○とにかく断定しない

回答はとにかくあいまいに、一般論を述べるのがお勧めです。法規担当課から言質をとりたいという所管課の思惑に負けてはなりません。

「あくまで一般論ですが」「事例によって異なりますが」「可能性は高いとは思います」「もちろん例外はあります」「そのまま当てはめることはできませんが」など、枕詞を忘れずに入れてください(意味ないことも多いですが。)。

○記録を残す

手間ですが、記録を付けるのもお勧めです。相談の結果を蓄積していくと、同じ相談がきたときに対応がスムーズです。

なお、参考までに当方では、試行的に、7~8年ぐらい、相談記録簿の共有をしていました。案件番号、区分、日にち、応対者、相談課担当者、相談内容、アドバイス、最終的な対応等といった欄を作り、その横に、課長、副課長、課長補佐などの確認欄を入れて、確認してもらうようにしていました。

○他部署を有効に活用する(12/9追加)

法務相談においては、法規担当だけで答えることには限界があります。当方では、契約書・協定書・覚書は契約部署、滞納整理関係は債権管理部署、予算・補助金関係は財政部署、決算・支払関係は会計部署、公有財産関係・庁舎管理関係・指定管理関係はファシリティ部署など、各部署に投げるようにしています。

最初のうちは、なかなか他部署に振るのも勇気がいると思いますが、「一度○○課に確認してもらって、部署が違うようでしたら再度、私(法規担当)にお尋ねください」といって、一回振ってみるとよいかと思います。

○相談は、何よりも時系列と証拠(12/9追加)

法務相談を受ける際は、ありとあらゆる資料や証拠を出してもらうようにしてください。実際、当方では、法規担当にも事実が隠されていて、回答がうまくできなかったこともあります。

相談シートを出してもらう際は、時系列に沿って、順を追って記載してもらうとよいと思います。その際、できる限り主観的な要素(「疑問に思っているようだ」「怒っていた」)は排除し、客観的に「何度も質問をされた」「こちらの質問に対して黙ってしまった」「机を2回叩いた」など、事実を記載してもらうとよいと思います。

○そういえば条例の体裁も重要だった(12/9追加)

条例のチェックで最も重要なものは誤字脱字に変わりありませんが、ほぼ同程度に重要なのが体裁です。これも、誰でも気づくことができてしまうミスだからです。

官報に載る法令の改正文には、基本的な形式(体裁)が定められており、条例もそれに倣って作られます。だいたい、文書に関する訓令(規程)などで定められているかと思います。「配字」ともいいますが、例えば、1字下げるなど、字下げの仕方などが細かく定められており、条例ごとにバラバラだと目立って(気づかれて)しまいますので注意が必要です。

○日常的な相談を減らすには(12/9追加)

まだまだお忙しいと思いますので、これからのことですが、日常的に同じような質問が多々寄せられ、その回答に時間をとられることも多いかと思います。

そのようなときに、簡単なFAQ手引などがあると質問を減らすことができます。「○○見ましたか?」というだけで結構効果があります。

当方では、文書・法務のFAQのほかに、文書事務の手引、業務で困ったときの検索・相談の仕方、公印の押し方、法令の改正等による本市の例規への影響の確認方法、インターネットで使えるリンク集などを庁内のフォルダにて共有し、これらを参照してもらうことにしています。

〇いつか研修もやってみる(12/9追加)

できれば、質問への回答について、研修等で周知できれば最高です。

当方では、

1 新規採用職員向け法務研修(前期):2時間
2 新規採用職員向け法務研修(後期):6時間
3 条文の読み方研修(2年目職員向け):3時間
4 起案文書研修(2年目職員向け):3時間
5 議会対応研修(係長級以上向け):6時間
6 地方公務員のための法務基礎研修(2~10年目向け):2日間
7 情報公開・個人情報保護研修:3時間
8 基本法務研修:6時間
9 法制執務研修・例規システム研修:3時間
10 行政手続法研修:3時間
11 行政不服審査研修・審理員研修:3時間

などを弁護士職員とともに2人でやっています。これが結構効果があって、質問も減らすことができています。

研修講師をやると法務の力が驚くほど付きます。まだ難しいかとは思いますが、今後、ぜひ時間を見つけてチャレンジしていただくことをお勧めします。

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