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世界選手権で勝つために必要なこと 2/2

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・スピード

 世界選手権開催中(2024年9月15日)、台湾の黄コーチ(現在中国ナショナルチームコーチ、WORLD SKATEスピード委員)に相談しました。

 黄コーチは台湾・高雄の人で、もともと自身も選手でしたが、引退後コーチとして沢山の世界チャンピオン、アジアチャンピオンを育ててきました。2010年代からは台湾だけに留まらずアジア全体の底上げを考えて海外選手を積極的に受け入れ、アジア地域のレベルアップに大きく寄与してきました。国籍問わず情熱的に指導してくれています。

 僕自身もそこに参加した縁もあり、日本でのクリニック開催や、今後の取り組みについて話をしました。

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戸取:
 現在、日本の選手と世界との間には大きなギャップがある。この5年は特に差が拡がっていて、僕らも出来る努力はしてきたつもりだが、差はむしろ大きくなった。今僕らは手詰まりだ。目一杯やったとしても差が縮まるようには思えない。何かが間違っているのだろうが、何をどう変えれば前進できるのか全くわからない。

黄コーチ:
 良いトラックが必要だ。速いトラックだ。
私が日本へ行ってクリニックをやることは出来るが、教えられるのはテクニックだけだ。(前段として、日本へ来て教えてくれないかと相談していた)
 日本にあるトラックは(註:江戸川リンクのこと)スリップしやすく、形状も速度が出ない。どんなに努力しても速い速度を出すことが出来ない。速い速度でトレーニングしないと速いレースには対応できない。日本の選手は努力しているし、フィジカルも弱くないが、速度を出したことがないからレースが出来ない。

 それから、とにかくレースに出ることだ。
 10年前、私は台湾チームを率いてよく海外のレースに行っていただろう?
レース経験を沢山積むこと。レースの中でしかそれは得られない。
ただそれにはお金がかかる、当然。親御さんがどこまでやりたいか次第だ。

 インラインスケートは未来が見えないスポーツだ。オリンピックはないし、成績を残しても評価されない。世界選手権でさえ、勝ったとしても何も変わらない。

 今私は中国に拠点を移している。
 インラインスケートに未来が見えないのは中国でも同じだ。だからアイススケートと協調することにした。アイススケートにはオリンピックがあり、資金もある。政府からの援助も手厚い。
 前回の冬季五輪で勝ったロングの選手、ショートの選手はインラインの選手だ。インラインは夏場のトレーニング、強化にさいてきで、冬しか氷に乗れないアイスに対して夏中トレーニングできる。それにインラインの選手はタフだ。
 インラインは人材を提供し、アイスから資金を得る。このサイクルで中国はやっている。今(2024年9月現在)に世界選手権に出ている選手もこれが終わったらアイスに移る。

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黄コーチ:
 トラックに関してはすぐに造ることはできないのはわかっている。今現在の選手は台湾に来ると良い。速いトラックがあるし、速い台湾の選手も一緒に走ってくれる。
 インドネシアは今ナショナル大会中(2024年9月PONのこと)だが、彼らもこの間までトレーニングに来ていた。みんな熱心だ。11月の大会(註:台湾オープン)の前、1週間くらい来れたら一緒に出来るよ。

持てる国と持たざる国

戸取(後日)
 黄コーチのサジェストには思い当たるところがあります。過去の自分や、海外に渡ってきた邦人選手の成長は確かにその傾向がありました。

 また諸外国を「速いトラックのある国と無い国」に分けると見えてくるものがあります。昔と今の違いは「トラックの有無」と言えるかもしれません。昔よりもトラックの存在の意味、ウェイトが大きくなっているということです。

 例えばアメリカの低迷と復調、台湾の強さ、韓国の強さ、インドネシアの成長と躍進、そして持たない国の停滞。日本、香港、ベトナム、タイ、ハンガリー。トラックが整備されてきたチェコはこの10年の躍進ぶりは世界一と言えます。アメリカにはようやくVesmacoのトラックが新設されました(2023年フロリダ)。

 では持たざる国はどうしたら良いのかというと、インドネシアを見てみると、高速リンクが出来あがるまでは台湾へ毎年合宿に行って成長してきました。中国もかつては韓国へチームで合宿に行きトレーニングしていました。後にGuo Dan という世界チャンピオン、Harry Hoというアジアチャンピオンを生み出し、今や各地に高速トラックを造り、現在世界選手権では常にトップグループにいます。世界選手権のような大会で戦うには速いトラックで速いトレーニングを積むことが最低限のラインになるのではないでしょうか。
 


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