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羅生門・ゆれる

※ネタバレする。

きのうも一日中フジテレビの会見ネタで、ついつい見ながらも「こんな無為な過ごし方もないなぁ」と思い、Netflixで黒澤明の「羅生門」を見た。私は古い映画、特にモノクロームが好きだ。

黒澤映画に特に思い入れはなく(天国と地獄は好き)何本か観ているはずなのに記憶がない。なんだか暗くて雨でびしょびしょで、打ち捨てられた旗の上を馬が走って行く。そんな印象しか残っていないのも無理はなく、昔浅草のオールナイトで見たきりだからだ。当時、浅草にはかつての栄華を感じさせる古い映画館がいくつか残っており、オールナイト上映は始発を待つのにぴったりだった。冬場は寒さを凌ぐため、スクリーンの前にホームレスがダンボールを敷いて寝ている。劇場主が温情で迎え入れていたのだろうか。私たちはホームレスの香りを避けて後ろの方に座る。焼酎濃いめの安酒のせいで、すぐに眠くなる。

当時の浅草は「終わった街」だった。野毛などは「もっと終わった街」だった。私はその寂れ具合が好きで通っていたから、今の繁栄っぷりには驚くばかりだ。寂れ切って無くなるよりはいいが、ツンツルテンの見知らぬ街にはなってほしくない。

「羅生門」は三船敏郎演ずる盗賊が夫とともに通りすがった京マチ子を襲い、お役人に取っ捕まるという話だ。
何しろ三船敏郎が野猿のようにワイルド。ド派手な演技でこりゃあ海外でも話題になるわけだ、と思う。それに対して京マチ子は映画の7割ぐらいは「ヨヨヨ…」と泣き崩れ、日本女性のかよわさを演じている。可哀想に…とも思うし、この女!とも思う。証言者の意見が食い違って真相が見えない。困った挙句に亡くなった夫の霊を降ろすのだが…。

この中に登場する日本映画史上でも珍しいと思われるへっぴり腰の殺陣が秀逸だ。人間いざとなったらこんなもんかもしれない。男も女も霊魂もバラバラの話をし、真実がどうなのかは語られない。ただ「人の心は恐ろしい」ということだけが、ひしひしと伝わってくる。

この映画を見て思い出したのは西川美和監督の「ゆれる」である。この映画もハッキリとした答えは得られないのだが、登場人物と共に揺れつづける感じが悪くない。深い渓谷と吊り橋がモチーフとなっており、深層心理を探られるような不思議さがある。ちなみにこの映画のオダギリジョーは抜群にエロいので、それだけでも観る価値はある。揺れたい人は是非。


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