健康は、これを自由にそっとしておく
医者たちはただ病気を配下におくだけでは満足せず健康までも病気にして、人がどんな季節にも自分たちの支配から脱することがないようにと心掛けている。いつも変わりのない完全な健康までも、彼らは未来の大病の原因にしてしまうではないか。わたしはしばしば病気になった。わたしは彼らの助けがなくたって、わたしのいろいろな病気が、(ほとんどすべての種類を私は経験したが、)同じように耐えやすく・同じようにじきになおる・ことを知った。だから決して、病気に彼らが処方する苦味を加えなかった。健康は、これを自由にそっとしておく。わたしはこれに、自分の習慣と快楽以外には、なんらの規則も規律も加えない。どんな場所も、わたしにとっては足をとどめるに適している。まったく病気になったからといって、健康な時に必要とする安楽以外の安楽はいらないのである。医者がなく薬剤師がなく介抱がないのを、ちっとも気にしない。どうも多くの人々は、病気そのものよりも、かえってそれらのことのほうを苦にやんでいるらしい。
モンテーニュ 「エセー」