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デッドヒート 2024年 WBS 最終戦

水を張った洗面器、先に顔を上げた方が負ける。

2024年のWBS最終戦を前にして、私の年間順位は3位であった。
最終戦にて自分が優勝し、暫定1位の大石プロが5位以下という条件でひっくり返る。
まあ試合に参加する限り、選手全員が優勝を狙うので簡単ではない。

大石プロとは利根川で行われているTBCという大会で鎬を削っていた。
先にWBSに参戦して、すぐに活躍されており、職人気質で丁寧にシャローを攻めるイメージ。
共通して言えるのは、「川を釣る自信」は自分が一番だと思っている事だろうか。

追う方も追われる方も、それぞれが抱える思い。
これは利根川経験者の二人が、おとなり霞ヶ浦の年間優勝をかけたストーリーである。

(前戦までの内容はコチラ)

この試合の模様はSDGタイムズで映像となっているが、戦術の組み立て、試合中の思考、エリアの詳細をここに記していこうと思う。

視野を広げ

WBSの試合はノンボーター選手とのペア戦なので、バックシートでも釣れる確率が高くなるように、マクロ視点で魚の濃いエリアに居続けることがキモだと思っている。

なのでプラクティスですべき事は、旬のマクロを見つけ、その中のミクロを掘り下げる作業になる。
闇雲に湖上に散らばるミクロを毎度のこと確認していたらいくら時間があっても足らないのだ。

プリプラクティスは1周間前の9月7-8日に出た。
今年は夏日が長かったせいか本湖の水温は28度とまだ高い。
しかし夜間の冷却が効いているのか流入河川は温度は低く、中でも最北部に位置する恋瀬川エリアは25度まで下がり、その温度になるとアオコは消えて水質も安定していた。

さらに中流のチャネル(メインの川筋)には、大量にベイトフィッシュが溜まっていたのだ。

恋瀬川の県道付近 赤枠にベイトが溜まっていた

ソナーを見ると、おそらくワカサギと、それを追うバスかキャットフィッシュであろう。
近年不漁ともいわれる霞ヶ浦のワカサギがこんなに溜まっているとは驚きである。

恋瀬川が旬のマクロである事は間違いない。

試しに水中の映像を見ながらルアーを投じるが、ベイトを追い回している魚に口を使わせることはできない。深追いすると時間ばかりを失いそうなのでパスする。

細部の模索

少し移動しながらチャネルに架かる県道橋周りのストラクチャーを丁寧に探ると、同船者とダブルヒットする盛況っぷり。
ワカサギの接近によってバスのテンションが上がっているようだ。
橋脚まわりには、工事の残骸や流れ着いた枝などが留まり、魚のマンションとなっていた。しかもエントランスを出ればすぐ飲食街という高条件の物件である。やはり流心に絡むカバーに寄り添っているバスが釣りやすい。

ここが今回のマクロの中のミクロだった。

霞ヶ浦でダブルヒットは初めて

他と比べて恋瀬川エリアは、流入量もあり水質の回復も早く、ベイトも集まりやすい。
そして橋脚にボートをステイさせれば、二人で四方に投げられるため効率的である。

二日間の基軸とするには十分な感触だった。

最後の準備

2DAY大会期間の週は、月~木までがオフリミット(練習禁止)で、金曜が公式練習となり土日が試合である。
今回は試合前日の公式練習はしなかった。
半日ぐらいなら出来たが、慌ただしい一日を過ごすくらいなら、ゆっくり体を休める選択をした。大会中にボーっとしたりするよりは良い。

意気込みも不思議といつも通りだった。
条件戦が付きつけられ、優勝しか望みがない時に「フルスイングしてきます!」なんて3年前の自分なら保険を掛けていたかもしれない。釣れなくてもやり切った結果だって言えるからね。さらに魅せる釣りでセンセーショナルに勝ったらカッコいいもん。

でも今は違う。
微差でも勝てる戦略を組み、結果にこだわる様になった。
年間レースのトップ集団にいるが、最後まで息を吐いてはダメなんだ。

1日目(初日)

日中に体を使って夜は熟睡する予定だったのに、緊張していたせいか浅い眠りになってしまった。
道中では不安に押しつぶされそうだったが、会場入りし朝日を見ると吹き飛んだ。

この朝日が闘争心を昂らせる

この日の予報では風は吹いても4m/sくらいであった。比較的自由に動ける。
計画としては最終目的地は恋瀬川とするが、途中に霞ケ浦大橋付近のブッシュに立ち寄るつもりだった。
このブッシュは自分の持つミクロであり、その日のバロメーターを測る目的もあった。
そこでフロッグに甘噛みバイトが出たが単発と判断し深追いせず、軌道を戻す。

なかなかの距離

計画通り恋瀬川の橋脚に到着するが既に上流には4艇程見える。
恋瀬川は去年の優勝エリアでもあるので、それなりのバッティングは覚悟していたが、上流のJR鉄橋付近が人気のため自分に影響はない。

水を見ると、今までになく茶色の灰汁で濁っている。
本湖から押し寄せられたのか、風がなく淀んだ結果なのかはわからない。
ソナーに移るベイトフィッシュも、規模が小さくなっている。
これがマイナス要素となるかはやってみないとわからない。

実釣開始してから数時間はキャットフィッシュの連発だった。
濁りに強いのかわからないが、とにかく釣れた。
今回の動画において、全てのフックアップ直後のリアクションが薄いのは、「またキャットフィッシュかもなぁ」が頭をよぎっているからである。

魚が入れ替わってしまったのか?
なにか次の行動をしなければいけないと焦りを感じていた矢先、そよそよと風が吹き始めて水面を覆っていた濁りが攪拌されて綺麗になってきた。
そしてバックシートからの声が聞こえる。

「よっしゃバスだ!」

このストーリーの主演男優賞はパートナーの篠崎君である。
彼は最終戦を迎える時点でPOY(パートナーオブザイヤー)の1位であった。
この1匹には船中が安堵した。

「いるよ、いるいる」
ほどなくして私のサイコロラバーのダウンショットが吸い込まれる。
リフトして見えた魚体はバスだ。
なのに、なのに何故・・・マス針なのに抜き上げようとし、ヘッドシェイクで針は外れてしまった。
きっと主演は渡さないという意思が働いたのだろう。
(動画ではカットしてくれていた笑)

しまったな・・・とは思ったが、
「ミスは織り込み済み」
「僕らはポテンシャルの高い場所にいる」
と言い聞かせ、メンタルの崩壊や、船中の雰囲気を悪化させない様に務めた。

するとまたしても主演のロッドが弧を描いている。
橋脚の基礎から剥がした魚は2kg超えで、たらふくベイトを食べてそうなプロポーションのスーパーキッカーだった。

2,180gは初日のビッグフィッシュ賞

その後はもう1本追加したいと橋脚から少し離れたところまで往来を繰り返したが、残念ながら初日はタイムアップとなった。

初日 3,070g 5位 写真:WBS

初日の結果は、2本で3,070gで5位スタートとなった。
練習から活発に動いてるバスのウェイトが500gから700gだったので、この試合は2日間10本で7,000gが優勝ラインと読んでいた。
単日で目標の3,500gには満たなかったが、トップとは-510gで、予想通りのウェイトになっている。
明日は3,500gから4,000gを釣ってくれば勝負になりそうだ。
あのエリアを釣りきってしまった感覚はなく、まだまだポテンシャルはあるだろう。

2日目(最終日)

荒れる前の土浦新港 写真:WBS

今日は南の強風予報が出ている。
カメラマンを乗せると操船のレスポンスが鈍くなるので、荒れ方次第では帰着出来ないかもしれない。
しかし行かなかったら絶対後悔する。
2人に「帰りはわからないけど行きます」とだけ伝えてアクセルを開けた。
声は聞こえなかったが、その眼差しから「もちろん」とは伝わった。

寄り道せずに恋瀬川河口に到着すると大きく息をついてハイピッチャー3/8ozを手に取る。
ゆっくりと橋脚付近まで釣り上がると、今度はHPシャッドテール2.5”ダウンショットを沈むカバーに丁寧に送り込む。
しかし昨日と比べ水はかなり綺麗になっており、キャットフィッシュさえ反応しない。

しかし焦る気持ちはなかった。
このスポットの多くのバスは、動き回ったりカバーに入ったりを繰り返しているはずなので、チャンスは必ずやってくる。

そして口火を切ったのはまたしても篠崎君から。
07時00分のジャストキーパーに始まり、07時40分には私もHP3DWacky5”のネコリグで2本目をライブウェルに収める。

タイミングよくオフィシャル撮影 写真:WBS

しかしこの後1時間ほど沈黙が訪れる。
風も強くなってきた。
マクロは変えたくないが、ミクロを変えたい。

ふと昨年の練習の時に見つけていた、橋脚から少し上流の川中にある変化を思い出した。
誘われるように移動し、ソナーを見ると杭に魚影がちらほら見える。
09時30分の3本目は、フォールさせた私のドライブクローラー4.5”ネコリグに反応し、軽くロッドをあおるとバイトしてきた。

チャネルに絡む杭に魚が集まる 引用:SDGタイムズ
川の断面 杭を境にチャネルと浅瀬に分かれている

「まだいるよココ」
リアデッキに立つ篠崎君をフロントに呼んで、二人で連杭に絡めるようにアプローチを繰り返す。

09時55分の4本目は篠崎君のダウンショットであった。
私が操船している間にルアーやシンカーの重さを調整し、ばっちりハマるセッティングを見つけていたみたいだ。POYは自分で獲るという気迫が感じられる。

まだまだ彼の連発は止まらない。
リミットメイクをした10時30分の5本目は、根掛りが外れた瞬間に食いついてきたキロアップである。

これでライブウェルにはおよそ3,200gが収まった。
1匹目のミニマムを入れ替えたい思いで二人黙々とキャストを続けるが、時間は無情にも経過する。
さらに風も強くなり、万全を期して早めに会場方面に向かうことにした。

霞ケ浦大橋を越えると予報通りの強風が吹いている。
練習で一人で運転している時とは訳が違い、3人の荷物満載+ライブウェル満水で走る荒れた霞ケ浦は、文字通り洗礼を浴びさせてくれた。
ゆっくりドンブラコで風裏まで到達し胸を撫でおろし、そのまま会場の隣の桜川に移動して最後の望みを託す。

実は初日の帰着間際にも桜川で獲り損ねていた。
日が高くなる正午付近、インサイドの浅い砂地に沈む流木にバスは身を寄せるイメージが明確にあった。

そしてここぞという流木で私のドライブショット4”がひったくられるが、すっぽ抜けてしまう。しかし間髪入れず篠崎君のフォローが実り、無事キャッチに成功。
300g程のウェイトアップを達成した後は二人でしばし放心状態になってしまった。
ストーリーは二人で作る、ペア戦の醍醐味はここにあり。

運命の時

ベストを尽くしての帰着 写真:WBS

「自信と不安」
魚を持って帰着した時の心情を日常生活で例えると何だろう。
合格発表の掲示板から受験番号を探した学生時代以来かな?
そんな心が動かされるような体験はなかなか味わえない。

最終戦にて年間上位5組は強制的にトレーラーウェインとなる。
ディレクターに告げられた順番は後ろから2番目であった。

そしてイベントカー前までトレーラーを移動すると、既に検量が終わったライバルの大石プロそのままホットシート(大会暫定1位のイス)に座っていた。
大石プロが3位以上であることが確定しているのでその時点で年間優勝が無くなっているのだが、当時は頭が混乱して最終戦の結果しか見えていなかった。
そして我がチームの検量の番でコールされたウェイトは3,495gで暫定1位更新となった。ホットシートに座る大石プロと握手して入れ替わり、目を閉じてやっと状況を理解し始める。
年間優勝が達成出来なかった落胆と、最後の富村プロの検量でこの最終戦の勝者が決まるという期待と・・・情緒の整理が追い付かない。

頭の整理が出来ないままのウェイン 写真:WBS

そして富村プロのウェイトがコールされ、逆転に満たない事が明らかになると私の両手は自然と空に向けて突きあがっていた。

その日の優勝が純粋に嬉しかった 写真:さくら

この物語は終わらない

篠崎君はPOYを死守 クラシックも出場決定 写真:WBS

今シーズン戦を終えてみれば、
初戦  2位
2戦   4位
3戦 14位
4戦   5位
最終戦 1位
と納得出来る結果だった。
自分が最終戦優勝という試合前の条件は達成できたが、5位以上が安全圏のところ2位に入った大石プロについては、「強かった」の一言である。
自分が追われる立場だったらプレッシャーで潰れていただろう。
思えば今年の初戦に小野川で戦って敗れ、優勝と準優勝をマークしたところからこのストーリーは始まっていた。

追いつくも振り切られたAOY 写真:WBS

またAOYレースに参加にしたい。
戦い方も理解し、ルートは確実に見えた。
来年に向けて準備を進めていこう。

こうしてレギュラーシーズンは幕を下ろしたが、まだクラシックというポスト戦が残っている。11月2-3日はもう一度「勝ち」を強く意識した戦略を持って挑んでいきたい。

こんな私ですが、皆さま今後とも応援よろしくお願いします。

おわり


Special Thanks:
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LINESYSTEM ZALT'S

BOAT:CHARGER 198ELITE
LURES: O.S.P
LINES: ZALT'S

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