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三国志の暗号/まるでダイイング・メッセージ

佐藤大朗(ひろお)です。早稲田の大学院生(三国志の研究)です。20年弱続けた会社員生活を辞めて、博士課程の学生をやっています。

昨日は、ぼくが運営している「三国志と漢学のオンラインサロン」の第1回目の「漢文を読む会」をやりました。参加者のコメントから、いい感じの比喩(たとえ話)ができたので、メモ&シェアします。
実施日時:2025年2月28日(金)20:00~21:10

現代日本語訳では読み取れない情報

歴史書『三国志』は、陳寿というひとがまとめました。現代日本語訳が出版されているので、ぼくたち三国志ファンは、この現代日本語訳で歴史書を読むことができます。
しかし、『三国志』の文に、陳寿がこっそり込めた暗号が含まれていたら?これを現代日本語訳に写し取ると、決して誤訳ではないが、陳寿が込めた暗号を見落としてしまうとしたら?

これが「独学の限界」あるいは独学の罠です。現代日本語の翻訳があるからとりあえず読めるだろう、というのは、半分その通りなのですが、半分はそうではない。
陳寿が操っていた古代中国の学問(儒教)のコード(情報体系)は、現代日本語訳に写し取ることが難しい。翻訳者が理解していても、それを注釈・説明に付けたら、毎回長くなってしまう。出版時の物理的な都合(ページ数や販売価格)によって、削り落とさざるを得ません。

三国志が好きで、独力で歴史書の翻訳に進んだ三国志ファンは、たくさんいるでしょう(ぼくもその一人です)。それ自体が偉業であり、すごい文化レベルの高さなのだと思います。
しかし、大学院などで、独特のコードについて学ばない限り、永遠に陳寿の意図を見落とし続けます。これでは、歴史書『三国志』を「読んだ」ことにはならないのではないか。………??
そのコードについては、ちまたの「三国志」の本には載っていません。狭義の「三国志の話」ではないので。

『三国志』の本当?の意味?を深く知りたいならば、「さあ仕事を辞めて大学院に行こう!」というのは、あまりに無茶苦茶な要求です。※ぼくは仕事を辞めて大学院に行きましたが、ひとさまに要請できることではないと思っています。
このような問題意識から、コアな『三国志』ファンと、大学院で行われている研究をゆるく繋げる機会として、ぼくは先月からオンラインサロンを始めました。昨日の「漢文を読む会」で、少し機能し始めたような気がして、ちょっと嬉しいです。

『三国志』の暗号とは??

三国時代には、皇帝の殺害事件が起こりました。陳寿はそれを書き漏らすことなく、きちんと記録しています。
現代日本語訳(ちくま学芸文庫、1巻の345ページ)には、
「高貴郷公がなくなった」と書いてあります。

そうか、高貴郷公という人物が、なくなった(亡くなった)んだな。。ということで、なんの問題もないし、正確な翻訳だと思いますけど、それじゃあ歴史書『三国志』を編纂した陳寿の意図をひろえていません。

これはダイイング・メッセージに喩えられるでしょう。
推理ものの漫画などで、危害を加えられて死にゆくひとが、犯人の名前を書き残す。しかし、直接「犯人は〇〇」と書き残してはいけません。なぜなら、そのメッセージに気づいた犯人に踏み消されてしまうから。

・犯人には、犯人の名を示す情報だとバレない
・ある種の人(探偵?)には、犯人の名が伝わる
・おもに暗号が使われ、解読にはコードが必要

これがダイイング・メッセージです。このように、暗示的な伝え方であり、第三者に対する仄めかしであり、共通のコードを持ったひとが見てくれることへの漠然とした期待なので、不可避的に情報不足です。※十全に情報のありかと内容を示したら、踏み消されるから。ゆえに、

・メッセージが発見されないリスク
・複数の解釈が生まれるリスク
・誤読されるリスク(へっぽこ探偵)

これが付きものです。歴史書『三国志』に込められた暗号は、じつはこの殺害の責任がだれにあるのか(真犯人)を、真犯人およびその関係者にバレないように遺したものでした。
あるいは、真犯人の関係者に不自然さ(暗号?の存在)はバレているけれども、違う解釈もできるから黙認可か、と思わせるものでした。

この点がダイイング・メッセージと似ており、たとえば、現代日本語に翻訳されると、「メッセージが発見されない」ことになります。
歴代中国の学者たちは、複数の解釈について論じ、千年以上にわたって議論をくり返してきました。※その解釈史、論争史がおもしろい!!というのが、ぼくの大学院での研究テーマです。

詳細な読み解き、どのようなコードがあるのか、どのように議論されてきたのかは、次回の「漢文を読む会」でやります。

つぎの「漢文を読む会」は、3月10日(月)から3月14日(金)までの20時~が候補で、オンラインサロンメンバーで日程を調整中です。日程は多数決で決めていますが、徐々に曜日を固定したいです。

現代日本語の読みやすい本には、なかなか書かれていない「三国志」を読み解くための知識は、たくさんあります。独学ではあまり触れることのない情報や雰囲気に、気軽に(大きな代償を払わずに)アクセスできるようなコミュニティを目指しています。

オンラインサロンへのお誘い

日々、Discordというアプリで情報交換や雑談をしつつ、月に2回ていど、オンラインで「漢文を読む会」をやっていく予定です。

「漢文を読む会」では、皆さまの環境やご都合に合わせて、「カメラオフ」でも「マイクオフ」でも参加できます。※声出しができない方が質問やコメントがあるときは、その場でのテキストの打ち込み、もしくは事後のDiscordの書き込みにて窺っています。

noteの月額課金の決済を使っています。日割り計算ができないため、月初に入っていただくと、いちばんお得です。※今日は3月1日です
よろしくお願いします!!

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